お、君か。どうだった?
かくかくしかじか。
へぇ~、見事に不審者を捕まえたんだ。すごいね、僕もそんな手柄を立てたいなぁ。
その話は本当ですか!
あなたは?
フィヨンと申します。あの、王錫を奪った犯人は!?捕まったんですか!無事なんですか!
ラテーヌ高原の不審者は捕まったけど、そいつが犯人かどうかは、ちょっと……
あの子は悪人なんかじゃ……、盗賊なんかじゃありません!お願いです、助けてください!
あの子?
ああ、あなたは冒険者の方ですね。お願い、あの子を助けて!
あのでかくて偉そうな態度の人を、あの子!?
この人はいったい何者…?
そんなこと言われても、ねぇ……?
……。
すいません、妻が迷惑かけて。僕は彼女の夫のロイドです。
さ、フィヨン。うちに帰ろう。大丈夫、きっとまだ手はあるさ。
で、でも……。
来るんだ、さぁ……!
冷静な旦那さんが、テンパって問題を起こしかねない奥さんを連れて行った…。
何なんだろ、彼女。気になるな……。
うーん…。
洞窟から出てきた人と知り合いなのかなぁ?
あ、そうだ。もし本当にあの不審者が犯人だったら、ハルヴァー様から報酬がもらえると思うよ。城に行ってみた方がいいんじゃない?
本当?教えてくれてありがと。
おお、冒険者か。聞いたぞ、盗賊を捕まえる手伝いをしてくれたそうだな。
手伝ったというか、その場にいただけというか。
ちょうど、今から尋問を始めるところだ。ヤツが犯人であれば、報酬を払おう。
第2次コンシュタット会戦の敗北から2年。ルジーグ国王は残存する騎士をラテーヌ高原に集め、バストゥークへの反攻の機会を窺っていた。
ああ、そうだ。
第2次コンシュタット会戦?
ってずいぶん昔のことじゃなかった?
だが王弟フェレナン公爵は、その隙に神殿騎士団を取り込んで、王都を制圧。バストゥークとの講和を主張した、という訳か?
いかにも。
内乱を憂いたルジーグ国王は、自らの持つサンドリア王の証たる王錫をフェレナン公爵に贈り、王位を禅譲しようと考えた。王都を開放することを条件に。
そうだ。我々はその王錫をフェレナン公爵様に届けるために、王都へ向かっていたのだ。
が、道中、酷い嵐に見舞われたため、オルデール鍾乳洞で雨宿りをしていた、……とこういうわけだな?
だからオルデールから出てきた?
では、お前がいう王錫とはどのような物だ?
なんだ、そんなことも知らんのか。頭にピエールエランと呼ばれる珍しい宝石をはめ込んだ、美しい錫だ。石が曇らぬよう、細心の注意を払わなければならなかった。
……。
正解なんだ?
これで信じてもらえただろう?早くフェレナン公爵様に伝えるのだ。
貴様……、そんな話で我々を騙せるとでも思ってるのか?
なんと!まだ私の話が偽りだと申すのか!
第2次コンシュタット会戦?ルジーグ国王とフェレナン公爵?ふざけるのにもほどがある。
では王立騎士団赤鹿隊の到着を待て!共に王都に向かっていた仲間だ。鍾乳洞ではぐれてしまったが、もうすぐここにやってくるはずだ。
それはまた妙な話だな。赤鹿隊隊長ギシャンマージュは私の友人だが、監察に赴いた時に、お前は見なかったし、新たに隊士を編入した話も聞いてはおらぬが?
ハハハ、何を……。偽りを申しておるのはそちらではないか。誉れ高き赤鹿隊の隊長は、無論、あのプリュシェロー殿に決まっておろう。戯れもほどほどにしておけ!
この人…嘘ついてるわけでもなさそうだし…。
タイムスリップしてきたの?
だって何でも起こるヴァナ・ディールだもの。
ハルヴァー様、この男、どうされますか?
手配書の顔とは違うし、宝物庫の衛兵たちも、この男が犯人ではないと言っている。王錫のことを知ってるだけで、牢に入れる訳にもいかないだろう。
それはそうですが、まだあの話は外部に漏れておらぬはず。なにゆえこのような者が……。
うむ……。しかし、例のあれを開封しようと久方ぶりに宝物庫を開けた時を狙うなぞ、このような間の抜けたやつにはできぬ芸当だろう。
例のあれ?
そっちも気になるじゃないですか。
……ハッ、申し訳ありません、我々も完全に不意をつかれました。しかも、この城を知りつくしたかのような逃げ足の早さ……。あれはただものではないはずです。
まだ、疑っておるのか?私は王の命令でここに来たのだ。それとも、公爵様は使者をこのように扱うのか?
……コイツをつまみ出せ。くだらぬ妄想につきあうほど我々は暇ではあるまい。
だから私は王の命令で……、おい、何をするのだ!さっさとその手を放せ!
覚えておくがいい貴様ら!!このヴィジャルタール・カフューへの数々の非礼、あとで詫びを入れても聞く耳もたぬぞ!!
ちょっと待て……おまえ、今何と言った?
ヴィジャルタール・カフューの名を忘れるなと言ったのだ!この屈辱、生涯忘れることはないぞ!
こいつ、ふざけおって!!この盗賊風情め!言うにことかいて、我が国屈指の勇者、ヴィジャルタール・カフューの名を騙るとは……恥を知れい!
連れて行かれよるw
なんだと……?
愚か者め!200年前、王立騎士団と神殿騎士団の抗争に終止符を打った偉大な勇者の名だと言っている。そのような嘘、子供でもつかぬわ!
200年前…。
早々にここから立ち去れ!次に私の前に姿を現せばどうなるか、分かっておろうな!
200年前とは何のことだ!説明しろ、なぜ私が勇者……
閉め出された。
200年前から…来たのか。
残念だが、報酬は払えない。王錫を盗んだ犯人は、あの男ではなかったのだからな。
うん。
そうだ、門番の彼に伝えておいてくれ。手柄を立てるチャンスはまだあるぞ、とな。
わかった。
しかし、王錫はサンドリアの象徴ともいえる宝だ。なんとしても取り返さなくてはならない。
どうして犯人は何故王錫を狙ったのか。
どうして久しぶりに宝物庫を開ける日時を知ってたのか。
どうしてヴィジャルタールは200年飛び越えてきたのか。
うーん、謎。