兄さま、ここで……何してるの?
さらわれたと聞いた…………無事なのか?
……見ての通りよ。
貴様か?アフマウをかどわかして……
違うわ!マウが勝手に彼についてったの!
なに?どういうつもりだ!?見ず知らずの男についていった、だと……
実際にはアヴゼンとメネジンを追いかけて行ったんだけど、こういう言葉が出るほどルザフのこと信用しちゃってるのね。
……お前は、自分の立場をわかっているのか?
……。
なによ。に、兄さまこそ……
……こんなとこでそ、そんな、皇国の敵の蛮族の女……ラミアなんかと仲良くして……。
言い方ー!
わからんのか?お前を捜すためだ。
だからって、そんな……ラミアは敵よ?邪悪な蛮族なのよ!?兄さまだって、子供のころ、マウにそう教えてたじゃない!……ちがうの!?
じょうしょう!あふまうノしつもんニ、こたエヨ!
落ち着け。アフマウ……。
誤魔化さないで!
……答えぬということは、答えられぬということか……。
そうではない。いいか、アフマウ……彼女らはお前の憎む狡猾なラミアではない。
我が軍を助けてくれている……いわば、人間の味方なのだよ。
改良を加えたから大丈夫なのかな。
お前の傭兵……そう、このりぃ君のようにね。我々に害をなすことは絶対にない。
りぃ…君!?
なんだかうさん臭さが増したぞ?
マウの……りぃみたいに……?ほんと?
ああ、約束しよう。
ああっ、アフマウの素直さが出てるぅ。
??? : クククッ……
笑わせてくれるっ。その合成獣が無害だと?ラミアを作り出した貴様らにとっては、だろう?
ククッ……人間の味方だと?半死半生の俺の仲間をもてあそんだ挙句、喰い殺したこいつらがか!?
貴様、何者だ?……何を知っている?
……すべてを。
ふっ、狂信者の戯言だな。
その身なり、コルセアの末裔か?
……いや、違うな。連中が俺の前に姿を見せるなど、あり得ぬ。
!
そうか、貴様が漆黒の……。
ならば、どうする?
けしかけるか?そいつらを…… かつて、貴様の父祖がそうしたように。
そんな……
ていとくノ、いっテルコトガ、まことナノカ……?
……丞相、……答えよ。
……アフマウ。我らが父君の末期のお言葉を覚えているか?
…………。
……我は聖皇…………聖皇は国家なり……。
!
ルザフにバレちゃった!
お前も好むその言葉。単に、聖皇の絶大な権力を述懐しているだけではない……。東西内外に数多の敵を抱える、我がアトルガンの広大な領土……
そして、そこに暮らす一千万の皇国民の命を護らねばならぬ聖皇の、重大な責任をも意味しているのだ。そのためには、時に非情に徹せねばならぬ。
……でも。父さまは、こうもおっしゃってたって聞いたわ。
皇国を治むるに覇道はいらぬ。王道をもって治めよって……。
ラミアを使うことは誰の目から見ても正道ではないわ。父さまの教えに反してる……違う?
……アフマウ、今にわかる時がくる。
兄さまは、いつだってそう……肝心なことになると、マウを子供扱いするの。ただ、言うことを聞いてろって……。それなのに、聖皇の責任は押しつけるなんて……
ナシュメラッ!!!
怒鳴ったッ。
お前には、聖皇としての覚悟がなさすぎる。いかなる王といえど、己が手を、己が心を汚さずに臣下に血を流させることなど、できんのだ。なぜ、それがわからん?
……知らない。……そんなの関係ない。だったら……だったら……兄さまが聖皇になればよかったじゃないっ!
そう思うよね。
ふざけるなっ!
ぬおお!?
いいか、聞けっ!
……俺はかつて、第一皇位継承者だったのだ……。
あ、やっぱりそうだったのね。
しかし、父君がいまわの際に後継者として口にされたのはお前の名だった……。
どうして??
……そんなの知らない。……マウは……マウは……。
なぜだか、わかるか?
……知らない。……知りたくない。だって、マウは……マウは……
聖皇なんてなりたくなかったんだもの!
そうだよねぇ。
その理由、……教えてやろう。
無視して話を続けたァ!
そのとき、俺の身体には……こいつらと同じ、魔物の血が流れていたからだ……。
えっ!?
どういうこと??
お前が嫌い父上も蔑んでおられた、ラミアと同じ青い血がな……。
!!……どういう……こと……?
これだけは、言いたくなかったが……お前が寺院に預けられた後のことだ……
俺は東方戦線で父上の命に背いて前線で戦い、瀕死の重傷を負った……。
……そんな!
一か八か再生力の高い魔物の血を輸血する他、助かる術はなかったのだ……。
皇国の錬金術でそういう研究が進んでたから、助かることができたって訳か。
……マウ、知らなかった。
もう、わかったな?
……はい。
素直ー!!!
では、大人しく皇宮へ帰れ。
……うん。でも、兄さ……