– 翌日 –
よっし、準備は整った。死者を呼ぶ杖、これが術を成功させるのに必要なものだ。
死者を呼ぶ…これ、欲しがる人たくさんいそう。
じっちゃんの遺した文書によるとだな、「これを持って、夜にバストア海を東から西に進めば、きっと死者と出会うであろう……」ってことらしい。
船に乗れってことかな?
まずはあんたにこれ、渡しておくよ。もし襲ってくる幽霊みたいな奴だったら、おいらじゃどうにもならないしな。多分その幽霊がお宝持ってるとかってオチじゃないかな?
わかった。行ってみるよ。
だいじなもの:死者を呼ぶ杖を手にいれた!
船久しぶりだなー。
昔は船釣りもしたものだけど。
当たり前のように乗船するのは私だけでしたっ。
おばけ待ってた!
べしーっ!
何も落とさなかったけど、いいのかな。
あれ?
セルビナで待ってたの?
待ってたよ!実はあんたたちが、マウラから船に乗るつもりだって話をある筋から聞いてね!
ある筋…?
キナ臭いじゃないですか。
先回りして待ってたんだよ。で、どうだった? 何か持ってなかったかい?え……何もなかった?そんなはずは……。
いや……あったんだな、これが。
あんた……ここで待ってるように教えてくれた人……。
ノーグ筋かい。
戦ってたこいつは気づかなかったかもしれないが、倒した幽霊の衣から、1枚の紙切れが落ちた……。別の小船でつけていた俺たちはそれを入手したんだ。
えぇ…。
船から大海原へ落ちた紙っ切れを拾ったの…?
凄すぎるでしょ。
これは遺書だ……おまえ宛のな。あの幽霊は……おまえの、じっちゃんだ。
何だって!?
じっちゃんの幽霊を呼び出す専用の杖だった?
それじゃあ他の幽霊は呼び出せないってことで、商売にはならないな…ちぇっ。
ぎええ!?
……おまえは、血のつながっていないわしの技を受け継ごうと必死だったな……。わしも、そうやって自分の技を遺せることに喜びを感じた……。
けどな、死期が近付くにつれ、わしが遺すべきものは別にあると気づいたのじゃ。ものや、技ではない……「想い」じゃよ。
……これだけ……?わかるもんか、そんなこと言われたって……。
じいさん消えた…!!
幽霊だったわけじゃなくて、手紙を呼んでるって演出だったのかな。分かりにくい…。
私にはわかる。人は……想いを伝えるために子を育む……。
うげぇ。こんなところにまで。
あんたは……。
亡くなったヨミの夫だ。ヨミは……若い頃、ミツナリさんから話を聞いていたのだ。偶然にも、この町で。
想いを遺したい相手……かい?わかんないねえ……今のあたいは、忍の道を極めることで精一杯だ。
ヨミ……おまえさんにもわかる日が来るよ……自分が想いを遺したい相手が誰なのか……。
そしてその話を、死んだミツナリさんの遺品を探す仕事を受けたときに思い出した……。
ノーグを抜ける直前の話だよね。
そのときに、彼女は既に私の子供を……アヤメを、身ごもっていた。
ここでミツナリじいさんから聞いた話……あたい、今ならわかる気がする。
あんたの子供を産もうと思う。そして想いを伝えたい……。自分が忍の道に生きたことを恥じてるわけじゃない。
でも、本当に伝えたいことは忍の技なんかじゃない……忍の生き様……、それがあたいの想いなんだ。
それに……あんたの心の中にも遺したいのさ、あたいの想いを……。
道を極めようとする者は、いつしかその道の意味を見失う。今の君がそうじゃないのか……。
初めて良いこと言ったんじゃないか!?
ミツナリさんは、それを伝えたかったんだ……。自らの魂を海に遺してでも……。
じっちゃん……。
思いを胸に去って行った…。
とんだのろけ話を聞かせてくれたもんだな、エンセツ。
お、お恥ずかしい限りです……。
ふん、いい加減そのおどおどした態度だけはどうにかしやがれ。
本当にそうだ。
あと、そこの冒険者、報酬代わりにくれてやるぞ。そのミツナリの遺した乱波袴だ。
じっちゃんの?そんなのいいの?
あのガキがさっきこれを渡してくれ……ってな。
そうなんだ…ありがと。
ま、こっちの目的はちっとも解決してねえから、次の仕事のための手付金みたいなもんだと思っておくんだな。
ひぇ。
乱波袴を手にいれた!