暗転 其の弐

アーリーン りぃ?いったい、会議はどうしたの?……なにか不測の事態が起きたのね。
りぃ かくかくしかじか。

アーリーン なんてこと!!フェンが行方不明だなんて……もし、一連の魔道士失踪と関係があるなら、あたしたち軍学者も魔法を使うという点では、共通項があるわね……

学者の被害は初めてなのか。

アーリーン これからはあたしたちも、ひとりで行動するのは避けた方がよさそうね……。でも彼ら、みんな頭脳は優秀だけど、困ったことに、そろいもそろって自信家なのよね。ウルブレヒトなんて、その典型……。

まぁ、そうでないと軍学者はできないのかもしれない。
むしろアーリーンが特殊なのかな。

アーリーン りぃ。あなたはまだ学者として顔を知られていないから少しは安全だわ。合流したら、みんなに一人歩きさせないよう注意して。いいこと?あなたもよ……。

アーリーンに報告したからソロムグに来たよ。

ウルブレヒト 早かったな、りぃ。
りぃ そう?

ウルブレヒト ちょうどよかった。僕らは、先行してここら近辺を守る兵士に聞き込みを行っていた、マーシュディオを待っていたところさ。そろそろ、戻るころだと……。

ウルブレヒト お、来たきた。

  

マーシュディオ フェンがこの原野に入ったところまでの足どりは兵士の証言で確認できたぞ。
レーナ 王都からここまでかなり聞き込みもしたし、怪しい場所も調べたけれど、手がかりは一切なかった。フェンが消息を絶ったのはこの原野のどこかである公算が大きいわね。

ナルクク 少なくともこの広大な原野のどこかにフェンはいる……きっとよ。さあ、手分けして捜しましょう。

マーシュディオ ふん、そういって手柄を独り占めする気じゃなかろうな?
ナルクク ふふん。安い口車になんか乗らない主義ですけど、今回だけ特別に勝負してさしあげてもよろしくてよ、マーシュディオ?

マーシュディオ ほぅ、ちびっコが毎度のことながら威勢だけはいいが……たったいま、そのだんごっ鼻をへし折ってやろうか?

レーナ あーあ。また始まった。ナルククと彼なにかにつけて、すぐ喧嘩を始めちゃうのよね。
りぃ えぇ…。

痴話げんかなの?

止めるかどうするか選択肢出たけど、犬も食わないんだから首を突っ込まない方がいいのでは。

ウルブレヒト おっと、ストップ。放っておけ。火に油を注ぐだけだ。しばらく時間をおいて、ほとぼりが冷めたころどこかで合流すればいいさ。

うん。ほっとこう。

レーナ 冗談でしょ?ここで言い争うのは時間のロスだわ。さっさとやめさせて、フェンを手分けして捜しましょう。

ウルブレヒト 了解。そうと決まれば……。

アッサリ負けとる。

ウルブレヒト おい、おふたりさん。にらみ合いはそのへんにしてナルククの言うとおり、手分けしてフェンを捜そう。

ナルククひとりで走って行っちゃった。

レーナ えっと、りぃ。……だったかしら?
りぃ うん。

レーナ 同門の先輩からの忠告よ。ここが防壁の内側だからって油断しないで。
りぃ うん。わかった。

レーナ じゃあ、また後でね。

ウルブレヒト ……さて、と。僕もボチボチ行くとしますかね。

  

 ひとりになってしまった……。
 とりあえず、なにか残された
 手がかりはないか、周囲を探ってみよう。

はっ!
アーリーンからひとりになったらダメって言われてたんだった!

全員ひとりになっちゃったよ!!

仕方ないから探索するか…。

瓦礫の上に小石が規則的に並んでいる。

むむ?
もうちょっと調べてみるよ。

うむうむ。

うーん?

りぃ おおっ!?

りぃ ひぃえええ!?

ここは…?

??? : ……りぃ。さすがだな。君もアレに気づいたわけだ。

ん?

あ、ウルブレヒト。

ウルブレヒト だが、すでにマーシュディオが……。ひと足くるのが遅かったようだ。
りぃ えっ!?

死…?

ウルブレヒト 地脈を利用した一種の移送陣。それがこの洞へと通じていたようだね。幾重もの地層……そして群生する仙人掌や多肉植物。ここは「ゴユの空洞」と呼ばれる場所に相違ない。

ゴユの空洞…。

ウルブレヒト そして……一連の失踪した魔道士たちが行き着いた場でもある。見ろよ、この深い崖。ここからじゃ底が見えないだろ?隠すには、もってこいの場所ってことなのさ。
りぃ まさか…。

ウルブレヒト おいおい……なにをだって?

ウルブレヒト 弟弟子くん、しっかりしてくれよ。君も学者の端くれならわかるだろ?失踪者の屍だよ。

ウルブレヒト そう……りぃ、君を含めた……なっ!

りぃ !!!

ウルブレヒトが…犯人!!

ウルブレヒト どれ、できの悪い弟弟子に兄弟子が教えてやるとしよう。グリモアはな、魔道士の血を吸わせることで、より魔道書としての本来の力を発揮できるのさ。

それって妖刀の類と一緒。
本来の力じゃなくて、別の力なのでは!?

ウルブレヒト 最初のころは、苦労して獣人の魔道士を捕らえては、血を試したものさ。ヤグード、オーク、その他、いろいろとね……。けれど、うまくはいかなかった。まあ……いま、思えば当然さ。

ウルブレヒト グリモアに書かれた魔文字を解しない者の血を吸わせたところでいったいなにになる?そして、あるとき施療院に忍び込み、戦闘で重症を負った魔道士の傷口にグリモアを浸してみたら、これがどんぴしゃさ!

ウルブレヒト グリモアの魔文字が、真っ赤に輝きだしたんだから。後は……ご想像のとおりだよ。

狂ってしまってる…。

ウルブレヒト グリモアの各頁に適応する血の種類を嗅ぎわけられるようになるまでには、少々苦労したけどね。嬉しい誤算もあった。捜査のお鉢が僕ら軍学者に回ってきたことさ。おかげで、さらに良質な血の狩場が増えたよ。

1ページごとに違う人を…。

ウルブレヒト うん?他の軍学者が君を助けに来るとでも?ふふ、残念なお知らせだよ。そこに転がってる、マーシュディオが最後さ。

ウルブレヒト いまごろはひと足先に退場したフェンたちと、仲良くあの世で戦術談義に花を咲かせているころだろうよ。
りぃ なんてことを…。

ウルブレヒト それにしても同門の友を手にかけるのは胸が痛い。いくら、大義のためとはいえね。

大義?
一体何をやろうとしてるんだ。

シュルツ宛の手紙に書いてたことなのかな。

ウルブレヒト 特に君だ、りぃ。目覚ましい成長を遂げつつあった……。でもね、安心してくれ。ムダ死にではないんだ。

ウルブレヒト だって、君は僕の偉大なる学究の糧となるのだから!

動けない。
ヤバい…!!

!?

今の何!?

ウルブレヒト くっ、いまのはいったい……!?

何の模様だろう。
見覚えが無いなぁ。

はっ。
未来から来たから、何かの力で守られてる?

ウルブレヒト まぁいい。真のグリモアの完成も間近だ。そうすれば、僕は「あの人」に近づける!そして、遥かなる高みに。

逃げた…。

あの人ってのはシュルツのことだろうな。

シュルツが魔物みたいなのと共存してたのは、真のグリモアとやらを完成させたから?
そしてウルブレヒトはそれに気づいてるのね。

人知を超えた力を手に入れたい。
みたいな感じなのかな。

うーん、とりあえずアーリーンに報告しなきゃ…。

だいじなもの:ウルブレヒトの帽子を手にいれた!

アーリーン ちょっ、どうしたの!?酷い表情よ、りぃ!いったいなにがあったというの……。
りぃ 実は…。

アーリーン そんな……まさか。門下生も全員だなんて……。そうだわ!ウルブレヒトは!?まさか、彼まで一緒に……!

  
選択肢が出た。
ここは真実を告げないといけないでしょう…。

アーリーンも狙われる確率高いしね。

アーリーン これは……?ウルブレヒトの帽子……。あのバカ……。どういうことよ、あいつ。

アーリーン ああ、ごめんなさい。あたしが取り乱したら……ダメ、よね。

取り乱さない方が無理よ。

アーリーン 現場は、ゴユの空洞ね。あそこを捜すには……人手が要るわね。あたしは一度、アーデルハイトさんに連絡を……

??? : お話中のところ、失礼。

ん?
アルマター機関の人?

ナグモラーダ 連合参謀本部から来ました。ナグモラーダと申します。少々お話を伺いたいが、よろしいか?

りぃ ナッ……!

グモラーダじゃねぇか!!

アーリーン 連合参謀本部……まさか?
ナグモラーダ 出立の準備もあるでしょう。私どもは外でお待ちしております。

つまり、連行すると。

連合軍として来たのか、アルマター機関として来たのか…?

アーリーン りぃ、これを。あなた用のスカラーブレーサー。こんなときに渡すことになって残念だけど。
りぃ ありがとう。

アーリーン あたしはこれから参謀本部に向かうから日を改めてまたきてもらえる?
りぃ うん。

アーリーン ごめんなさいね。それじゃ、また……。
りぃ 気をつけて…。

スカラーブレーサーを手にいれた!