……不思議だわ。この炎、燃え盛っているのにこんなに静かだなんて……。
……その炎はウルグームのものとは違う。
こうして、こちらの世界の光を受けねば見ることすら叶わない……。それが冥界の火というものだ。
へぇ~!
ホーゥ、オマケニ、チットモあつクナイノハ、どうシテダ?
近寄るな!
この炎には熱もない。だが、魂を焦がし、肉体を焼く……もっとも、お前に魂があれば、の話だが……。
アフマウとアヴゼンがツーンってした。
オーディンよ!
闇をつかさどる戦の神にして、冥界の主オーディンよ!
従騎士ルザフ。只今、門前に馳せ参じ奉りました。
今は従騎士なのね。
……ねえ。皇国軍は冥界の門を封鎖してたんじゃなかったの?
こちらの世界と冥界は、空間の在り方も時間の理もまったく異なる世界なんです。
ここは、その重なるはずのない2つの世界が共有してしまっている、いわば特異点……。もとより塞げる道理なんてないんですよ。あちらの者にも、こちらの者にもね。
……成る程な……。
何人も近づけぬよう実験場内に錬金術の怪物を残すのが、関の山だった、といったところでしょうか。
なるほどねぇ。
ねえ、ルザフさん?
……静かにしろ。降臨が始まる……。
……こ、これは……?
ヒビが入った!
割れた…!
なんかぶおーって出てきてるぅ!
んっ……風が!!
キャァァアアアアァッ!
軽い3人が吹っ飛んだぁ!
いや、冥界に関係のない3人、なのかな?
アフマウ!だいじょうぶか!?
待ってください!そんなことより、オーディン様のお怒りを買わぬようお出迎えに集中すべきでは?従騎士さん。
……貴様ッ!こうなることを知っていたな!?
鼓動が鳴った!?
出たァ!!!
これはこれは冥界の王たるオーディン様!ご機嫌、麗しゅう……。
……。
ちょっと、ルザフさん!なにしてるんですか?
オーディンガン無視でアフマウの心配してる。
もう、アフマウのこと大好きじゃないですか!!
アフマウ……すまない。
……余を呼んだのは……汝なりや?
……御意。
……存念を申すがよい。
光を遮り、時を作り賜うた……オーディンよ!私に残された時を教えていただきたい。
……汝は怒りを晴らせしか?
……怒り?怒りとはなんだ?
……まったく、もう!しっかりしてください。皇国への復讐のことですよ!
本当に皇国への復讐心はサッパリ無くなったのね。
……いいえ。俺の怒りは……私の怒りは……もう消えました。
……汝は怒りを晴らせしか?
?
……ですが、我が神オーディンよ。私は、復讐よりも成すべき大切なことを見いだしました。
それは、イフラマドの末裔たちです。彼らが誇りをもって暮らせるよう、私は残された命を王国の再建に捧げたい……今ではそう願うようになったのです。
ですから、私に時を……今しばらくの自由を私に!
やれやれ。ずいぶんとまた、都合のよいお願いですねぇ。
それは確かにそう。
……汝は怒りを晴らせしか?
……?……どういうことだ?
契約を破棄する選択肢は始めから無いってことね。
あとはいつ騎士になるかだけだから、これしか聞く必要は無いものね。
くすくすくすっ……だから、言ったでしょう?あなたの願いはもう叶えられた後。契約は履行済みなんですよ。
……。
あのオーディン様の化身は、ルザフさんが騎士になる用意ができたか否か、それ以外を裁定されることは決してありません。
化身……だと?では、契約の破棄は……。
本体じゃないのね。
不可能です。でも、いいことを教えてさしあげましょう。たしか、騎士に叙任された者には……冥界の力が馴染むまでの間、しばらく、自由時間が与えられるはずですよ。……来たるべき日に備えてね。
……俺が、契約を果たすにはどうすればいい?
簡単なことです。もう1度、思い出せばいいんですよ。皇国の卑怯な策略によって虫ケラのように死んでいった、あなたの部下たちの悲惨な末路を……。
ルザフさんは、昨日のことのように覚えているはずですよ。その怒りをぶつけるのです……
あの者に!
……。