第5章
帰路を踏みしめ
ここは……、いったいどこです……?
あれぇ?ここはバストゥークじゃねぇか!サンドリア大聖堂に行くんじゃなかったのかよ!?
おい!おまえ、しっかりしてるように見えておっちょこちょいだなぁ!へへへ、隠さなくたっていいんだぜ!思い切って行き先を間違っちまったんだろ~!?
間違っているのは、あなたの文法ですよ。……ここが目的地です。
確かにルーヴランスはサンドリアに行くって言ってなかった気がするんだよね。
テンゼンが言ってたけど。
しかし……、思ったより早くついてしまったようですね。迎えが来ていない……。仕方ありません。大工房に向かいましょう。
やっぱりシドか。
まったくシドさんは、もう少し気を使ってくださらないと困りますよ。あの飛空艇はまだ、実験段階を脱していないというのに、いきなり満足な整備班も同乗させずに遠出させたりして
ほほう。
……って、い、今のは……、ほら、あれですよ、あれ、幻聴です。
そんな強引な。
少し前にご到着のエルヴァーンの少女たちご一行が、どの飛空艇で戻られたかですって?
うん。
そ、それはもちろん、他の冒険者の方々と一緒にジュノから戻られたのですよ。ハハハ……。
誤魔化すのが下手すぎる。
YO! シド。
おお、りぃ君じゃないか。
りぃ君!?
えっ、いままで呼び捨てじゃなかったっけ?いや、「おまえさん」とかだったっけ。
どうしたのきもちわr
ルーヴランス君に会ったかね?わしの知り合いから、おぬしも自力でタブナジアに渡ったと聞いていたが……?
会ったよ。
ご到着だ。
あなたは!?いったいどうやってタブナジアからここへ?
HPワープで。
この口ぶり、私をこの件から降ろそうとしてたのかな。
冒険者なめんなよ。
あっ!シド!
プリッシュ、あの方のこと、ご存知なのですか?
……。
なんか色々とルーヴランスの計算外っぽいな?
……シド殿、予定よりも早めに戻ってくることができました。飛空艇は、係の方にお返ししました。良い船をお貸しいただいて、感謝の言葉もございません。
ルーヴランス君、我が「シド号」の飛行はどうだったかね?まだまだ安定性にはかけるが、速度はジュノの飛空艇を大幅に上回っているはずだ。
自分の名前を付けるとかよほど自信があるって事なんだろうけど、どうなんだ。
そういえばこの飛空艇の名前変えるクエストがあるんだったっけ?
変なのにしておけばよかった。
ええ、なんの不安もなく空の旅を楽しむことができました。今までの旅を振り返ると、もっと早くあなたに出会うことができていれば、と自らの出会いの運のなさを呪わしく思いましたよ。
はっはっは。いやいや、おぬしは運のいい男だよ。「シド号」はまだ生まれたてのホヤホヤ。その初めての高速飛行運転を体験することができたのだからね。
……初めて……の?
ん?何か引っかかることが?
それで、おぬしが探しているミルドリオン枢機卿は、タブナジアで見つかったかな?
……いえ、やはりタブナジアにも戻られてはいないようでした。
彼女らお二方から、有意義な話が聞けましたが、その行方はいまだに把握できません。
ふうむ。残念だ。それではわしが頼んだ魔晶石の案件についてはどうだった?
それについてはある程度、興味深い話を聞くことができましたが、それは今ここでは……
魔晶石、でござるか?
うむ、それはりぃ君が探しているもののことでもあるのでな。
あ、そうだったっけ?
もう何が目的か覚えてなかったりなんたり。
後で、おぬしにも同席してもらってルーヴランス君の話を聞こうかと思ったが……
りぃ君、この人たちにもあの話をしてもよいのかな?北方に眠る大いなる力のことを?
うん。
ああ、そっか。30年前に北方調査が行われたのは北方からもたらされたというタブナジアの魔石の破片を見たシドが北方にはすごいのがあるに違いないって確信したからとかそんな話で…。
あれ?私別に魔晶石探してないよね?
エシャンタールに言われたのは4つ目の母なるクリスタルを見つけろってことで…。
でも、シドにはそう思われてるって事か。
なるほど、そなたはエシャンタール殿から言われたように、サンドリア、バストゥーク、ウィンダスの3国を回り、そのような情報を得ていたわけでござるか。
偉いでしょ。
タブナジアからバストゥークに持ち込まれた魔晶石。その魔晶石が採れた場所がわかれば、我らの目的の地を見つけることができる、と。
うむ。しかしあの後、古い友人からおもしろい話を聞くことができてな。
ん?そうなのかな?
まぁいいか。
魔晶石は北の地で発見されたのではなく、北の地で発見された「不思議な遺物」から生み出されたものだということがわかったのだ。
魔晶石を生み出す…?
マジで??
不思議な遺物?
うむ。それは、箱状のものだったらしい。なんでもデムの岩などのように、得体の知れない金属で作られており、古代の民が作り出したものだとか。
えっ。
それは「洗礼の箱」……?
洗礼?プリッシュ君、なにか知っているのかね?
あの白い箱だよね。
でっかい魔晶石が入ってるんじゃなくて、あれが魔晶石を生み出した…!!
ああ、よく知ってるさ。その箱は、神学生たちが受ける「洗礼の儀式」に使われるものだ。あれは、タブナジア礼拝堂の聖遺物室に安置されてるはずだ。戦争の後もずっと、俺があそこのカギを守ってきた。ミルドリオン様に託されて……。
洗礼のときの……?
なるほど。あなたは忌むべき子であると同時に、神学生の洗礼を受けた身であったことを失念していました。
ならば、お教えしましょう。私はシド殿より頼まれて、その洗礼に使われた「洗礼の箱」の調査をも行う予定だったのです。
飛空艇を出してもらう条件だったのかな。
しかし、私よりも一足先にタブナジアを訪れていたジュノの外交官殿が、それを持ち去ってしまっていたのです。
あの箱が持ち去られた!?
やっぱりそうだよね。
チェブキー兄妹が
礼拝堂の兵士どもは撤収したでーす!
チェルキキ 秘密の荷物もつみおわりましたー!
って言ってたあの時だよね。
ううむ、ジュノの黒衣の学者たちめ!わしが大いなる力について調べ始めたことをかぎつけ、先手を打ったのか?その箱を調べれば、魔晶石の謎も解けるかと思ったのだがこれはいかん!
そうだ、プリッシュ君、おぬしはあの箱について何か知らないのかね?些細なことでもいい、何か情報があれば……
あれは恐ろしいもんだ。俺はあれのせいで……
この姿になった?
…それだけでは無さそうな気もする。
プリッシュ君?
あいつから、あれを取りもどさねぇと!あれは、タブナジアから出しちゃならねぇもんなんだ!
プリッシュ、待って!
またひとりで走って行ったぁ!!
どこに行くんだー!
またでござるか、プリッシュ殿!ひとりで行かれては危険でござる!
テンゼン、こういう人の世話が身に沁みついてそうだな…。
ああ、あなたとテンゼン殿は、北方の遺跡……ソ・ジヤの北西の塔でナグモラーダと会う約束があるのでしたね。
ソウダッタ。
その北方に眠る大いなる力。今回の私の任務とは異なりますが、私自身には関係があること。私も行かなくてはなりません。では、向こうで会いましょう。
おじいちゃんが向かった地だし、何かつかめれば家を再興できるかもしれないものね。
これは大変なことになったようだな。りぃ君も、急いで彼らの後を追いたまえ。
うん。
わしは引き続き、あの魔晶石について、さまざまな手を使って調べてみることにするよ。「タブナジアの魔石」を生み出したという「洗礼の箱」。それがあれば、わしの研究も一気に進むかもしれんな。