ねえねえ、それから、それから?
……でね、わたくしは……。
ファリワリが女の子に囲まれてる。
小山のような図体のトロールどもを、ちぎっては投げちぎっては投げ……けちょんけちょんにした、ってわけですよ。
ほんとにぃー?すごーい!ファリワリさん、カッコいぃー♪
ああ……胸がときめく英雄の詩を書かれるだけじゃなくてご本人もそんなにお強いだなんて……!
んん??
フフ、まあまあまあ……。
それで、それで?ハルブーンにはやっぱりおひとりで?
ええ、もちろん……と、正確にはりぃっていう付き人がいっしょでしたけど……で、でも1人も同然だったんですよ。
んんん???
そいつったら道に迷うわ、トロールの衛兵に挨拶してしまうわ。ほんと、使えないヤツでしたから。
あっはっは。やーだーー。
なんだとぉ!
まあ、わたくしにかかればトロールの1匹や2匹や10匹くらい朝飯前ですから、なんとかなったものの……助けてやったときのその付き人のマヌケ面ときたら!きみたちにも見せてあげたかったですよ。
そうそう、ちょうどこんな感じの顔したヤツでね……
……ってうわぁぁぁぁあ!!いつ、の、まに!いるならいると言ってくださいよ!
サッキカライタヨ。
あれ?ファリワリさんこの人は?
あ、うん、これが、その付き人っていうか……
あ!じゃあハルブーンでトロール達を怒らせた……
孤軍奮闘するファリワリさんの足をひっぱりまくってた使えない人ですね!
わー!わーわー!
こんにゃろう。
?
ああ、うん、まあ……あの、その……
ファリワリが、頼み込むような目でこちらを見ている。
ウソつくな。
……う、うんうん。そうだねそうですよ。ええ、ええ。
……お嬢さんがた、わ、わたくしはそろそろ仕事の時間のようです。申しわけないが、ファンの集いはまた今度で……。
えぇーー。
つまんなーい。
訂正せんのかい!
傭兵試験の時といい、変な噂ばかり流される!!
……ふう。失礼しましたね。
噓ついてまで人気取ってたのはどうしてなのさ。
……え、彼女たちは何者かって?
……いや、その以前作った「天駆ける剣」の詩を覚えていますか?実はあれが、方々で大評判でして……。わたくし、あちこちで、さっきみたいにファンに取り囲まれてしまう有様なのです。
えっ!?すごいじゃない。
あるミスラの女の子の追っかけは、わたくしの部屋の窓にびったり張り付いて覗いてたし……3階ですよ?
あるヒュームの女の子の熱狂的ファンは、ラブレターを大量に送りつけてポストを埋めてしまおうとするし……。
ヤバイのしかいない。
……いえいえ、皆まで言わずとも、分かっていますよ。わたくしも、浮れてばかりいるわけではありません。騎士が貴婦人のために戦わねばならぬ時があるように詩人には歌わねばならぬときがある……。
人気あるうちに次を出した方がいいよね。
焦って駄作になったら逆効果だけど。
ええ、そうです。わたくし、再び詩作に励むことにしまして!五蛇将の詩を再び作らんとちゃんと水面下で、準備を始めているのですよ!
……きみ、天蛇将ルガジーン付きの副官、ビヤーダさんを覚えていますか?
うん。
そう、彼女から五蛇将のお話のつづきを聞かせてもらう約束だって、既にとりつけてあるんですから。ふふん、どうです。抜かりないでしょう?
さっきのことだって女の子に囲まれてしまったのは単なる偶然で……実は、わたくしはそろそろ休憩時間になるビヤーダさんをここで、お待ちしていたわけなんです。
そうなんだ??
そうだ、付き人君、きみも一緒に話を聞いていくといいですよ。
あ、いやいや。また危険な場所に行かされそうになったら押し付けよう、とかそんなんじゃないですよ?
くっ、そういうことか。
……お、噂をすれば、いらっしゃったようです。さあ、共に取材に励みましょう、付き人君。あ、といっても給料は期待しないでくださいね?
ええ~。
これは、これは麗しのビヤーダさん!このファリワリ一日千秋の思いで、お待ちしておりました!
や、やあ、待たせたね。
ちょっと引いとるやないかい。
あら、あんた……。たしか、このあいだの……そう、りぃだっけ?
うん。
あの時は世話になったね。ルガジーンさまも、本当に喜んでおいでだったよ。
おお、よかった。
いやいや、あの程度のことこちらこそお安い御用ですよ!
……このファリワリが他の五蛇将の詩も作るから話を聞かせろって、うるさくてね。まあ、あの時の恩もあるし個人的に協力してもいいかな、と思ってさ……。
優しいなぁ。
それに、なんだかんだ言ってもこいつの詩でルガジーンさまたちのことが世に広まるのは悪くない気がして……。
そうでしょう、そうでしょう。
……で、今日はどんなことを話そうか?
あのとき、尻切れトンボになってしまった、話のつづきからお願いします!
……どこまで話してたんだっけ?
ほら!ルガジーンさまが東方戦線に赴かれそこで、ガダラルさまと……。
ああ、そうそう。思い出した。まかせて。……ルガジーンさまは東方に行かれた後……。
……貴様、またか!邪魔するなと言ったはずだぞ。こんな雑魚ども、俺1人で十分だ!
それはどうかな?
あれ?斬りかかった続きじゃなくて、後日の話?
ガダラル将軍。君は兵の命を惜しむあまり自ら突出する嫌いがあるが……
な、なに!?
兵は将と共にあれば本来以上の力を発揮するものだ。もっと、部下を信用してやれ。
ハッ!知れたことを。
それに私の剣が敵を近づかせなければ、君は本来の火力を存分に発揮できるはずだ。
……フン。好きにしやがれ。
俺サマのサラマンダーフレイムを見て腰を抜かすんじゃねぇぞ。
フッ、抜かせ。
……まぁ、そんな感じで天蛇将ルガジーンさまの志に共感した我が国最強の英傑たちが皇都に集結した。
一気に揃ってしもた。
その数は、ルガジーンさまも含め奇しくも5人。
そう、我が国の象徴ザッハークの伝説に登場する蛇の使徒と同じ数だった。
だから、誰からともなく、ルガジーンさまたちはこう呼ばれるようになったのさ。「五蛇将」と……。
……はい、おしまい。
……あの、あれ?ちょっと、待ってください!?それだけですか……?
そうだけど?
えぇ~。ダメですよ~。ガダラルさまの話だって前回から飛んじゃってるし、物語には、起承転結ってもんがあるでしょう?
起承転結って?
確かに詩人でもなければ気にしないことかもしれない。
……え?え~と、友情とか誤解とか愛憎とか嫉妬とか……なんか、そんな熱いドラマのあれこれですよぅ!
う~ん、そんな話あったっけ……。
なあ、付き人君?きみだってそう思うでしょう?
これ以上聞けそうにない感じかな。
他の将軍の話が聞きたいな。
……うーん、でも私は天蛇将さま以外の将軍さま方については詳しくはないんだ。ごめんね。
えええぇぇぇえーー!?
そもそも私はルガジーンさま付の副官だし、そんなにがっかりされてもなぁ……。
確かに。
そうだ!せっかくだから将軍さまたちに自分で取材してみたら?
えええええぇぇぇえーー!?
だいじょうぶだよ。橋渡しぐらいなら私がしてあげるし。
……いやぁ、そういうことじゃなくて……。
炎蛇将軍!五蛇将結成の経緯についてお聞かせください!
ビシージの音楽だ。
……その名で呼ぶな……。
?とにかく一言ください。炎蛇……
俺をその名で呼ぶな~ッ!
ヒイイイィィィ!!
ええええええ!?
炎蛇将軍って名前嫌いなの?
ってか、一般市民を丸焦げにする将軍って!!!
……という風に取り付く島もなかったわけでして……ビヤーダさんだけが頼りだったのですが……。
そうか……。
ちゃんと自分で頑張ったんだ…。
しかぁし!わたくしとて吟遊詩人の端くれ。命を惜しんで詩は作れません!
おお……。
かくなる上は腹をくくり……
付き人君!私にかわって五蛇将のみなさんに体当たり取材を敢行するのです!
なんでよ!焦がされるじゃないか!!
おねがいッ!!
くっ、泣いてまでの願い……分かったよッ。
そうこなくちゃ!さすがは愛と勇気を詠う詩人ファリワリの一番付き人!
待って。よくも悪くも名の知れたファリワリならともかく、りぃは一介の冒険者だろう?
良くも悪くもなんだ。
お忙しい五蛇将の皆さまが、突然、取材なんて言われても応じてくれるかなぁ……。
そんな……。なにか、手はないものでしょうか?
無理いわないでよ……。
そうですか……ああ……かくして、大傑作間違いなしの冒険譚は日の目を見ることなく街路の露と消えたのです……。
ま、まあまあ。そう気落ちしないで。
そうだ!「将を射んと欲すれば先ずチョコボを射よ」という。将軍の側に控える者にでも訪ねてみたら?
さいわい私は風蛇将の副官のガウィーシュや、土蛇将旗下のタイハールと顔見知りだし。必要なら紹介状を書いてあげるよ。
!!
おお~。
さすがはビヤーダさん!聡明な貴女に紹介していただけるだなんて我々、もう大砲満載の大船に乗った気分です。
そ、そう……?
ちょっと引いとるやないかい。
聞きましたか?付き人君。ただちに人民街に行きターゲットに取材を試みるのです!
またしても、世紀の大傑作がきみの双肩にかかっているのですよ!!
だいじなもの:ビヤーダの紹介状を手にいれた!
次のお話が楽しみだ!