そうか、捕まえた不審者は、王錫を盗んだ犯人じゃなかったのかぁ。
うん。
……ということは、僕にもチャンスが残っているってことだよね!よーし、絶対に盗賊を捕まえてみせるぞ。手柄を立てて出世して立派な騎士になるんだ!
……。
うわぁ!?出たぁ!
本当に無罪放免で城からほっぽり出されてそのまま放置されてるんだ!?
……ああ、さっきの。
むむ、怪しいヤツめ!さては王錫を盗んだ賊だな!
いや、違うのよ。
……お主、ルジーグ国王とフェレナン公爵、この御二方のことを存じておるか?
え?うん。200年前の王様と王弟様でしょ?龍王ランペール様以前の時代の方々だよね。御二人の権力争いが内乱を招いたっていう。
そ、そうなのか!?もしかして、その内乱の始まりは……
えっと……。確か、第2次コンシュタット会戦で、口惜しくも我が軍が壊滅的な打撃を受けてから、何年か経った後じゃなかったかな。
フェレナン公爵が神殿騎士団を味方に引きいれて、王都を制圧したんだ。そしてバストゥークとの講和を主張した。でも兄のルジーグ王は弟の行為を許さなかった。だって、彼は王立騎士団の残りを総動員して、反攻作戦の準備の真っ最中だったからね。
ではヴィジャルタール・カフューは!?
本当に知らないのかい?我が王国の中でも屈指の勇者のひとりだよ。そのときの内乱で大手柄を立てたんだ。彼を知らない者なんて、この国にはいないよ。
凄まじい有名人じゃないですか。
冗談……であろう。ここは未来の世界?そんな馬鹿なことあるはずない……
理解した。
街並みとかも、かなり変わってたのかな?
何なのかな、あの人。まあいいや。それよりも今やるべきことは、王錫を盗んだ犯人探しだよね。
サンドリア的にはそっちの方が大問題よね。
そうだ!フィヨンって女の人を覚えてる?気になっているんだけど、ここを離れるわけにはいかなくてさ。悪いけど、様子を見てきてくれないかな?頼むよ、僕も手柄を立てたいんだ。何か手がかりが分かったら教えてね。
うん。いいよ。
あなたは……さっきの冒険者さんね!捕まった犯人はどうなったの?怪我してなかった!?
あの人はめっちゃ元気だけど、王錫盗んだ人じゃなかったよ。
え?犯人じゃなかったって?
ナフュではないか!
えぇー!?何でここに!!?
よかった……、お前に会えて本当に良かった!やはりここは未来なんかじゃないのだな!
あなたは……?
まったく今日は散々な目にあった。城の連中は訳の解らん御託を並べるし、みんな私のことを勇者などと言っておる。
おそらく、疲れがたまっているのであろう。最近は忙しい日々が続いたからな。ナフュ、少し眠らせてくれ。
ふっ、不法侵入ー!!
ちょっと!あなた誰ですか?失礼ですよ、勝手に人の家に入るなんて!
は?な、何言っておるナフュ。
ナフュ?私の名前はフィヨンです!
お前まで悪ふざけはやめてくれ、ここは私の家ではないか。それに我々は恋人同士であろう?
こ、恋人同士!?何を言ってるんですか!帰ってください!神殿騎士団に通報しますよ!
恋人と見分けがつかないほどそっくりなの?
フィヨンは、そのナフュさんの子孫なんだな?
フィヨン?どうしたんだい、そんなに血相を変えて。
!?ヒューム……、その訛り……。まさかお前、バストゥーク人か!?
ええ、そうです。
バストゥーク人が神聖なる王都に足を踏み入れるとはいい度胸だ!さてはお前、牢から脱獄した捕虜だな!?
いえ、ここは僕の家ですが。僕が何か悪いことしましたか?
いや、ロイド、怪しい人が家の中にいて、ものすごく失礼なこと言ってるんだから、もっと怒るか慌てるかした方がいいっ!穏やかすぎるッ。
訳が分からん……さっきからなんなのだ、コレは?ここは私の家ではないのか?しかも、何でバストゥーク人が住んでいる?彼女はナフュ、私の愛する女性のはずだ!
ヴィジャルタールからするとそうだよなぁ。
ここはいったいどこなのだ……本当に私は未来の世界に来てしまったか。
走って逃げたー!!
あの人はいったい?どこかで会ったような気もするけど……。
あなたは……、冒険者の方ですか。え?王錫を盗んだ犯人を探している?
うん。
……お願いしたいことがあります。盗まれた王錫を取り戻すために、あなたの力を貸してほしいんです。
実は王錫を盗んだのは私の弟、ミルシェラールなの。
えっ!?
だから、あの子って言ってたのか。
ごめんなさい、冒険者さん。さっきは、ミルシェラールが捕まったって勘違いして。
ううん。大丈夫だよ。
王錫にはめられたピエールエランはね、不思議な魔力を宿しているって伝説があるの。だからサンドリアの象徴として、歴代の国王たちに受け継がれてきたわ。
それをミルシェラールが盗んだ……
でも弟は盗賊なんかじゃ、悪用しようと思ってるわけじゃ、ないの!お願い、ミルシェラールを……
ミルシェラールは自分の身を案じ、ある場所に王錫を隠したんだ。僕は彼が戻るより先に、そこへ行って王錫を何とか城に戻そうと思ってる。
そうすれば、たとえ捕まってもミルシェラールの罪は軽くなるだろ?それに、国宝さえ取り戻すことができれば、神殿騎士団も執拗には調査しないかもしれない。
でも、ご先祖様からの言い伝えは……。
言い伝え?
盗賊じゃないミルシェラールが王錫を盗んだ理由がそこに?
……フィヨン。君の気持ちも分かるよ。でもそのことよりも、ミルシェラールの方が大事だろ?
うん……、分かってる。分かってはいるんだけれども……
ただ、そこは怪物が出没してね。単独で行きつくのは難しいと思う。腕の立つ騎士でもいてくれれば……
お願いします、信用のおける凄腕の騎士を探してください。誰か心当たりはありませんか?
凄腕の騎士の心当たり?
うーん、トリオン王子…?
いや、駄目だ。
事態がとんでもなくややこしくなることが手に取るようにわかる。
冒険者さん、お願い、私たち家族を助けて……。
……お願いします。
うーん。
何かあったら報告してって言われてるから、とりあえずデラキアンの所に行くかぁ。