修羅の道 其の壱

ナシュメラ ……不思議だわ。この炎、燃え盛っているのにこんなに静かだなんて……。
ルザフ ……その炎はウルグームのものとは違う。

ルザフ こうして、こちらの世界の光を受けねば見ることすら叶わない……。それが冥界の火というものだ。

へぇ~!

アヴゼン ホーゥ、オマケニ、チットモあつクナイノハ、どうシテダ?
ルザフ 近寄るな!

ルザフ この炎には熱もない。だが、魂を焦がし、肉体を焼く……もっとも、お前に魂があれば、の話だが……。

アフマウとアヴゼンがツーンってした。

ルザフ オーディンよ!

ルザフ 闇をつかさどる戦の神にして、冥界の主オーディンよ!

ルザフ 従騎士ルザフ。只今、門前に馳せ参じ奉りました。

今は従騎士なのね。

ナシュメラ ……ねえ。皇国軍は冥界の門を封鎖してたんじゃなかったの?
フリット こちらの世界と冥界は、空間の在り方も時間の理もまったく異なる世界なんです。

フリット ここは、その重なるはずのない2つの世界が共有してしまっている、いわば特異点……。もとより塞げる道理なんてないんですよ。あちらの者にも、こちらの者にもね。

メネジン ……成る程な……。
フリット 何人も近づけぬよう実験場内に錬金術の怪物を残すのが、関の山だった、といったところでしょうか。

なるほどねぇ。

フリット ねえ、ルザフさん?
ルザフ ……静かにしろ。降臨が始まる……。

メネジン ……こ、これは……?

ヒビが入った!

割れた…!

なんかぶおーって出てきてるぅ!

ナシュメラ んっ……風が!!

ナシュメラ キャァァアアアアァッ!

軽い3人が吹っ飛んだぁ!

いや、冥界に関係のない3人、なのかな?

ルザフ アフマウ!だいじょうぶか!?

フリット 待ってください!そんなことより、オーディン様のお怒りを買わぬようお出迎えに集中すべきでは?従騎士さん。
ルザフ ……貴様ッ!こうなることを知っていたな!?

鼓動が鳴った!?

出たァ!!!

フリット これはこれは冥界の王たるオーディン様!ご機嫌、麗しゅう……。

ルザフ ……。

フリット ちょっと、ルザフさん!なにしてるんですか?

オーディンガン無視でアフマウの心配してる。

もう、アフマウのこと大好きじゃないですか!!

ルザフ アフマウ……すまない。

オーディン ……余を呼んだのは……汝なりや?
ルザフ ……御意。

オーディン ……存念を申すがよい。

ルザフ 光を遮り、時を作り賜うた……オーディンよ!私に残された時を教えていただきたい。

オーディン ……汝は怒りを晴らせしか?

ルザフ ……怒り?怒りとはなんだ?
フリット ……まったく、もう!しっかりしてください。皇国への復讐のことですよ!

本当に皇国への復讐心はサッパリ無くなったのね。

ルザフ ……いいえ。俺の怒りは……私の怒りは……もう消えました。

オーディン ……汝は怒りを晴らせしか?
ルザフ

ルザフ ……ですが、我が神オーディンよ。私は、復讐よりも成すべき大切なことを見いだしました。

ルザフ それは、イフラマドの末裔たちです。彼らが誇りをもって暮らせるよう、私は残された命を王国の再建に捧げたい……今ではそう願うようになったのです。

ルザフ ですから、私に時を……今しばらくの自由を私に!

フリット やれやれ。ずいぶんとまた、都合のよいお願いですねぇ。

それは確かにそう。

オーディン ……汝は怒りを晴らせしか?

ルザフ ……?……どういうことだ?

契約を破棄する選択肢は始めから無いってことね。
あとはいつ騎士になるかだけだから、これしか聞く必要は無いものね。

フリット くすくすくすっ……だから、言ったでしょう?あなたの願いはもう叶えられた後。契約は履行済みなんですよ。
ルザフ ……。

フリット あのオーディン様の化身は、ルザフさんが騎士になる用意ができたか否か、それ以外を裁定されることは決してありません。
ルザフ 化身……だと?では、契約の破棄は……。

本体じゃないのね。

フリット 不可能です。でも、いいことを教えてさしあげましょう。たしか、騎士に叙任された者には……冥界の力が馴染むまでの間、しばらく、自由時間が与えられるはずですよ。……来たるべき日に備えてね。
ルザフ ……俺が、契約を果たすにはどうすればいい?

フリット 簡単なことです。もう1度、思い出せばいいんですよ。皇国の卑怯な策略によって虫ケラのように死んでいった、あなたの部下たちの悲惨な末路を……。

フリット ルザフさんは、昨日のことのように覚えているはずですよ。その怒りをぶつけるのです……

フリット あの者に!

ルザフ ……。