白昼わだつみを駆る 其の弐

ズィーハ ……なんだって!?測深儀は横取りされ、クルタダは女の尻を追いかけてった?

ズィーハ …………。

すんごいふんぞり返ってる。

ムティーブ どうしますか……?副長……。
ズィーハ まったく……。しょーもないね。

ムティーブ 指揮と操船は一流なんですけどねぇ。あっちの方は、うちの船長は……。

そうなのか。

ズィーハ で、いったいどこのどいつについてったんだい?うちの三流船長さんは。
りぃ イムティラって人だよ。

ムティーブ ……イムティラ?
ズィーハ イムティラだって?

ズィーハ 馬鹿な……。あの女は、もう……でも……。

アズナーフ 大変っす!ズィーハさん!
ズィーハ 今度は何だい!?

アズナーフ 船長が……。クルタダさんが……処刑されるって…………いま皇都は、その噂でもちきりっす。
ズィーハ なんだって!?

ズィーハ ……イムティラの仕業、か……?

間違いなくそうだねぇ。
でも、みんなイムティラのこと知ってるのね。

ズィーハ そうか、新入りのあんたは知らないんだったね……。イムティラとその兄のジャーキブ……。2人の兄妹は元海猫党のメンバーだったんだ。

ズィーハ 元、っていうのは、海に落ちて、死んだはずだったのさ。2人ともね……。

なんたる。

クルタダ さあ、そろそろ出てきたらどうだ。それで上手く隠れたつもりか?

ヤズクール ふん、下衆だけあって鼻は効くようだな……。

ん?これは回想…というか、あの時の後の出来事ってことね。

クルタダ どっかで見た顔だな、おい。
ヤズクール いつぞやはずいぶんと世話になったな。

クルタダ ……イムティラ。こんな皇国の犬とつるんでるたぁ、ずいぶん性根が腐ったものだな。
イムティラ どういたしまして。昔より利巧になっただけよ。

イムティラ さて、本題に戻りましょう、クルタダ。あんたたちが、咽喉から手が出るほど欲しがってる、測深儀について……。あんたたちが、再び大海原で活躍したいなら、これは、必須の物よねえ?

クルタダ ごたくはいい。さっさと要求を話せ。
イムティラ あら、つれないのね。

イムティラ ……まあいいわ。よくお聞きなさいな、測深儀の交換条件、それは……

イムティラ クルタダ、お前の首だよっ!

首と交換するほどのものではないのでは!?
ノーグの海賊紹介してやるから、サハギンとの交渉の仕方教えてもらいなよ。そしてもうひとつ測深儀を海底から拾ってきてもらったらいい。

ズィーハ そうだ……。あんたにはまだブラック・クレイドル号が大破した理由を話してなかったね。

あ、場面が戻った。

ズィーハ 私ら海猫党は、今じゃ、陸を活動の拠点にしてるけど、昔は海の上で皇国船籍の商船相手にドンパチやってたのさ。

ズィーハ ……かつての、栄光の時代のコルセアみたいにね。

ズィーハ けれど、あるとき、運悪く、皇国海軍の捜索網に引っかかっちまってね。何隻もの戦艦に追っかけられるはめになっちまった。夜になって、何とか追跡を振り切ることはできたんだけど……

ズィーハ 気がつくと、見張りをしていたはずのジャーキブ……、イムティラの兄の姿が帆柱の上から消えていてね……。

これがお兄ちゃん?

衝撃が強くて振り落とされちゃったのかな。

ズィーハ 気のいいやつで、誰からも好かれていたから、みんなで手分けして船内を探したんだけど、どこにも姿は見あたらなかった……。

ズィーハ 酷だけど、海戦じゃ船から落ちることは死ぬことと同じ。どうすることもできないものなのさ。

海賊船じゃなくても結構厳しいのでは。

ズィーハ まして、私らの船は大破。暗礁域に逃げ込むのがやっと、って有様だったからね。戻って捜すことすら適わなかった……。

ズィーハ イムティラが海猫党に加わりたいと言ってきたのは、遺体のない柩で、彼女の兄の水葬をやった後……。「兄の敵を討ちたい」ってね。

ズィーハ けれど、実はそのとき彼女の敵意は皇国ではなく、私たち海猫党に向けられていた……
アズナーフ ……自分らが助かりたくて、兄貴が海に落ちたことを知ってたのに、見殺しにした、って考えてたんすよ。

なるほど。

ズィーハ 誰も彼女に詳しい事情を説明しなかったからね。

ズィーハ ……どんな理由があれ、仲間を守れなかった、私たちは、それをいちばん悔やんで……とてもじゃないけど、イムティラに言い訳をする気にはなれなかったんだ……。

アズナーフ それでも、しばらくは奴もおとなしく働いてたんすけど……。

ズィーハ 小船で皇都を偵察しに行った帰りのことさ。隙を見て、クルタダの命を狙ったんだ。……命を狙ったといっても、クルタダに敵うわけがない。あっけなく失敗。でもね……

アズナーフ 海猫党の掟。仲間の命を狙ったやつぁ、生きて船に乗りつづけることはできねえっす。
ズィーハ けれど、彼女はまだ新入り。しかも、信頼していた部下の妹……。さすがに、クルタダも非情になれなくてね。彼女に助け舟を出したのさ。

ズィーハ 「この場で頭を撃ち抜かれるか、今すぐ船を下りるか、選べ」とね。クルタダのことだ。皇都にも近いし、運がよければ泳ぎつけるかもしれない、と、計算してのことさ……。

イムティラ ハッ?!私に恩情をかけたつもりかい?海賊のくせに甘いんだよ。あんたらはさっ!

ズィーハ 運命とは残酷さ。結局イムティラも兄の眠る、海に消えた。いや、消えたはずだったんだ……。……イムティラ。まさかとは思ったけれど、あのとき、本当に助かってたなんてね……。コルセアの強運、てやつか……。

クルタダ、潮の流れまで読んでたんだろうな。

ズィーハ クルタダのやつは、今でもジャーキブを救えなかったことを、悔やみつづけてる。だから……

ズィーハ ほんとに馬鹿だよ。何もかも背負えるわけないのに……お陰でこのざまじゃないか。

クルタダ ……俺の首か。そいつはいい。

イムティラ 海猫党はあんたを失うけれど、再び、自由に大海原で戦える……。長い目で見れば、悪くない取り引きでしょう?

クルタダ それがお前の望みか。
イムティラ ええ、そう!

イムティラ 私は生きたの!兄さんを奪った海でさえ、私を殺すことはできなかった!!あなたのおかげかしら?それとも、コルセアの強運ってやつ?

イムティラ 冗談じゃない!私は、私自身の力で、岸に辿り着いたのよ!

潮の流れが良くても、運が良くても、頑張って泳いだのは自分なんだから、そうよね。
諦めずに偉かった。

イムティラ ……クルタダ。私はこれから表の世界で生きるのよ。あんたの首を皇国に届けてね!
クルタダ …………。

ヤズクール どうした?怖気づいたのか?

イムティラ さあ、さっさとその首を差し出すのね!

クルタダ ……断る。

ヤズクール なんだと!?
クルタダ なーんてな。

違うんかい。

クルタダ 別に構わないぜ。欲しけりゃ、首でも心臓でもくれてやる。イムティラ、昔のよしみだ。お手並み拝見といこうじゃねえか。

クルタダ とっとと拾え。

投降しちゃった!

ヤズクール ご苦労だった、イムティラ。まさか、これほど首尾よくいくとはな。ここまで出向いた甲斐があった。
イムティラ お褒めに預かり光栄です。ヤズクール様。

イムティラ これで海猫のアタマを押さえました。つられてすぐに、翼と尾も姿を現しましょう。後は、それらを一網打尽にすれば……皇国の海の憂いは一掃されることでしょう。
ヤズクール そうだな。聖皇様もお喜びになろう。

ヤズクール ふん。貴様は皇都に護送後、処刑だ。もう二度と我が国に刃向かう愚か者が現れぬよう、大々的にな!

アズナーフ どうするんすか……。ズィーハさん……。
ズィーハ まったく……。向こう見ずな船長を持つと苦労するな。

ムティーブ 不滅隊に掛け合いますか?
ズィーハ 無駄だろうね。それに、そんなことはクルタダの望むところじゃないはず。ここで引いたらコルセアの先達に顔向けできない、ってね。

アズナーフ では、どうすりゃ……。

ズィーハ 安心しな。私に考えがある。ここはひとつ、怨み骨髄に徹してるあの跳ねッ返りと遊んでやろうじゃないか。

ズィーハ さぁ、りぃ。あんたにも、もうひと働きしてもらうよ。
りぃ うん。

ズィーハ けれど、そのナリじゃあ、心もとないね……。

うっ…。

ズィーハ そうだ、こいつを着るといい。レプリカだけどあんたの先輩だって持ってるやつは少ない。どういう意味か、わかるね?
りぃ うん。ありがとう。

ズィーハ いいかい、お前たち!これから私は救出作戦のプランを練る。総員、出撃の準備にとりかかんな!!

ズィーハ りぃ、あんたは、別行動だ。先行して皇都に潜伏、情報を収集しておいてちょうだい。
りぃ はーい。

ズィーハ 時期がきたら、シャララトで落ち合うよ!

コルセアトルーズを手にいれた!