王錫を盗んだ奴は?今度こそ間違いないのだろうな。
はっ!手配書どおりの容貌でありました!
ミルシェラールは……彼は盗賊なんかじゃないんです!お願いです、説得に行かせてください!
下がっておれ。神殿騎士の捜査を邪魔するとどうなるか、知らぬわけではあるまい?
お願いします!待ってください!
おーい!もうひとつの出口から賊が逃げたぞ!
ん?この声は。
ちっ!奴を逃がすな!何としても捕まえるんだ!
まったく、単純な奴らだ。
ヴィジャルタールさん……
か、勘違いするでない!私は別にバストゥーク人を……さぁ、行くぞ!さっさとミルシェラールを助けるのだ!
ツンデレー!!?
二手に分かれて探しましょう。冒険者さんとヴィジャルタールさんは、あちらの方を探してください。
そういえばここは……
ヴィジャルタールが最初に出てきたところだね。
アンタは……!
やっと見つけたぞ。お前がミルシェラールだな?さぁ、早く帰るぞ。お前の姉と義兄が探しておる。
これをアンタに渡すように言われたんだ。
……王錫だ。
ナヌ??
……話がみえんな?
いいから受け取れよ!今日、この時間、この場所で、最初に会った騎士に渡すよう頼まれてるんだよ!
そんな不確かな指示の仕方する?
ちょっと待つのだ。私に?いったい誰に頼まれたのだ?
……ヴィジャルタール・カフュー。
何ィ?
何だと?
俺の家には、代々受け継がれてきた秘密の口伝がある。遠い先祖からの約束だ。俺たちには果たす義務があるんだ。
先祖……だと?ま、まさか、お前……
ああ、俺と姉貴の姓は、カフュー。そう、あの英雄ヴィジャルタールで有名なカフュー家の者さ。
っはぁー!
なるほどね。
全て納得いったわ。
「今日、この時間、この場所で、最初に会った騎士」とかいう指示の仕方も、そうなると分かってたからできたわけで。
ということは……私が自ら頼んだというのか?王錫のピエールエランを使って、過去の世界に戻るために……。
ミルシェラール!
義兄さん……。
心配かけて……あんな約束守るために、わざわざ身を危険にさらすことないだろ。
ごめんよ。でも、あのヴィジャルタール・カフューの遺言なんだぜ。俺の尊敬する先祖なんだよ。その願いだけはどうしても果たしたかったんだ。
どちらの気持ちも分かるね。
……。
ん?
嗅ぎつけられたか?!
大変だ!早く逃げないと捕まってしまうぞ!
……ヴィジャルタールさん、冒険者さん。ミルシェラールを連れて逃げてください。奥にある抜け道から逃げられるハズです。
に、義兄さん!
お前、気は確かか!ここに残っていて、無事で済むと思っておるのか!
確実に逮捕されるだろうけど、犯人を庇うということ以外悪いことはしていないし、王錫泥棒本人や、英雄を語る不審人物が捕まるより遥かにましな扱いになるだろうね。
早く行ってください!口論している時間なんてないでしょ!
お前、なんでそこまで……
種族が違っても、血が繋がってなくても、家族を守るのに理由なんていらないでしょ!
義兄さん……
バストゥークとか、サンドリアとか、そんなことも関係ありません!分かるでしょう?きっとあなたにも、命を捨ててでも守りたい人がいるはずです!
何て良い人。そして強い人だ。
……それが僕にとってはフィヨンとミルシェラールなんです。ヴィジャルタールさん、冒険者さん、さぁ早く行ってください!
待てよ……、皆を助ける方法が1つだけある……。
え、何?
騎士団の人をしばき倒すとか、駄目よ?
大切なのは解りあうこと……。本当に憎むべきは戦争、か。
ヴィジャルタールさん?
皆、神殿騎士に抵抗するな。後のことは全部私に任せてくれ。
何するんだろう。
もう逃げられんぞ、賊共め!おとなしく王錫を渡してもらおうか!
あっ、来ちゃった!
ロイド、お前を見て思った。バストゥーク人も捨てたものではない。フェレナン公爵の意見にも一理ある、と。少なくともあの方を暗殺するなど、あってはならぬ。
おおっ!!
あの時と同じだ……。この鍾乳洞はピエールエランに反応してしまうらしい。お前たち知っておるか、ここがかつて「還らずの祠」と呼ばれていたことを?
「還らずの祠」
過去に何度もタイムスリップした人がいるってことだね!?
ということはつまり、戻ることも可能、と。
ヴィジャルタール……さん?
大丈夫、心配は無用だ。フィヨンにも伝えてくれ、礼はいらぬとな。私は「漆黒の稲妻」なのだから……!
あっ…。
とうとう捕まえたぞ、賊め!もう逃げられん、観念しろ!
き、消えた?さきほどの騎士はどこに行った!?魔法か!?
200年前に帰っちゃった。
これは……王錫!
王錫を盗んでまで使いたかった用事は果たせたし、王錫は返せるし、とりあえず一件落着だね。
ヴィジャルタールが目の前で消えることでインパクト遺して、ミルシェラールは無理矢理手伝わされた感を出せた…だろうけど、王錫泥棒実行犯の罪がどれほどのものになるかなぁ…。
賊は捕らえたし、王錫も取り戻した。
……。
貴様たちは、賊に協力した疑いがあるが、とりあえずは見逃してやる。あいつの証言次第だがな。
……なんてことだ。ミルシェラールを助けることができなかった……。
盗んだ時にしっかり顔を見られてるからなぁ。
うーん…。
覆面って大事。
じゃなくて、うーん…他に打つ手はあるだろうか。
見守るしかないのかなぁ。