古寺の所縁 其の弐

メネジン ……変わらぬな。こいつは……。

あの光ってるのが魔笛よね?
ずいぶん小さいのね。

アフマウ あのとき、以来ね……。

アフマウ 毎日、毎日、お勉強……兄さまからの手紙も来なくなって……。辛くって、苦しくて逃げたくなって……

メネジン ……この堂に、……逃げ込んだのだったな……。

アフマウ メネジンと……
メネジン ……アヴゼンと。

アフマウ くるくる回っている魔笛を見ていたら、なんだか気持ちが落ちついたの。優しい、不思議な力に包まれてる気がして。

アストラル風の力かしら。

アフマウ うふふっ……。そのときだったわ。初めて、メネジンがマウに話しかけてくれたの。

メネジン ……はて、……そうであったか?

魔笛の側に来たからメネジンが喋られるようになった?

アフマウ んもうっ!メネジンってば。そのとき、マウは独りじゃないんだって気づいたんだから!

アフマウ メネジンとアヴゼン、2人がマウの傍にいる……。会えないけれど、父さまや兄さまも同じ街にいる……。

アフマウ それに母さまだってきっと、どこかでマウのこと……
メネジン ……きっと、見守っているであろうな。

アフマウ ……うん。

それは、あの世から見守ってるってこと?
実は生きてるって、こと…?

アフマウ それからなの、マウは、母さまみたいな傀儡師になるって決めて……。

メネジン ……毎日、夜中に寺院を抜け出して、皆で特訓したな……。

すごく頑張ったんだ。

アフマウ そしたら、アヴゼンも話せるようになって……。
メネジン ……アヴゼンめ、……とてつもなくおしゃべりだった……。

アフマウ そうよね!でも……代わりに、メネジンの声は聞こえなくなっちゃった……。

メネジン …………。

んん?
それならば今話しているこのメネジンは、最初に話していたメネジンとは別の意識体ってこと?

アフマウ ううん、やっぱり、なんでもない……。

アフマウ ねぇ、メネジン。魔笛って、何のために作られたものなのか、マウにはよくわからないの……。

何のために…。
これが本来の使い方ではなさそうよね。

アフマウ けれどね、丞相が言うみたいに、魔笛を集め終えて巨人が完成したら……きっとステキなことが起こって、みんなが幸せになれる日がくるはずなの。

巨人が完成?
魔笛を集める目的ってそれだったの!!

巨人って…アレキサンダーだよね。
集めたら完成ってことは、魔笛はアレキサンダーのパーツで、今はそれが外れてるから壊れて動かないってこと?

…今は動かない。
かつては動いていた。
あの絵からしてアレキサンダーはでかい。

アルザダール海底遺跡群に行ったときにガッサドが「柱に回転および伸縮をしたらしき跡がある」って言ってた。
まさかあの遺跡の建物って動かなくなったアレキサンダー!?

アフマウ ……だって、だってマウは、魔笛を見ただけで救われたんですもの……。

アフマウ だから、きっと……

アフマウ ねぇ?メネジン。そう思うでしょう?

どもども。

アフマウ りぃ!?どうして……。

りぃのバッジがキラリと光った。

メネジン ……丞相の命か……。
アフマウ そんな……!

アフマウ あなた、マウのこと、連れ戻しにきたの?
りぃ そうだけどその前に…

アフマウ いや!いやよ。マウには、まだやることがあるの!

アフマウ ……帰ってちょうだい。

アフマウ ……マウの言うこと、聞けないの……?
りぃ 聞けないよ。

リシュフィーに会わせなきゃ。

アフマウ ……仕方ないわね。いいこと?マウは、アヴゼンを見つけるまでぜ~ったいに皇宮には戻らないから!
メネジン ……そういうことだ。

まぁそうだよねぇ。

アフマウ ナディーユ先生?
ナディーユ 不滅隊のリシュフィーさんも、お迎えに来られましたよ。

メネジン ……やれやれ、ついに、あいつにもばれたか……。

すぐに来てくれてよかった。

リシュフィー これは、アフマウさま。ご無事でなによりです。

リシュフィー お供いたします。さぁ、一緒に皇宮へ戻りましょう。今なら、きっとラズファードさまも御寛大な……
メネジン ……?まだ、丞相には…………報告しておらんのか?

リシュフィー はっ……。アフマウさまの、ご同意を得てからと。

メネジン ……殊勝である、リシュフィー。……ならば、教えてしんぜよう……。……アフマウさまは戻られぬ……。
リシュフィー ! それは……。

アフマウ まだ、お外でやることがあるんだもん。

リシュフィー ……アフマウさま。……やはり、その……アヴゼンさんを……?

アフマウ わかってるのなら、止めないで!
メネジン ……うん?そなた、顔色が悪いようだが?

リシュフィー こ、これは……。
アフマウ 早く皇宮に戻って休んだほうがいいわ。お願い、無理しないで……。

まだ眩暈するのかな。
もしかして倒れた時の打ちどころが悪くてちょっとヤバい事だったりする?

リシュフィー ありがたき御言葉。ですが……。

アフマウ マウの言うことがきけないわけ……?

リシュフィー そんな……しかし、それではいったいどこを捜されるおつもりなのですか?
アフマウ ……う、う~んと……。……秘密よ!

無計画ー!

リシュフィー ……そ、それは……。

リシュフィー 悪いことは申しません……。一度、皇宮にお戻りください。我ら、不滅隊。全力をあげて、アヴゼンさんを捜させていただきますから。

アフマウ 嘘!!

アフマウ ……マウ、知ってるんだから。蛮族の監視や、アシュタリフ号の捜索で不滅隊は忙しくって……アヴゼンを捜してる隊士なんて1人もいないってこと!

リシュフィー お、お許しを……。

リシュフィーはアヴゼンを探してあげたいんだろうなぁ。

ゲッショー 御免。

メネジン ……何者だ?

ゲッショー 拙者、りぃ殿の同僚にて月照と申す者。

ゲッショーって名前の漢字あったんだ!
月照って書くのね。

アフマウ ふーん。あなたも山猫の傭兵なんだ。

リシュフィー …………。

ゲッショー 耳寄りな話がござる。実は拙者先日、御公務にてぜおるむ火山を訪ねた折……山麓にて、赤い機関人形を見かけたのでござる。

アフマウ !!
メネジン ……で、どうしておった?

ゲッショー たった一人とぼとぼと山道を歩いてござったが、拙者も仕事中にて……その、詳しくは……。
アフマウ きっと、アヴゼンよ!

リシュフィー ……お待ちください。かの地を領するトロールどもの中にも、皇国軍から奪った人形を用いるものがいますよ。
メネジン ……そういえば、そうであるな。

ゲッショー おお、そうであった!
リシュフィー 他にも何か……?

ゲッショー 確か、人形の衣に苔のようなものがついており申した!
アフマウ ……苔?ひょっとして、エジワの苔じゃないかしら……。

マムージャに連れて行かれたのに、ひとりでゼオルム火山に?
どうしてそんなことになってるんだろう。

ゲッショー まぁ、信じる信ぜぬは御主らの自由にござる。ただ……。
メネジン ……なんだ?

ゲッショー はるぶうんでは、人形を捕らえると自分たちの命令をきくようもぶりんの技師が徹底的に改造を施し……別物にしてしまうとか……。

トロールが連れてるオートマトンって、奪って改造して使ってたのね。

アフマウ そんな!
ゲッショー 急がれた方が良いやもしれませぬぞ。

アフマウ わ、わかったわ……。
ゲッショー されば、拙者はこれにて……。

ナディーユ ゲッショーさま、今度はいずこへ?
ゲッショー 御公務の任にて、まむうくの方へ行くのでござる。

ナディーユ それは、それは。ご苦労さまです。お気をつけて。
ゲッショー ……かたじけない。では、御免。

またマムークに行くの?
アブクーバが最近マムークでゲッショーの目撃情報があるって言ってたし、ピンポイントで仕事受けてんのかしら。

アフマウ マウ、決めた!今すぐ、ゼオルムに行くことにするわ。
リシュフィー アフマウさま!今、しばらくお待ちください……。

メネジン ……リシュフィー、そんなにも、アフマウのことが信用できないのか……?
アフマウ 事は、一刻を争うのよ!?

リシュフィー ……今、確認がとれました。ゲッショーなる人物が、マムージャ蕃国に関わる公務の命を受けている事実はありません。

そんなこと分かっちゃうの!?
GPSも仕込まれてるし、何やっても全部あっちにもこっちにもバレバレじゃないですかぁ。

メネジン ……なんだと?
リシュフィー それに、あの息づかい……

リシュフィー エジワで何者かに襲われたとき、遠のく意識の中で確かに私は聞いた気がするのです……。

さすが不滅隊。

アフマウ どういうことなの……?

リシュフィー 先ほどの話、おそらくは偽りかと……むしろ、あの者が向かったというマムークにこそアヴゼンさんがいる可能性が高いかもしれません。

アフマウ 今度こそ決めた!マウ、マムークに行く!

素直ーーー!!!

アフマウ ……リシュフィーもついてきてくれるわよね?
リシュフィー お止めしても無駄なのでしょう?どうしても、行かれるというのであれば……

リシュフィー ……?ところで「も」とは?
アフマウ そんなの決まってるじゃない。

アフマウ だって、りぃはマウのこと見張ってなきゃダメだもん♪
メネジン ……丞相の命ではあるが、な。

たっ、確かに!

あーっ、また見られてる!
もう、誰なのよ!

ナディーユ ワラーラさま。どうか、あの子らをお守りください……。

しかし、ゲッショーの狙いって何なのだろう…。