成長したわね、りぃ。手にしてるグリモアを見れば一目瞭然よ。
やったぁ。
…………。実は、あなたを見込んでお願いがあるの。危険だから断ってもいいのよ。でも、同門の助けがどうしても必要なの。……お願い、聞いてもらえないかしら?
もちろんいいよ。
ありがとう。でも、ここで話すのは……。そうだわ、あたしについてきて。
こんなところまで。
絶対に聞かれたくない内容なのね。
実は、連合軍の魔道士が忽然と失踪する事件が相次いでいるの。ううん、戦場ではなくて、基地や野営でよ。しかも、2件や3件じゃない。バストゥーク、サンドリア、ウィンダスの各軍で、同様の事件が数十件もよ。
ええっ!?
最初は脱走かと思われたのだけど、とてもそんな数じゃない。失踪する動機だってない人がほとんどだった。
しかも魔道士ばかり?
確実に狙われているのでは。
さすがに各国の治安部隊も動いてはいたのだけど、連合軍だって結成されたばかり。情報共有さえままならないのが現状なの。
そこで国家を越えて同門の連絡網が発達している、あたしたち軍学者に、軍から白羽が立てられたってわけ。
なるほど。
首府バストゥークではアーデルハイト参謀総長の意を受けてあたしが捜査にあたっているわ。
アーデルハイト!
フェイスの人だ!!
えーっと、共和国軍参謀総長でカンパニエにも出陣してるのか。
すごい人だったのね??
ほかに捜査にあたっているのは、王都サンドリアはマーシュディオ。聖都ウィンダスはフェン・ラクリフェル。デルフラントは、レーナ。アラゴーニュは、ナルクク。
ノルバレンはあなたも顔見知りのウルブレヒトが担当よ。まぁ普段はあんなだけど、こういうときは頼りになるわ。
そうなんだ。
各々が、この一連の事件の捜査情報を軍から引き継いで、各地で精査中よ。
あなたには、その彼らのサポートをお願いしたいの。
うん。
そうだわ。もうすぐ、それぞれの事件の因果関係を解明するため、各国の捜査担当者がこれまでに得た情報を持ち寄り、捜査会議を開くらしいの。
会議の場所は王都サンドリアよ。あたしは他に大事な所用があるから、参加できないの。早速で悪いけど、代理で出席してもらえないかしら?
わかった。
それじゃ、りぃ。頼りにしてるわ。なにかあれば、あたしに連絡を。
サンドリアに来たぞーい。
ねぇ、彼女じゃない?
デルフラント担当のレーナだ。
ん?おっ! …………じゃないか!
ん?
名前忘れた感じ?
おいおい、ウルブレヒト。弟弟子なんだろ?名前くらい覚えてやれよ。
サンドリア担当のマーシュディオ。
どうせ、わざとよ。ツッコむだけムダよ、ムダ。ほんと、これじゃアーリーンも苦労が絶えないわね。
アラゴーニュ担当のナルクク。
手厳しいな~、同志諸君。僕の弟弟子ということは君らの弟弟子でもあるんだぞ?そんな、自分は関係ないですって態度はいかがなものかと思うけどね?
しかし、思ってたより到着が早かったな、りぃ。
そう?
……ところでその新弟子すら到着したというのにいったい、フェンはどうしたんだ?聖都ウィンダスからの長旅とはいえ、いくらなんでも時間がかかりすぎなんじゃないか?
ウィンダス担当のフェン・ラクリフェルね。
名前からしてミスラかな。
聞いたとおりだ。だいぶ前に会議の召集をかけたにもかかわらず急きょ代行となった君より遅れている者がいる。我々は早急に行動に出る必要がありそうだ。故に、君には現況を簡潔に説明しておこう。
初動捜査を行った各国の治安部隊は「来たるべき決戦における我が軍の決定力を削ぐため、敵が魔道士を闇討している」多くがそう推論を立てていた。
だけど、調べていくうちに獣人軍の手口とは明らかに異なる……そう、事件の裏の「意図」らしきものが見え隠れしてきた。
そこで、私たち軍学者の出番となったの。各国の要職にパイプがあるし敵……ううん、犯人の手の内を読む専門家でもあるからね。
で、我々が各地で集めた情報を、この会議で持ち寄り、分析すれば自ずと犯人像は見えてくるはずだった……。だが、大切なピースが1つ欠けちまった。パズルの大切なピースが1つな……。
ちょっと、フェンの身になにかあったとでも言うつもり!?
結論を出すのは早いさ。戦域は日々拡大し、もはや両大陸に安全な道など存在しないのは確かだ。
それに、フェンだっていやしくも先生の高弟だ。直伝の遁術だって身につけてるだろ。それに賭けようじゃないか。
うん、そうだね。
……で、どうするつもりだ?
いったん会議は中止し聖都からここまでのルートをしらみつぶしに調べる。それしか、方法はないんじゃないかな?
……決まりね。
というわけで、りぃ。旅塵を落とす間もなく、すまないが、君は戻ってアーリーンに事情を説明してくれ。その後は君もフェンの捜索を手伝ってくれ。おそらく、ソロムグ原野で落ち合えるだろう。じゃ、頼んだからな。
わかった。