……変わらぬな。こいつは……。
あの光ってるのが魔笛よね?
ずいぶん小さいのね。
あのとき、以来ね……。
毎日、毎日、お勉強……兄さまからの手紙も来なくなって……。辛くって、苦しくて逃げたくなって……
……この堂に、……逃げ込んだのだったな……。
メネジンと……
……アヴゼンと。
くるくる回っている魔笛を見ていたら、なんだか気持ちが落ちついたの。優しい、不思議な力に包まれてる気がして。
アストラル風の力かしら。
うふふっ……。そのときだったわ。初めて、メネジンがマウに話しかけてくれたの。
……はて、……そうであったか?
魔笛の側に来たからメネジンが喋られるようになった?
んもうっ!メネジンってば。そのとき、マウは独りじゃないんだって気づいたんだから!
メネジンとアヴゼン、2人がマウの傍にいる……。会えないけれど、父さまや兄さまも同じ街にいる……。
それに母さまだってきっと、どこかでマウのこと……
……きっと、見守っているであろうな。
……うん。
それは、あの世から見守ってるってこと?
実は生きてるって、こと…?
それからなの、マウは、母さまみたいな傀儡師になるって決めて……。
……毎日、夜中に寺院を抜け出して、皆で特訓したな……。
すごく頑張ったんだ。
そしたら、アヴゼンも話せるようになって……。
……アヴゼンめ、……とてつもなくおしゃべりだった……。
そうよね!でも……代わりに、メネジンの声は聞こえなくなっちゃった……。
…………。
んん?
それならば今話しているこのメネジンは、最初に話していたメネジンとは別の意識体ってこと?
ううん、やっぱり、なんでもない……。
ねぇ、メネジン。魔笛って、何のために作られたものなのか、マウにはよくわからないの……。
何のために…。
これが本来の使い方ではなさそうよね。
けれどね、丞相が言うみたいに、魔笛を集め終えて巨人が完成したら……きっとステキなことが起こって、みんなが幸せになれる日がくるはずなの。
巨人が完成?
魔笛を集める目的ってそれだったの!!
巨人って…アレキサンダーだよね。
集めたら完成ってことは、魔笛はアレキサンダーのパーツで、今はそれが外れてるから壊れて動かないってこと?
…今は動かない。
かつては動いていた。
あの絵からしてアレキサンダーはでかい。
アルザダール海底遺跡群に行ったときにガッサドが「柱に回転および伸縮をしたらしき跡がある」って言ってた。
まさかあの遺跡の建物って動かなくなったアレキサンダー!?
……だって、だってマウは、魔笛を見ただけで救われたんですもの……。
だから、きっと……
ねぇ?メネジン。そう思うでしょう?
どもども。
りぃ!?どうして……。
りぃのバッジがキラリと光った。
……丞相の命か……。
そんな……!
あなた、マウのこと、連れ戻しにきたの?
そうだけどその前に…
いや!いやよ。マウには、まだやることがあるの!
……帰ってちょうだい。
……マウの言うこと、聞けないの……?
聞けないよ。
リシュフィーに会わせなきゃ。
……仕方ないわね。いいこと?マウは、アヴゼンを見つけるまでぜ~ったいに皇宮には戻らないから!
……そういうことだ。
まぁそうだよねぇ。
ナディーユ先生?
不滅隊のリシュフィーさんも、お迎えに来られましたよ。
……やれやれ、ついに、あいつにもばれたか……。
すぐに来てくれてよかった。
これは、アフマウさま。ご無事でなによりです。
お供いたします。さぁ、一緒に皇宮へ戻りましょう。今なら、きっとラズファードさまも御寛大な……
……?まだ、丞相には…………報告しておらんのか?
はっ……。アフマウさまの、ご同意を得てからと。
……殊勝である、リシュフィー。……ならば、教えてしんぜよう……。……アフマウさまは戻られぬ……。
! それは……。
まだ、お外でやることがあるんだもん。
……アフマウさま。……やはり、その……アヴゼンさんを……?
わかってるのなら、止めないで!
……うん?そなた、顔色が悪いようだが?
こ、これは……。
早く皇宮に戻って休んだほうがいいわ。お願い、無理しないで……。
まだ眩暈するのかな。
もしかして倒れた時の打ちどころが悪くてちょっとヤバい事だったりする?
ありがたき御言葉。ですが……。
マウの言うことがきけないわけ……?
そんな……しかし、それではいったいどこを捜されるおつもりなのですか?
……う、う~んと……。……秘密よ!
無計画ー!
……そ、それは……。
悪いことは申しません……。一度、皇宮にお戻りください。我ら、不滅隊。全力をあげて、アヴゼンさんを捜させていただきますから。
嘘!!
……マウ、知ってるんだから。蛮族の監視や、アシュタリフ号の捜索で不滅隊は忙しくって……アヴゼンを捜してる隊士なんて1人もいないってこと!
お、お許しを……。
リシュフィーはアヴゼンを探してあげたいんだろうなぁ。
御免。
……何者だ?
拙者、りぃ殿の同僚にて月照と申す者。
ゲッショーって名前の漢字あったんだ!
月照って書くのね。
ふーん。あなたも山猫の傭兵なんだ。
…………。
耳寄りな話がござる。実は拙者先日、御公務にてぜおるむ火山を訪ねた折……山麓にて、赤い機関人形を見かけたのでござる。
!!
……で、どうしておった?
たった一人とぼとぼと山道を歩いてござったが、拙者も仕事中にて……その、詳しくは……。
きっと、アヴゼンよ!
……お待ちください。かの地を領するトロールどもの中にも、皇国軍から奪った人形を用いるものがいますよ。
……そういえば、そうであるな。
おお、そうであった!
他にも何か……?
確か、人形の衣に苔のようなものがついており申した!
……苔?ひょっとして、エジワの苔じゃないかしら……。
マムージャに連れて行かれたのに、ひとりでゼオルム火山に?
どうしてそんなことになってるんだろう。
まぁ、信じる信ぜぬは御主らの自由にござる。ただ……。
……なんだ?
はるぶうんでは、人形を捕らえると自分たちの命令をきくようもぶりんの技師が徹底的に改造を施し……別物にしてしまうとか……。
トロールが連れてるオートマトンって、奪って改造して使ってたのね。
そんな!
急がれた方が良いやもしれませぬぞ。
わ、わかったわ……。
されば、拙者はこれにて……。
ゲッショーさま、今度はいずこへ?
御公務の任にて、まむうくの方へ行くのでござる。
それは、それは。ご苦労さまです。お気をつけて。
……かたじけない。では、御免。
またマムークに行くの?
アブクーバが最近マムークでゲッショーの目撃情報があるって言ってたし、ピンポイントで仕事受けてんのかしら。
マウ、決めた!今すぐ、ゼオルムに行くことにするわ。
アフマウさま!今、しばらくお待ちください……。
……リシュフィー、そんなにも、アフマウのことが信用できないのか……?
事は、一刻を争うのよ!?
……今、確認がとれました。ゲッショーなる人物が、マムージャ蕃国に関わる公務の命を受けている事実はありません。
そんなこと分かっちゃうの!?
GPSも仕込まれてるし、何やっても全部あっちにもこっちにもバレバレじゃないですかぁ。
……なんだと?
それに、あの息づかい……
エジワで何者かに襲われたとき、遠のく意識の中で確かに私は聞いた気がするのです……。
さすが不滅隊。
どういうことなの……?
先ほどの話、おそらくは偽りかと……むしろ、あの者が向かったというマムークにこそアヴゼンさんがいる可能性が高いかもしれません。
今度こそ決めた!マウ、マムークに行く!
素直ーーー!!!
……リシュフィーもついてきてくれるわよね?
お止めしても無駄なのでしょう?どうしても、行かれるというのであれば……
……?ところで「も」とは?
そんなの決まってるじゃない。
だって、りぃはマウのこと見張ってなきゃダメだもん♪
……丞相の命ではあるが、な。
たっ、確かに!
あーっ、また見られてる!
もう、誰なのよ!
ワラーラさま。どうか、あの子らをお守りください……。
しかし、ゲッショーの狙いって何なのだろう…。