暗転 其の壱

アーリーン 成長したわね、りぃ。手にしてるグリモアを見れば一目瞭然よ。
りぃ やったぁ。

アーリーン …………。実は、あなたを見込んでお願いがあるの。危険だから断ってもいいのよ。でも、同門の助けがどうしても必要なの。……お願い、聞いてもらえないかしら?
りぃ もちろんいいよ。

アーリーン ありがとう。でも、ここで話すのは……。そうだわ、あたしについてきて。

こんなところまで。
絶対に聞かれたくない内容なのね。

アーリーン 実は、連合軍の魔道士が忽然と失踪する事件が相次いでいるの。ううん、戦場ではなくて、基地や野営でよ。しかも、2件や3件じゃない。バストゥーク、サンドリア、ウィンダスの各軍で、同様の事件が数十件もよ。
りぃ ええっ!?

アーリーン 最初は脱走かと思われたのだけど、とてもそんな数じゃない。失踪する動機だってない人がほとんどだった。

しかも魔道士ばかり?
確実に狙われているのでは。

アーリーン さすがに各国の治安部隊も動いてはいたのだけど、連合軍だって結成されたばかり。情報共有さえままならないのが現状なの。

アーリーン そこで国家を越えて同門の連絡網が発達している、あたしたち軍学者に、軍から白羽が立てられたってわけ。

なるほど。

アーリーン 首府バストゥークではアーデルハイト参謀総長の意を受けてあたしが捜査にあたっているわ。

アーデルハイト!
フェイスの人だ!!

えーっと、共和国軍参謀総長でカンパニエにも出陣してるのか。
すごい人だったのね??

アーリーン ほかに捜査にあたっているのは、王都サンドリアはマーシュディオ。聖都ウィンダスはフェン・ラクリフェル。デルフラントは、レーナ。アラゴーニュは、ナルクク。

アーリーン ノルバレンはあなたも顔見知りのウルブレヒトが担当よ。まぁ普段はあんなだけど、こういうときは頼りになるわ。

そうなんだ。

アーリーン 各々が、この一連の事件の捜査情報を軍から引き継いで、各地で精査中よ。

アーリーン あなたには、その彼らのサポートをお願いしたいの。
りぃ うん。

アーリーン そうだわ。もうすぐ、それぞれの事件の因果関係を解明するため、各国の捜査担当者がこれまでに得た情報を持ち寄り、捜査会議を開くらしいの。

アーリーン 会議の場所は王都サンドリアよ。あたしは他に大事な所用があるから、参加できないの。早速で悪いけど、代理で出席してもらえないかしら?
りぃ わかった。

アーリーン それじゃ、りぃ。頼りにしてるわ。なにかあれば、あたしに連絡を。

サンドリアに来たぞーい。

レーナ ねぇ、彼女じゃない?

デルフラント担当のレーナだ。

ウルブレヒト ん?おっ! …………じゃないか!

ん?
名前忘れた感じ?

マーシュディオ Machudiaux おいおい、ウルブレヒト。弟弟子なんだろ?名前くらい覚えてやれよ。

サンドリア担当のマーシュディオ。

ナルクク Nalkuku どうせ、わざとよ。ツッコむだけムダよ、ムダ。ほんと、これじゃアーリーンも苦労が絶えないわね。

アラゴーニュ担当のナルクク。

ウルブレヒト 手厳しいな~、同志諸君。僕の弟弟子ということは君らの弟弟子でもあるんだぞ?そんな、自分は関係ないですって態度はいかがなものかと思うけどね?

ウルブレヒト しかし、思ってたより到着が早かったな、りぃ。
りぃ そう?

マーシュディオ ……ところでその新弟子すら到着したというのにいったい、フェンはどうしたんだ?聖都ウィンダスからの長旅とはいえ、いくらなんでも時間がかかりすぎなんじゃないか?

ウィンダス担当のフェン・ラクリフェルね。
名前からしてミスラかな。

ウルブレヒト 聞いたとおりだ。だいぶ前に会議の召集をかけたにもかかわらず急きょ代行となった君より遅れている者がいる。我々は早急に行動に出る必要がありそうだ。故に、君には現況を簡潔に説明しておこう。

ウルブレヒト 初動捜査を行った各国の治安部隊は「来たるべき決戦における我が軍の決定力を削ぐため、敵が魔道士を闇討している」多くがそう推論を立てていた。

レーナ Lena だけど、調べていくうちに獣人軍の手口とは明らかに異なる……そう、事件の裏の「意図」らしきものが見え隠れしてきた。

ナルクク そこで、私たち軍学者の出番となったの。各国の要職にパイプがあるし敵……ううん、犯人の手の内を読む専門家でもあるからね。

マーシュディオ で、我々が各地で集めた情報を、この会議で持ち寄り、分析すれば自ずと犯人像は見えてくるはずだった……。だが、大切なピースが1つ欠けちまった。パズルの大切なピースが1つな……。
レーナ ちょっと、フェンの身になにかあったとでも言うつもり!?

ウルブレヒト 結論を出すのは早いさ。戦域は日々拡大し、もはや両大陸に安全な道など存在しないのは確かだ。

ウルブレヒト それに、フェンだっていやしくも先生の高弟だ。直伝の遁術だって身につけてるだろ。それに賭けようじゃないか。
ナルクク うん、そうだね。
マーシュディオ ……で、どうするつもりだ?

ウルブレヒト いったん会議は中止し聖都からここまでのルートをしらみつぶしに調べる。それしか、方法はないんじゃないかな?
レーナ ……決まりね。

ウルブレヒト というわけで、りぃ。旅塵を落とす間もなく、すまないが、君は戻ってアーリーンに事情を説明してくれ。その後は君もフェンの捜索を手伝ってくれ。おそらく、ソロムグ原野で落ち合えるだろう。じゃ、頼んだからな。
りぃ わかった。