水和ぐ盾 其の壱

Sahnadjean 頼みますよ、先生……。そろそろ、ご返済の期限を過ぎて1週間にならんとしてるんですがねェ……。

ん?どうした?

ファリワリ おしい!じつにおしいなぁ!明日……、そう明日来られていれば、今晩のライブで稼いだ金で一気に完済できたものを!

しょんぼりしながら正座してる!

Dalfhum おうおう!その手はくわねえぜ?ウチの方は、もう1日も待つなってオヤジから言われんだ。払うのか払わねえか……、ここで白黒つけろや、コラ。

闇金に手を出したの…?

ファリワリ ……ええ、ええ、もちろん払いますとも!わたくしも詩人。ピュアハートが売りの詩人です。誠心!赤心!真心!至心!きっちりきっぱり……

Sahnadjean ファリワリ先生……アタシだって子供の使いじゃあ、ございません。手ぶらで帰るわけにゃ、いかないんです。言葉じゃない物を、頂かないことには……
ファリワリ ……え、ええと、お、おや?ポーチにチョコがありましたよ。さ、さ、御土産におひとつ……

Sahnadjean ………え、ええと、辺民街の超高級クラブ「メローズ」のロゴが……?
ファリワリ アーーッ!!それは……そ、そうだ、バルラーン大通りで拾ったのでした!

借金してるのに超高級クラブに行ったと。

Dalfhum なにい!?道端で拾ったものを、俺たちに食わせようってのか、テメエはっ!

口から出まかせで切り抜けようとするから。

ファリワリ し、しまっ……いえ、そのようなことは決して!決して!!どうか、どうか、今日は勘弁してください。数日中にはキチンと耳を揃えてお返ししますからっ。

土下座したぁ!!

タルタルにも土下座モーションあったのか!

Dalfhum 耳ィ!?2つしかねえ、そんな汚えモン揃えられたってこちとら、なんの役にもたたねえんだよ。あぁん?
Sahnadjean ……おや、耳といえば、先生さすがは詩人だ。流行を押さえてますねえ。そのピアス、クシャマの作品とお見受けいたしましたが?

ファリワリ え、そう!?わかるぅ?これさ~、バストゥークに里帰りする冒険者に頼んで買ってきてもらった特注品でね~。これ着けてると、もう女の子がキャーキャー……

ファリワリ !!

本当にお調子者なんだから…。

ファリワリ ああ、いや、これは、その、あの祖母の甥のハトコの親友の形見なのですよ。ごめんなさい。これだけは、これだけは……

超他人やないかい。

Dalfhum ふざけんじゃねえ!だったら、その頭のトンガリでも引っこ抜かせてもらおうじゃねえか、ああ?

ファリワリ ィヤァアアアァァァァァ!……ん?

ファリワリ アァッ!これぞ天の助け、ワラーラさま!ザッハークさま!りぃさま!!

どうして隠れてないんだ私!!!

Dalfhum おう、あんだよ、テメエは?人の仕事に首つっこんでんじゃねえぞ、コラ?
りぃ いえ、アルザビコーヒーを飲みに来ただけの通りすがりなのでお気になさらず…

ファリワリ ま、待ってください!こちらのりぃさま。こう見えましても、わたくしのパトロンでして!

は??

Dalfhum ほほおぉぉ……じゃあ、ナンだ?そっちの姉ちゃんが、テメエの借金、肩代わりしてくれるってのか?
ファリワリ そ、そうでーす!!

Dalfhum 口から出まかせ言ってんじゃねえぞ!こいつ、キョトンとした顔してるじゃねえか!
ファリワリ そんなぁぁ!後生です、りぃさま!

ただのチンピラかと思ったらちゃんと観察力あるじゃないですか!助かる!

Sahnadjean ……ようございます。アタシは、そのパトロンの方のお顔に免じてしばらく待つことにいたしましょう。
Dalfhum なんだ?急にどうしたってんだよ?

本当にどうした??

Sahnadjean ちょっと、失敬……。

Sahnadjean 兄さんはお聞きになってないですか?噂の天蛇将や土蛇将の詩……。実際に取材をしたのは、あの者じゃないかと世間では、もっぱらの噂なんですよ……。
Dalfhum あんだとぉ?あの、へっぽこ詩人め。合作だったのかよ。借りるときは、泉のごとき詩想、とかなんとかさんざん、でけえ口たたいてやがったクセになあ。

前から噂にはなってたみたいだけど、もうバレる寸前なのか。

Sahnadjean まあまあ、つまりですね、あの者が噂どおり五蛇将と知己ならば、エセ詩人から回収するより何倍にも、額を膨らませる方法だって……
Dalfhum どういうこった?

Sahnadjean 五蛇将は、皇都防衛の要。体面を重んじる立場です。借金問題で、市井の徒と揉め事など、なんとしても避けたいでしょうねえ。
Dalfhum そいつぁひょっとして……五蛇将から回収って寸法か!

ワルいなぁ~。

Sahnadjean それどころか、うまくすれば皇宮からだって引っぱれるかもしれません……。その代わり、命がけの大勝負でしょうがね。
Dalfhum へっへっへ、おもしろそうじゃねえか……よし、のった!

Dalfhum ……おう、今日んとこはこの姉ちゃんに免じて見逃してやる……だが、次はねえぜ?
Sahnadjean 先生、りぃさん。アタシらだって、商売人の端くれ。事を荒立てるのは本意ではございません。

Sahnadjean よろしいですね?次にお会いするまでに黄金貨200枚、きっちりご用意のほど……。

黄金貨200枚!?

借りすぎだろぉ!!!

ファリワリ お任せください!このりぃ財閥の総力を上げてバッチリお返しいたしますとも!ね、りぃさま~!!
Dalfhum のヤロ……!
Sahnadjean ふふふ、お願いしますよ。さあ、さあ、おいとましましょう。

ファリワリ …………。

ファリワリ フゥ…………。
りぃ オイコラ。

ファリワリ ええ、ええ。君の言いたいことは、わかっていますとも。文句は後ほど、まとめて受けつけましょう。……しかし今は一刻の猶予もなりません。わたくしのトンガリと、付き人君の命の危機なんですから!
りぃ トンガリを引き渡してしまえ。

ファリワリ ああ、金、金、金、金……どこかに金が転がってませんかねえ……付き人君の金庫とか…………冗談ですよ。
りぃ 9割本気でしょ。

りぃ でもさ、ファリワリ稼ぐ能力あるじゃない。
ファリワリ ……え?また五蛇将をテーマに詩を書いたらどうかって?

ファリワリ いや、だってほらわたくし、いわゆる天才系クリエイターでしょう?続編ばかり、というのが性に合わないっていうか……もっと、こうイノベーションなコンテンツを、ファンタスティックにクリエイトしたいわけなんですよ。
りぃ えぇ…。

ファリワリ そうだなあ、たとえば……お客さんがドキドキ、ハラハラ思わずわたくしに抱きついたりするような……いえ、決していやらしい意味ではないんですが……

ファリワリ ……んル?……んルルルルルッ?ああっ、この感じ!き、きましたぁぁぁぁぁっ!!

!!?

ファリワリ 1度、聞き始めたらラストまでどっぷり釘付けの緊張感あふるる詩。そう、題して、サスペンスポエムゥゥッ!

ファリワリ どうですか?どうですか?メガヒットの予感がしてきませんか?付き人くぅん?
りぃ いや、あんまり…。

ファリワリ ああ、ザッハークよ!この恵まれぬ凡人にも一片の情けを授けたまえ!付き人君、そんな石頭ではこの生きチョコボの目を抜く吟遊詩人業界でとても生き残ることなんてできませんよ!

冒険者だからいいもん。

??? : ……話はききましたよファリワリさん。私に、一肌脱がせていただけませんか。

だ、誰だ!?

ファリワリ え?ご店主。ひょっとしてご融資の申し出ですか?ありがたい!
ラティーブ い、いえいえいえ。違います。そうじゃありませんよ!

ラティーブ ほら、先ほどのサスペンスポエム、でしたかな?参考になるかと思いまして……。
ファリワリ なるほど、ネタのご提供ですか。そちらも、オールウェイズ・ウェルカムです!

ファリワリ で、どんなネタでしょうか?わたくしのお眼鏡にかなえば、ポエムに採用してあげてもいいですよ。
ラティーブ は、はあ……「パママ連続殺人」という事件についてです。耳にされたことはありますか?

なんじゃそりゃ!

ファリワリ ……ぱ、パママ?まさか、パママの皮ですべって転んだ人が続出とかいう、低俗なネタではないでしょうね……?
ラティーブ やはり、ご存じない。一時は瓦版にも載るほど、ニュースになりましたがすぐにヤラセだとして不滅隊が揉み消しましたからね。

なんと。
絶対に裏がある。

ラティーブ 2年ほど前になりましょうか。皇国の要職についている重臣や軍高官が、毎夜1人ずつ暗殺される事件が発生しましてね。皇都では、夜間外出禁止令が出される騒ぎにまで、発展したのです。

ええっ!?
そんな大変な事件をもみ消した…?

ファリワリ なるほど!謎が解けたぞ!道理で、あの頃ナンパ成功率が落ちこんで……
ラティーブ はい?
りぃ え?

ファリワリ コホン……なんでもないです。どうぞ、つづけて。

ラティーブ それが、奇妙な事件でして。殺された被害者は資産家ばかり。だのに、盗まれたものは一切なし。ただ……
ファリワリ ただ……?

ラティーブ 被害者の顔にはきまってパママの皮が被せられていたそうです。まるで、黄色い花が一輪、咲いたように……。

何のメッセージなのか。

ファリワリ プッ……なにそれ?
ラティーブ 笑い事ではありません。そのまま下手人は見つからず、緘口令が布かれ迷宮入りになってしまったのですから。

ファリワリ ふむう……東国のスーパーニンジャか。はたまた、ラミアのヒットマンか。これはプンプン臭いますね。サスペンスの臭いが!
ラティーブ それは、よかった。当時、皇宮から捜査を依頼された蛇の目探偵社の元探偵が、ウチの常連さんです。なんなら、ご紹介しましょうか?

蛇の目探偵社?
サラヒム・センチネルができる前にあの場所にあった会社よね。
リリルンが間違えてやってきた、あの。

ファリワリ それは願ったり叶ったり!そうだ、感謝のしるしに、あなたの店のために直筆のサインをお贈りしましょう。
ラティーブ い、いえいえ、礼には及びません。ファリワリさんのファンのおかげでウチの店も繁盛させてもらってますから。

せっかくだから貰って飾っておいたらいいのに。

ラティーブ その常連さんはヒュームのウニーム氏。その事件をきっかけに探偵社を辞めて仕官し、今ではバルラーン大通りで衛兵を務めておられますよ。
ファリワリ ありがとう、ご店主。サスペンスポエムがメガヒットした暁にはこの人気吟遊詩人ファリワリ、格安料金でこの店のCMポエムを作って差し上げましょう。

ファリワリ いっただっきま~す♪シュトラ~ッチ♪とか、そういうやつを!
ラティーブ ええ!?いえいえいえいえ、礼には及びませんよ、礼には……。

サインも歌も遠慮してるわけではなく、嫌なのか…?

ファリワリ さあ、聞きましたね、付き人君?それでは早速、取材にレッツゴー!あー、もちろん、君がね!
りぃ デスヨネー。