りぃじゃないか。練習、がんばっているらしいね。
へへっ。
たまには特訓の成果を見てあげるよ。ここで披露してごらん。
えっ、踊るの?
よっ、ほい、
ほーーーい。
……うん、たしかに上達してるね。踏み込みもぐっと鋭くなったし、上体のバランスもいい。私たちのダンスの基礎である、武踊「クリークタンツ」の基本を守って、よく鍛えているようだね。
レストラン獅子の泉での大惨事の時に比べれば……涙。
だけど、まだ足りないものがあるよ。
足りないもの?
いいかい、りぃ。私たち、ブリリオート舞踏団が目指しているのはあくまで「魅せる」ためのダンスなんだ。そのために足りないのは何か、よく考えてごらん。
えっ、なんだろう。
足りないもの。
足りないもの…。
……長い手足?
分かんないよ先輩助けて!
え?りぃのダンスに足りないもの?
うん。なんだろう?
そうねぇ……。びっくりするくらい上達したと思うけど、何が足りないかって言われると、難しいわね。
そういえば団長は少女時代、グロウベルグの「幽境の沢」で、お母さまから「ダンスをする上で本当に大切なこと」を学んだ、って言っていたわ。「幽境の沢」というのは大戦中、妖精が舞うという噂があった神秘的な場所のことよ。
幽境の沢かぁ。
ピクシーがたくさんいる綺麗なあそこね。
団長のお母さまは才気ある踊り子を選んで、その場所で教えを授けていたらしいの。いったいどんなことを教えていたのかしらね?……参考にならなくてごめんなさいね。
ううん。助かったよ。ありがとう。
過去のグロウベルグに来たよ。
ここは変わらないわね。
おや。
私は小さいころからこの場所が好きなの。ここで踊ると、とても幸せな気持ちになるのよ。それに、ほら……
ライラと…誰だろう。
ピクシーが寄ってきた!
妖精たちも歓迎してくれているわ。ライラ、踊ってごらん。
いいダンスだったわ。……いいこと、ライラ。
ダンスに必要なのは、まず技術。そして、ブリリオート流の基本は「武踊」……それは幼少のころからおまえに叩き込んであるし、もう教えることはないわ。
次に必要なのは、楽しく踊ること。一時のおまえはちょっとつらそうだったけど、家出から戻ってからまた、生きいきしてきた。
楽しく踊ること…。
それに、この妖精たちの反応……。どうやら、ひと皮むけたようね。だから、おまえに教えるわ。人々の前でダンスを踊るうえで、本当に大切なことは……
あっ、もっと大切なことがあるのね。
!?
ん?
急にピクシーが逃げて行った。
お母さま……!
げっ。
しかたないわね……ダンスの技を戦いに使うのは、もう終わりにしようと思っていたけれど……
……あなたは!?
まかせて。
楽勝よ!
……ありがとう。あなたはこのあいだ、ジャグナーの森で出遭った人ね。
あら、顔見知りの方なの?おかげで助かりました。わたくしはこの子の母、アニカ・ブリリオートと申します。
りぃでっす。
お母さんか~。
……ところであなた、踊り子ね?
うん。
あの構えは、ブリリオートの流れをくむ流派のようだけど。マヤコフ先生のお弟子さんか、それとも……
マヤコフ先生?
マヤコフって、フェイスにいた気がする。
使ったことは無いけれど。
とにかく、なかなかセンスがいいわ。お礼と言ってはなんだけど私にしてさしあげられることは、あるかしら?
ぜっ、是非アドバイスをっ!
……そう。「魅せる」ための舞踏を極めたいと思っているわけね。
うん。
いくさが始まって、戦いのためだけに「武踊」を習いたいという者がにわかに増えているけど……あなたみたいな踊り子もいるのね。未来に希望がもてそうだわ。
戦いに踊りが使われることに心痛めてるのね。
あなたにはこの舞踏書「実践演舞神髄」をあげましょう。私が書いた本なの。あなたなら、この本を読んだだけですぐに踊りの「心」をつかめると思うわ。
ありがとう!!
……ねえ、お母さま。さっき言いかけてらした、「ダンスを踊るうえで本当に大切なこと」って何なの?
ライラ、あなたはメシューム湖のほとりで踊ったとき、幸せな気持ちになったと言ったわね?
はい、お母さま。
では、その気持ちを今度は見ている人にも分けてあげなさい。それこそが、ダンスの本当の素晴らしさなのよ。
はい!
星くず石を拾いに、湖畔まで行ったおかげだわ。あのとき、不思議な笛の音を聴いたから……
……あれ?石が光らなくなってる……!このあいだまで光ってたのに。どうしてかしら……。
こんなに早く光り消えちゃってたんだ。
だいじなもの:舞踏書「実践演舞神髄」を手にいれた!
何が書いてあるんだろう。
内容じゃなくて本の説明かーーーい!
りぃか。自分のダンスに足りないのは何か、わかったかい?え、わかったような気がする?いいだろう。勉強の成果を私に見せてごらん。
ラッタン
タン!
へぇ、なかなかやるじゃないか。
へへっ。
「極められた舞技は、武技の如く鋭く、極められた武技は、舞技の如く麗しい」……私の母の言葉さ。
かっこいい。
だけど、「魅せる」ダンスと武踊「クリークタンツ」では、ひとつ違うことがある。「魅せる」ダンスには、お客さんがいるってことさ。
だから舞台では、見ている人を楽しませよう、という気持ちが大切なんだ。よく、覚えておきな。
うん。
あ、団長!いま、芸事の興行をやっているワイアットという商人に会ったんですけど……大道芸のバレリアーノ一座をこんどジュノに呼ぶことになったそうなんです。
バレリアーノ一座がジュノに?
なんだって!?
それでバレリアーノ座長が、ジュノに来たら舞踏団にあいさつに来たいって言ってるそうですよ。
バレリアーノ一座なんかが、私たちに何の用があるっていうのさ!
さ、さぁ……。
黙っちゃった。
どうしたんだろう。
……ほら、あんたたちなにぼけっとしてるんだい!とっとと練習を始めるんだよ!バレリアーノ一座にバカにされるようなダンスを踊ったら、タダじゃおかないからね!
団長ったら、急に機嫌が悪くなっちゃって、どうしたのかしら?
なんか、バレリアーノ一座を目の敵にしてるっぽいよね。
さっきまで上機嫌で、「りぃも立派に成長してきたから、そろそろこれをあげよう」って私に準備させてたのよ。
な、なんたる…!
私の来たタイミングが悪かったわね。ごめんなさいね。
ううん。気にしないで。ありがとう。
ウォーフープを手にいれた!