そんな!ミルシェラールは捕まってしまったの!?
……すまない。僕が不甲斐ないばっかりに……。
ロイドのせいじゃないよ。
ハルヴァー様……?
えっ、なんで!?
義兄さん!フィヨン姉さん!
ミルシェラール!どうしてここに!?
ハルヴァーが連れてきたんだよね?
奇跡が起きたんだ!やはりヴィジャルタール・カフューは本物だったんだ!
今年、開封を指示された古の遺言書が王家に伝わっておる。勇者ヴィジャルタールに助けられた、フェレナン公爵が残されたものだ。
あー、ハルヴァーが「例のあれを開封しようと久方ぶりに宝物庫を開けた」って言ってた、例のあれってフェレナン公爵の遺言書だったのね。
それは君たちについてである。
なんですって?
それによると、ミルシェラール・カフューと申す者が王錫を盗むが、彼とその逃亡に加担した者たちをヴィジャルタール・カフューの名の下に無罪としてほしい……
彼らは、我が国とバストゥークの友好を保ち、サンドリアの未来を担う者となるであろう、と。
!!
ヴィジャルタールがフェレナン公爵に書いてってお願いしたんだよね。
やるじゃない。
……まことに不思議な遺言であるがフェレナン公爵といえば、現ドラギーユ王家の直系の先祖であらせられる。その遺言は絶対なのだ。
200年前に書かれてるのに、今回起こった出来事と関係者の名前をズバリ当ててるし、英雄を語る変な人が急に現れて急に消えてるし、信じるしかないよね。
ところで、おまえたちは知っているか?王錫のピエールエランにまつわる伝説を……。
フェレナン公爵の暗殺を阻止したヴィジャルタールは、王都を開放するよう公爵を説得した。そのとき公爵は、ピエールエランの中に、一瞬、未来を見たといわれている。
タイムスリップもさせてしまうし、とんでもない宝石だな。
その時、公爵が何を見たのかは定かではない。ただ、敵対していた国どうしが共に手を取り合う……、そんな未来を夢見てフェレナン公爵は王である兄に投降した、という。
200年後の未来…今の様子が映ったのかな。
公爵に従い王都を占拠した神殿騎士団にお咎めなきこと。そして、バストゥークとの休戦条約の締結を条件にな。
なに?ヴィジャルタールはどうなったか?我が国では子供でも知っておろう。公爵をお救いしようと暗殺者と戦った際に毒を受けて、そのまま……
だが不思議なことに、ヴィジャルタールの墓は見つかっていない。あれほどの功績をたてたのだ。後にせよ、立派な墓に埋葬されたと思うのだが……。
死亡フラグ回避してたんだ!
世の中的には死んだことにしておいて、どこかで暮らしてるパターンね。
あっ、子孫であるフィヨンが、恋人のナフュに瓜二つってことは、結婚したのね。
まあ、それはよい。続きを話すと、投降後、フェレナン公爵は監獄に幽閉された。王家の者の血は流してはならぬ、というのが、当時の公の決まりだったからな。
王族だし、投降したわけだし、ちょっと過ごしやすく改装してたりするのかな。
しかし、公爵はその3年後に脱獄に成功した。そこからは皆も知っての通り、我が国は100年にも渡る長く苦しい内乱の時代を迎える。
脱獄!?
え、どうやって。
絶対に手引きした人がいるよね。
……龍王ことランペール様が登場し、再びサンドリアをひとつにまとめられるまでな。そう、ランペール様こそ、そのフェレナン公爵の血を引くお方だ。
脱獄したフェレナン公爵の子孫が龍王ランペール!?
脱獄してなかったら、今のサンドリア王国は無かったって事じゃない。
いかんいかん。歴史の話になるとつい長話になってしまう。
もっと話していいよ。
しかし、ヴィジャルタールの家系がまだ王都で存続しておったとは初耳だ。
つい最近まで、バストゥークに住んでいたのでございます。
はっ!
そうだ、最近亡命してきたって…。
ヴィジャルタール、死んだふりしてあんなに嫌ってたバストゥークで暮らしてたの!?
なんと、バストゥークに?
はい。代々ずっと……
……ふむ。そういえば、フェレナン公爵の脱獄を手引きした騎士が、バストゥークへ逃れたという文献がある。
フェレナン公爵を脱獄させたの、ヴィジャルタールか!!
その騎士は、討手に誰何された際、「漆黒の稲妻」などと名乗ったそうだ。
あの通り名、使っとったんかい!!
そうだ、これは知っているか?……いや、やめておこう。我が国の長い歴史を語り出すといくら時間があっても足りぬゆえ。
あんなに邪剣にせず、もっと話を聞いておけばよかったねぇ。
ただの不審人物でしかなかったけど。
なんだと?私が勇者に一度会っているだと?ハハハ、たわけたことを!
ま、そうなるよね。
そろそろ城に戻るとするか。フィヨンよ。いずれ放免はするが、ミルシェラールとロイドは、しばらく城に滞在してもらうことになるぞ。この一件、不可解な点が多すぎる。じっくり説明を聞きたいのでな。それに、そなたらの祖先の話もぜひ……。
ハルヴァーって超歴史好きだったんだな。
姉さん、安心して。きっと、すぐに戻ってこれるさ。
ああ、そうさ。また3人で静かに暮らそう。ヴィジャルタールの家があったこの場所で……。
……うん。
大作クエストだったね。
歴史もいろいろ知れたし、面白かった。
全員無罪になったし、大団円!
よかった~。
この家族は、しばらくの間ハルヴァーに質問攻めにされまくりだろうけど。
頑張れ…。