やあ、何かいい手がかりは見つかった?
うーん、えーっと…。
冒険者さん、僕は腕の立つ騎士と言いましたよ。失礼ですけど、さすがに彼では……
いや、そういう訳ではないんだけど…
ん、どうかしたの?
おお、先ほどの方々ではないか。
えーっ!?また来たぁ!!
こんなところで何をやってるのだ?なに?凄腕の騎士を探してる?……なるほど。それならば恰好の人物を紹介してやろう。
本当ですか!いったい、その御方はどこに?
我が名はヴィジャルタール・カフュー!誇り高きカフュー家が輩出した天才騎士!古の時代より未来にいざなわれたサンドリアの勇者とは、この私のことだ!
はぁ?
なんか今、木枯らしが吹いた幻聴がした。
騎士たる者、過去だの未来だので慌ててはならん。私も、この世界では有名な勇者なのだ。どうだ、素晴らしいことではないか。
受け入れたー!!
そうだ、異名を考えよう。人呼んで「雷神 ヴィジャルタール」などどうだ?本名よりそちらの方が良いだろう。
えぇ…?
うーん、他に何かいい案はないか?……そうだ! これなんかはどうだ!「漆黒の稲妻 ヴィジャルタール・カフュー」なかなか味のある異名だと思わんか?
ええぇ…?
こんなおかしな…お茶目な人だったの!?
……ヴィジャルタール・カフュー?
「漆黒の稲妻」か……。気に入った!しばし待たれよ、サインを考えるゆえ。
サインまで…!!
すいません、話があるんです!ちょっと私の家までよろしいですか?
なるほど、お前たちの話は分かった。しかし、何故私がお前の弟を助けねばならんのだ?
自らヴィジャルタール・カフューと名乗られるとは、相当の剛の方だと思いました。是非、僕たちにお力を貸してください。
相当やべー奴だけど、背に腹は代えられない、藁にも縋る思いね。
そ、それはそうなのだが……。いくら私が腕の立つ騎士とはいえ、剣の手入れなどそれ相応の準備というものが……
ビビっとるんかい!
勇者と同じ名前なんだから、助けてくれてもバチは当たらないんじゃない?
ナフュ、何もそんな言い方は……
フィヨンです。
……強気なところまで似ておる。
これは敵いませんね。
うむうむ、分かった。手伝ってやろう。王錫を取り戻せばいいのだな。騎士たる者、弱き者を助けるのも務めのうちだ。そもそも、あれは私の……。いや、何でもない。
本当ですか!?ありがとう、助かります!この恩は一生……
が、バストゥーク人は信用できん。
え?
我々高貴なるサンドリア人にとって、卑しきバストゥーク人どもは憎むべき存在である。だから、かような者を供にするのはご免こうむる。
こうして見ると、今でもサンドリア人以外は~って言う人はいるけど、200年前と比べて相当考え方に変化があったってことなのね。
ヴィジャルタールの時代は直接やりあってるから憎むべき存在になるのはそうだろうけど、その後に貿易とかで交流があって、行き来が増えて、理解が進み、20年前は共闘して…。
王様が「血統や種族にこだわらず、ふさわしい者に王権を禅譲する」って宣言してしまうくらいにまでなったと。
ちょっと、何よそれ!サンドリア人もバストゥーク人も、そんなこと関係ないでしょ!ロイドに謝りなさいよ!
……またナフュと同じ台詞を言っておる。
ナフュは200年前の人なのにそういう考え方だったんだ!?
珍しかっただろうけど、いたんだね。
……仲良くしてくれなくても結構です。でもあそこは危険な場所ですから、単独行動は危険です。
な、何!?危険なのか!怪物でもおるのか?そんなに危ない場所なのか?
ビビるなよぉ。勇者ぁ。
ええ。きっとあいつのことだから、龍王ランペールの墓を抜けた先にある森のどこかに王錫を隠していると思います。
……いたし方あるまい。ただし、バストゥーク人のお前!私に話しかけるでないぞ。
あの……、もしよかったらあなたも来ていただけませんか?あの方が信用できるかどうか、分かりませんから……。お願いします!
うん。わかった。
勇者といっても強いか分かんないしね。
ナフュに勝てないことは確かだろうな。