逢魔が時 其の参

アフマウ 兄さま、ここで……何してるの?
ラズファード さらわれたと聞いた…………無事なのか?

アフマウ ……見ての通りよ。

ラズファード 貴様か?アフマウをかどわかして……
アフマウ 違うわ!マウが勝手に彼についてったの!

ラズファード なに?どういうつもりだ!?見ず知らずの男についていった、だと……

実際にはアヴゼンとメネジンを追いかけて行ったんだけど、こういう言葉が出るほどルザフのこと信用しちゃってるのね。

ラズファード ……お前は、自分の立場をわかっているのか?

ルザフ ……。

アフマウ なによ。に、兄さまこそ……

アフマウ ……こんなとこでそ、そんな、皇国の敵の蛮族の女……ラミアなんかと仲良くして……。

言い方ー!

ラズファード わからんのか?お前を捜すためだ。

アフマウ だからって、そんな……ラミアは敵よ?邪悪な蛮族なのよ!?兄さまだって、子供のころ、マウにそう教えてたじゃない!……ちがうの!?

アヴゼン じょうしょう!あふまうノしつもんニ、こたエヨ!

ラズファード 落ち着け。アフマウ……。
アフマウ 誤魔化さないで!

メネジン ……答えぬということは、答えられぬということか……。
ラズファード そうではない。いいか、アフマウ……彼女らはお前の憎む狡猾なラミアではない。

ラズファード 我が軍を助けてくれている……いわば、人間の味方なのだよ。

改良を加えたから大丈夫なのかな。

ラズファード お前の傭兵……そう、このりぃ君のようにね。我々に害をなすことは絶対にない。

りぃ…君!?
なんだかうさん臭さが増したぞ?

アフマウ マウの……りぃみたいに……?ほんと?
ラズファード ああ、約束しよう。

ああっ、アフマウの素直さが出てるぅ。

??? : クククッ……

ルザフ 笑わせてくれるっ。その合成獣が無害だと?ラミアを作り出した貴様らにとっては、だろう?

ルザフ ククッ……人間の味方だと?半死半生の俺の仲間をもてあそんだ挙句、喰い殺したこいつらがか!?
ラズファード 貴様、何者だ?……何を知っている?

ルザフ ……すべてを。

ラズファード ふっ、狂信者の戯言だな。

ラズファード その身なり、コルセアの末裔か?

ラズファード ……いや、違うな。連中が俺の前に姿を見せるなど、あり得ぬ。

ラズファード

ラズファード そうか、貴様が漆黒の……。
ルザフ ならば、どうする?

ルザフ けしかけるか?そいつらを…… かつて、貴様の父祖がそうしたように。

アフマウ そんな……

アヴゼン ていとくノ、いっテルコトガ、まことナノカ……?
メネジン ……丞相、……答えよ。

ラズファード ……アフマウ。我らが父君の末期のお言葉を覚えているか?
アフマウ …………。

メネジン ……我は聖皇…………聖皇は国家なり……。
ルザフ

ルザフにバレちゃった!

ラズファード お前も好むその言葉。単に、聖皇の絶大な権力を述懐しているだけではない……。東西内外に数多の敵を抱える、我がアトルガンの広大な領土……

ラズファード そして、そこに暮らす一千万の皇国民の命を護らねばならぬ聖皇の、重大な責任をも意味しているのだ。そのためには、時に非情に徹せねばならぬ。

アフマウ ……でも。父さまは、こうもおっしゃってたって聞いたわ。

アフマウ 皇国を治むるに覇道はいらぬ。王道をもって治めよって……。

アフマウ ラミアを使うことは誰の目から見ても正道ではないわ。父さまの教えに反してる……違う?

ラズファード ……アフマウ、今にわかる時がくる。
アフマウ 兄さまは、いつだってそう……肝心なことになると、マウを子供扱いするの。ただ、言うことを聞いてろって……。それなのに、聖皇の責任は押しつけるなんて……

ラズファード ナシュメラッ!!!

怒鳴ったッ。

ラズファード お前には、聖皇としての覚悟がなさすぎる。いかなる王といえど、己が手を、己が心を汚さずに臣下に血を流させることなど、できんのだ。なぜ、それがわからん?

ナシュメラ ……知らない。……そんなの関係ない。だったら……だったら……兄さまが聖皇になればよかったじゃないっ!

そう思うよね。

ラズファード ふざけるなっ!

ぬおお!?

ラズファード いいか、聞けっ!

ラズファード ……俺はかつて、第一皇位継承者だったのだ……。

あ、やっぱりそうだったのね。

ラズファード しかし、父君がいまわの際に後継者として口にされたのはお前の名だった……。

どうして??

ナシュメラ ……そんなの知らない。……マウは……マウは……。
ラズファード なぜだか、わかるか?

ナシュメラ ……知らない。……知りたくない。だって、マウは……マウは……

ナシュメラ 聖皇なんてなりたくなかったんだもの!

そうだよねぇ。

ラズファード その理由、……教えてやろう。

無視して話を続けたァ!

ラズファード そのとき、俺の身体には……こいつらと同じ、魔物の血が流れていたからだ……。

えっ!?
どういうこと??

ラズファード お前が嫌い父上も蔑んでおられた、ラミアと同じ青い血がな……。

ナシュメラ !!……どういう……こと……?

ラズファード これだけは、言いたくなかったが……お前が寺院に預けられた後のことだ……

ラズファード 俺は東方戦線で父上の命に背いて前線で戦い、瀕死の重傷を負った……。
ナシュメラ ……そんな!

ラズファード 一か八か再生力の高い魔物の血を輸血する他、助かる術はなかったのだ……。

皇国の錬金術でそういう研究が進んでたから、助かることができたって訳か。

ナシュメラ ……マウ、知らなかった。

ラズファード もう、わかったな?
ナシュメラ ……はい。

素直ー!!!

ラズファード では、大人しく皇宮へ帰れ。
ナシュメラ ……うん。でも、兄さ……