なに?ナジュリスさまについて聞きたいだと……?
うん。
怪しいヤツめ。そうやすやすと、不審者に教えられるか!
くっ、これを見ろ!
……ん、なに?ビヤーダの紹介……?ではナジュリスさまの詩を?そいつは素晴らしい!
本当にファリワリの歌大人気なんだ。
……だが、取材なら私に聞くよりも直接、御本人に頼むといい。とても気さくな方だからな。
最近は、御休憩の時よくおひとりでワジャーム樹林を散策されておられるようだ。
あんな敵だらけの所をひとりで散歩する強さよ。
見かけた者の話では、なんでも、矢のようなものを眺めて物思いにふけっておられたとか……。いささか心配でもある……。
矢のようなものってことで、薄汚れた矢ってのが必要なんだって。
ふむ…。
薄汚れた矢は次のストレージに存在します。
モグサッチェル
持ってたわ。
ワジャーム樹林のギワブ監視塔へ。
あら……?
珍しいわね、ここに先客がいるなんて……。
お付きの人が物思いにふけってるらしいって心配してたよ。
そうですか。ガウィーシュが私のことを……。ごめんなさい。たいしたことではないのに、あなたにまで手間をとらせてしまって……。
わかりました。すぐに戻ると伝えてください。
うん。わかった。
……?
あの、待って。それは……
ん?
薄汚れた矢……?そんな……信じられない……。あなた、それがなにかご存知?
ううん。知らない。
……そうでしょう。無理もありません。それは、他の方にはほとんど価値のないものですから……。
ということは、ナジュリスには価値のあるもの、と。
……実はその矢は私のある出来事を思い出させる大切な品。この場でつがえ、その時の苦悩を再び自らに課すためこうして今も時折、ここを訪ねているのです……。
苦悩を課すために!?
なんか、よほどの事なのね?
せっかくです。聞いていってください。その一本の矢にまつわるお話を……。
うん。
やった~!
それはまだ皇国西部における蛮族の侵入がそれほど活発ではなかった頃のこと。弓兵だった私は東部戦線で肩を負傷してしまい……当時は閑職と揶揄されていた西の皇都の防衛隊に転属を命じられ、この街にやってきました。
そして、ここは私の弟、ライアーフの任地でもあったのです……。
ねえ、みてみて!あれが天才射手ナジュリス様よ。肩を壊したって聞いてたけど、やっぱ格好いいわ~。
ああ、たしか東部戦線で城壁の上にいた敵将の頭を冑ごと矢で射抜いたって噂の……。
あ、それ私も聞いたことある~。でも、本当かどうか怪しくない?なんだか、随分と線が細いし……。
兜をも貫いた?
そんな…無茶よね。
継ぎ目に入ったのかしら。
だよねぇ。思ってたのとはちょっとイメージ違うなぁ。
でもほら、彼女。皇国兵訓練所で、弓の師範を務めてるタイラ教官のご息女なのよ?
へぇー。その名前って、つまり東人の血を引いてるってこと?
ナジュリスの名字ってタイラなのね。
平さんか。
敵と内通して、手柄を水増ししてたりして。
え~?それはないよ~!わたし、タイラ教官の演武を見たことあるもん。チョコボを全速で走らせたまま矢を射て、小さな的に命中させたりできるんだよ。すごくない?
流鏑馬か。
ふ~ん。ま、そうだとしても、その能力が子供に受け継がれるとは限らないよね。
なにそれ、あんた、なにか知ってるの?
うん。だって、あいつライアーフの姉貴だよ?
うそッ!?
え~ッ! あの、防衛隊一のトラブルメーカー「いのししライアーフ」の?
すごい二つ名だぁ!!
あたし、あいつの親の顔が見たかったから軍の経歴書を見たんだもん。間違いないよ。
弟がライアーフかぁ。それじゃあ、ねぇ……。
ひ、酷い評判…。
よほどへっぽこくんなのね。
だからアサルトでも捕虜になってるのか…。
あ、こっち見た。
全部聞こえてるんかい!
もっと小声で喋ろうよっ。
……私の弟がなにか?
い、いえ。おつかれさまです。ナジュリスさま……。
そちらこそ。お勤め、ごくろうさまです。
今日はなにかのご任務で?
いえ、今日は休暇をとっていて……その、弟の誕生日なのです。
まあ、それはおめでとうございます。でも、なぜ皇宮へ?
弟がどうしても皇宮に飾られているバルラーン様の肖像画と同じデザインの帽子が欲しいというもので。
それで、わざわざ見に来られたのですか?ずいぶんと、おやさしいことですわね。
なんか言い方にとげがあるわね。
負傷した折、弟にはずいぶんと心配をかけましたから……。
お詫びを兼ねてのプレゼントなのね。
今もお悪いのですか?
いえ、おかげさまで。もうだいぶ、癒えました。
それでは、私はこれで……。
…………。
ありゃあ、相当弟に苦労させられてるわ。
うん、そうだね……。
ライアーフ、とんでもない人物っぽいぞ…?