古寺の所縁 其の壱

ナディーユ ようこそ、ワラーラ哲学の殿堂へ。本日は、どのようなご用件でしょうか?
りぃ えーっと、

ナディーユ おや!もう、お一方……

ん?

ナディーユ 今日は、いつになく来客が多い日ですね。

あら、ゲッショー。

そういえば、エジワでどうしてリシュフィーを気絶させたんだろう?
見つかりたくなければ出てこなければいいわけだし。

ゲッショーも何か探しててリシュフィーが邪魔だった?

ゲッショー おお~!

おおっ?

ゲッショー いや、此は奇遇。りぃ殿ではござらぬか!なでぃいゆ殿。久方ぶりの友との再会なればしばしの伽藍での歓談、お許しくだされ。

ずいぶん親しげに声かけてくれるようになったー!

ゲッショー いかがでござる?息災でござったか?

息災…ではあるけど、散々な目にはあい続け…。

ゲッショー いや、待て!みなまで申すな。皇国の軍役に疲れ浮世を忘れんがため、ここに来たのでござろう?あるいは、その……社用でござるか?

長い間出社してないから社長を恐れているな…?

ゲッショー りぃ殿、参内した理由……お聞かせ願えぬか?
りぃ 面会に来たんだよ。

ゲッショー 面会?ほう、誰にでござる?
りぃ 無手の傀儡師

ゲッショー ……傀儡師?人形廻しを生業とする芸人風情をなぜりぃ殿が?

ナディーユ ……いま、無手の傀儡師と……そう、おっしゃいましたか?
ゲッショー なでぃいゆ殿。その傀儡師に何ぞ心当たりでも?

ナディーユ まさか、あなたのような他国の方まで、捜索に動員されているとは……。ラズファードさまはいよいよ本気のようですね。

ナディーユ 仕方ありません。正直にお話ししましょう。このままでは、いずれ見つかるのも時間の問題でしょうから。

本当にここにいるんだ。

ナディーユ ……どうせならば、少しとはいえ当寺にて開祖ワラーラさまの教えを学ばれたあなた方の判断にゆだねてみましょう。

ナディーユ ……無手の傀儡師は……アフマウは、当寺でかくまっております。
ゲッショー ! 皇国の捜索人をかくまっておられる……と?

ナディーユ はい。
ゲッショー 其は、大罪ではござらぬか!

ナディーユ 確かに、おっしゃるとおりです。
ゲッショー ……しからば、何ゆえ?

ナディーユ それには、少々時をさかのぼって説明する必要がございます……。

ナディーユ 実は、あの子……アフマウはさる、やんごとなき方の御子。かつては、皇宮で暮らしておりました。
ゲッショー ほう……傀儡師は、あとるがんの皇族だったというわけでござるか……。

ナディーユ ですが、まだ6つのときに母を亡くし……当寺にてお預かりすることになったのです。
ゲッショー 其は不憫な……。

えっ、前聖皇夫妻って4年前にほぼ同時に亡くなったんだよね?
今のアフマウは15歳で、6つの時に亡くなったのなら9年前。

アフマウのお母さんは正妻ではなかった?
それか4年前に亡くなった前聖皇夫人が後妻?

ラズファードはどっちの子なんだろう。

ゲッショー されど、皇族が出家とは……何か、深い事情がありそうでござるな。
ナディーユ ええ……。ただ、詳しくは……お察しください。

うーん、お父さんがいるのに出家させられた。

色々考えてみたけどこれっていう確信あるものは無いなぁ。
ただ、相当根深い何かがあるのは間違いなさそう。

ナディーユ その後、アフマウは当寺に起居し、学僧と机を並べて学問に励む日々を送っておりました。

学生時代のミリと話してる時はアフマウが身分を隠して勉強に来てるのかと思ったけど、違ったのね。ナディーユは全部知ってたのか。

ゲッショー 其れが、どうして傀儡師などに?

ナディーユ はい、その当時は拙僧も存じませんでしたが……どうやら、門前の通りをなわばりとしていた大道芸人より密かに傀儡の技を教わっていたようです。

幼少の頃からオートマトンと戯れてたとかじゃなかったんだ。

ゲッショー 高額の機関人形は、どうやって調達したのでござる?
ナディーユ おや?オートマトンについてかなり、お詳しいようですね?

ゲッショー いや、ちと興味があり申して……。
ナディーユ では、詳しくお話ししましょう……。

ナディーユ 当寺に来たとき、すでにアフマウは連れていたのですよ。2体のオートマトンを……。

ナディーユ 1体は母から……

あっ、やっぱりアヴゼンはお母さんのオートマトンだったのかな。

ナディーユ もう1体は兄からもらったものだと、あの子は紹介してくれました。

ラズファードがくれた?
お父さんのオートマトンではなかったのかしら。

えっ、でも、どうしてラズファードがオートマトンくれるのか謎だし、そのオートマトンが「聖皇の真似事」をするのも何故?

ナディーユ ふふふ……そうそう。

ナディーユ そういえば、最初の頃人形たちは、まったく話すことができなくてあの子の後をトコトコついてまわるだけでした。

話せなかったの!?

ナディーユ それが、いつの頃からか人形たちが、とってもおしゃべりになって!

ナディーユ それにつれて、あの子も本来の明るさを取りもどしていくようでした……。

どうして喋れるようになったんだろう。
それが無手の傀儡子の力?

ゲッショー 其は、ようござった……。

ゲッショー 拙者も幼少のみぎり口減らしで奉公に出された故、その辛さ、寂しさ、ようわかり申す……。

えっ!?
ゲッショーも大変な目にあってきたんだ…。

ナディーユ そうですか……でもあの子の穏やかな生活は、ある日を境に突然、終わりを告げることになりました。

ナディーユ そう、あの日から……。

リシュフィー アフマウさま。宰相さまの命により、お迎えにあがりました……。
アミナフ 恐れながら……昨晩、聖皇陛下、お隠れになられた由にございます。

聖皇が亡くなったから迎えが来た、と。
ラズファードはすでに宰相みたいね。

下向いてる。
嫌なんだろうな…そりゃそうよね。

ナディーユ その日以来なのです。あの子が当寺を訪ねてくれたのは。

そっか、それは匿ってやりたくなるね。

ナディーユ いけませんね……。昔語りがすぎたようです。

ナディーユ 今、あの子は封魔堂におります。さぁ、どうぞ行ってご自分で話してやってください。あの扉が、堂に通じております。
りぃ うん。ありがと。

ゲッショー 拙者は、なでぃいゆ殿とつもる話もござる。ご遠慮いたそう……。

あれっ、またこの遠くから見てるみたいなやつ。
一体誰が?