ググリュー洋を航行中の機船から連絡がありました。およそ50隻からなる飛空艇隊が、我が国に向けて進撃中とのことです。
……いよいよ、来たか。
やはり、先ほど操作室の天盤に映し出された無数の光点はそれだったようだなガッサド?
御意。艇隊はかなり艇間距離をとって、ゆっくり進んでいる模様です。巨人の主砲を恐れてのことでしょう。
やれるか?
前回は主砲を集束させましたが今回はできるだけ引き寄せて発散させましょう。おそらく艇隊を、一網打尽にできるかと……。
いずれにしろ、主砲の充填にはもうしばらくの御猶予を。
構わぬ……。アレキサンダーは贄を欲しているようだ。じっくり待とうではないか、その時を。
……来たか。遅かったな、ナシュメラ。
……わたし、兄さまと話し合いたいことがあってきたの。
ほう……しかし、傭兵づれとは穏やかではないな。
りぃはわたしの友人よ。だから、ついてきてもらったの。
いいだろう……。話を聞こうか?
……もう、その人形を争いの道具に使うのは、やめてください。
フッ。なにを言いだすかと思えば……。
ナシュメラ、お前だって機関巨人の完成をずっと心待ちにしていたではないか……。
確かにそうだった……でも、りぃやルザフと出会いわたしは、いろいろなことを知ったの。
その人形を使ってアレキサンダーを降臨させてしまうとラグナロクが起きてしまうのよ!そうしたら皇国も、アルザダール文明みたいに一夜にして滅んでしまうって……。
…………。
情けないぞ、ナシュメラ。いまだ、冥界の亡者に毒されたままか?ラグナロクなどと……。
アレキサンダーの神威がウルグームをあまねく照らした、その時こそ真の平和が皇国にもたらされる。それが審判の日だ。ラグナロクなど、その失敗例に過ぎぬ。
なるほど、失敗したのがラグナロクか。
でも、成功したらアトルガン皇国以外の国はボッコボコよね。
安心するがいい。この巨人の心臓たる魔笛はすべて、我が皇国の現代技術の粋を集め完成させたもの……アルザダールの轍は踏まぬよ。
兄さま!人が神を御せると本気で思ってるの?ううん、たとえできたとしたって、神から与えられる平和なんて……そんなの、まやかしよ。
アトルガンは……いえすべての国は、個々の人間が形づくっているもの。平和だって国と国が協力し合って初めて価値があるものじゃなくて?
神さまは、その人間の努力を認めて、祝福してくださるのよ。
言うようになったな、ナシュメラ。だが、それは理想に過ぎん……。
本当、アフマウすごく成長したね。
お前も知ってのとおり我が皇国は疲弊しているのだ。もはや、かつての大国としての威信は衰え、諸外国や蛮族は虎視眈々と付け入る隙を窺っている……このままでは民が餓えるのも、そう先のことではあるまい。
そのためには多少の犠牲は、やむを得ぬと知れ。
うーん、それは…。
兄さま、お願いよ!ここにいるりぃだってきっと協力してくれるわ、だから……もう一度、中の国と交渉を!
……もう遅い。西の諸国は大飛空艇隊を差し向けて我が国の領空を侵犯してきている。
!!
あれを放置すればアルザビは火の海に包まれるのは必定……数多の皇国民が犠牲となるだろう。
すべてが動き出してしまった後なのだ。もう、止められぬ……お前にも、私にも……。
いや、ゆっくり向かってるんでしょ?
飛空艇落とされたのは分かったから手遅れにならないうちに出発したけど、ルザフと聖皇を救出できたのかどうかの連絡を待ってるんじゃないのかなぁ。
まだ本気でドンパチやるつもりじゃないよ。
……でも!
ナシュメラ。私は、後世に悪名を残すことを厭わぬ覚悟だ。もはや、お前は預かりしらぬことと思え。
……だが、今はこれ以上の邪魔だては許さん。
兄さま……!
巨人に乗り込んだ。
……りぃ。聞いて。残念だけど、兄さまの説得に失敗したわ……。
うん…。
けれど、あの機関巨人にふたたび聖なる矢を撃たせてはいけないのよ。
撃つときは中の国の飛空艇団に向けてになるだろうから、その時は世界大戦の始まりね。
(あそこでガッサドが操作している箱が見える?わたしは、あの箱に見覚えがあるの。)
すんごいでっかいよね。
(……あれは、巨人の操縦を外部からサポートする、からくり士のストリンガーにあたるものよ。あの箱さえ奪えればおそらく、機関巨人を外部からコントロールできると思う。)
中と外の両方から操作しないと動かないの?
なんだかあまり実用的じゃないなぁ。
アレキサンダーが降臨したら勝手に動くだろうから問題ないのかな。
(お願い、りぃ。兄さまたちの注意を引きつけていて!)
わかった。
スイッチが入った。
眼が光ったァ!
なんのつもりだ、ご友人……。貴様にできることなど、最早なにもあるまい?
えーっと、やぁやぁ我こそは中の国ウィンダス連邦所属の冒険者りぃ…。
……ラウバーン。
御意。
うおお、なんだ?
いつぞや私が言ったことを覚えているな?貴様は、その真実を垣間見てしまったようだ。
いつぞや?
…青魔道士クエの時か!
りぃ。故に、ここが貴様の終着点だ!