……なんだって!?測深儀は横取りされ、クルタダは女の尻を追いかけてった?
…………。
すんごいふんぞり返ってる。
どうしますか……?副長……。
まったく……。しょーもないね。
指揮と操船は一流なんですけどねぇ。あっちの方は、うちの船長は……。
そうなのか。
で、いったいどこのどいつについてったんだい?うちの三流船長さんは。
イムティラって人だよ。
……イムティラ?
イムティラだって?
馬鹿な……。あの女は、もう……でも……。
大変っす!ズィーハさん!
今度は何だい!?
船長が……。クルタダさんが……処刑されるって…………いま皇都は、その噂でもちきりっす。
なんだって!?
……イムティラの仕業、か……?
間違いなくそうだねぇ。
でも、みんなイムティラのこと知ってるのね。
そうか、新入りのあんたは知らないんだったね……。イムティラとその兄のジャーキブ……。2人の兄妹は元海猫党のメンバーだったんだ。
元、っていうのは、海に落ちて、死んだはずだったのさ。2人ともね……。
なんたる。
さあ、そろそろ出てきたらどうだ。それで上手く隠れたつもりか?
ふん、下衆だけあって鼻は効くようだな……。
ん?これは回想…というか、あの時の後の出来事ってことね。
どっかで見た顔だな、おい。
いつぞやはずいぶんと世話になったな。
……イムティラ。こんな皇国の犬とつるんでるたぁ、ずいぶん性根が腐ったものだな。
どういたしまして。昔より利巧になっただけよ。
さて、本題に戻りましょう、クルタダ。あんたたちが、咽喉から手が出るほど欲しがってる、測深儀について……。あんたたちが、再び大海原で活躍したいなら、これは、必須の物よねえ?
ごたくはいい。さっさと要求を話せ。
あら、つれないのね。
……まあいいわ。よくお聞きなさいな、測深儀の交換条件、それは……
クルタダ、お前の首だよっ!
首と交換するほどのものではないのでは!?
ノーグの海賊紹介してやるから、サハギンとの交渉の仕方教えてもらいなよ。そしてもうひとつ測深儀を海底から拾ってきてもらったらいい。
そうだ……。あんたにはまだブラック・クレイドル号が大破した理由を話してなかったね。
あ、場面が戻った。
私ら海猫党は、今じゃ、陸を活動の拠点にしてるけど、昔は海の上で皇国船籍の商船相手にドンパチやってたのさ。
……かつての、栄光の時代のコルセアみたいにね。
けれど、あるとき、運悪く、皇国海軍の捜索網に引っかかっちまってね。何隻もの戦艦に追っかけられるはめになっちまった。夜になって、何とか追跡を振り切ることはできたんだけど……
気がつくと、見張りをしていたはずのジャーキブ……、イムティラの兄の姿が帆柱の上から消えていてね……。
これがお兄ちゃん?
衝撃が強くて振り落とされちゃったのかな。
気のいいやつで、誰からも好かれていたから、みんなで手分けして船内を探したんだけど、どこにも姿は見あたらなかった……。
酷だけど、海戦じゃ船から落ちることは死ぬことと同じ。どうすることもできないものなのさ。
海賊船じゃなくても結構厳しいのでは。
まして、私らの船は大破。暗礁域に逃げ込むのがやっと、って有様だったからね。戻って捜すことすら適わなかった……。
イムティラが海猫党に加わりたいと言ってきたのは、遺体のない柩で、彼女の兄の水葬をやった後……。「兄の敵を討ちたい」ってね。
けれど、実はそのとき彼女の敵意は皇国ではなく、私たち海猫党に向けられていた……
……自分らが助かりたくて、兄貴が海に落ちたことを知ってたのに、見殺しにした、って考えてたんすよ。
なるほど。
誰も彼女に詳しい事情を説明しなかったからね。
……どんな理由があれ、仲間を守れなかった、私たちは、それをいちばん悔やんで……とてもじゃないけど、イムティラに言い訳をする気にはなれなかったんだ……。
それでも、しばらくは奴もおとなしく働いてたんすけど……。
小船で皇都を偵察しに行った帰りのことさ。隙を見て、クルタダの命を狙ったんだ。……命を狙ったといっても、クルタダに敵うわけがない。あっけなく失敗。でもね……
海猫党の掟。仲間の命を狙ったやつぁ、生きて船に乗りつづけることはできねえっす。
けれど、彼女はまだ新入り。しかも、信頼していた部下の妹……。さすがに、クルタダも非情になれなくてね。彼女に助け舟を出したのさ。
「この場で頭を撃ち抜かれるか、今すぐ船を下りるか、選べ」とね。クルタダのことだ。皇都にも近いし、運がよければ泳ぎつけるかもしれない、と、計算してのことさ……。
ハッ?!私に恩情をかけたつもりかい?海賊のくせに甘いんだよ。あんたらはさっ!
運命とは残酷さ。結局イムティラも兄の眠る、海に消えた。いや、消えたはずだったんだ……。……イムティラ。まさかとは思ったけれど、あのとき、本当に助かってたなんてね……。コルセアの強運、てやつか……。
クルタダ、潮の流れまで読んでたんだろうな。
クルタダのやつは、今でもジャーキブを救えなかったことを、悔やみつづけてる。だから……
ほんとに馬鹿だよ。何もかも背負えるわけないのに……お陰でこのざまじゃないか。
……俺の首か。そいつはいい。
海猫党はあんたを失うけれど、再び、自由に大海原で戦える……。長い目で見れば、悪くない取り引きでしょう?
それがお前の望みか。
ええ、そう!
私は生きたの!兄さんを奪った海でさえ、私を殺すことはできなかった!!あなたのおかげかしら?それとも、コルセアの強運ってやつ?
冗談じゃない!私は、私自身の力で、岸に辿り着いたのよ!
潮の流れが良くても、運が良くても、頑張って泳いだのは自分なんだから、そうよね。
諦めずに偉かった。
……クルタダ。私はこれから表の世界で生きるのよ。あんたの首を皇国に届けてね!
…………。
どうした?怖気づいたのか?
さあ、さっさとその首を差し出すのね!
……断る。
なんだと!?
なーんてな。
違うんかい。
別に構わないぜ。欲しけりゃ、首でも心臓でもくれてやる。イムティラ、昔のよしみだ。お手並み拝見といこうじゃねえか。
とっとと拾え。
投降しちゃった!
ご苦労だった、イムティラ。まさか、これほど首尾よくいくとはな。ここまで出向いた甲斐があった。
お褒めに預かり光栄です。ヤズクール様。
これで海猫のアタマを押さえました。つられてすぐに、翼と尾も姿を現しましょう。後は、それらを一網打尽にすれば……皇国の海の憂いは一掃されることでしょう。
そうだな。聖皇様もお喜びになろう。
ふん。貴様は皇都に護送後、処刑だ。もう二度と我が国に刃向かう愚か者が現れぬよう、大々的にな!
どうするんすか……。ズィーハさん……。
まったく……。向こう見ずな船長を持つと苦労するな。
不滅隊に掛け合いますか?
無駄だろうね。それに、そんなことはクルタダの望むところじゃないはず。ここで引いたらコルセアの先達に顔向けできない、ってね。
では、どうすりゃ……。
安心しな。私に考えがある。ここはひとつ、怨み骨髄に徹してるあの跳ねッ返りと遊んでやろうじゃないか。
さぁ、りぃ。あんたにも、もうひと働きしてもらうよ。
うん。
けれど、そのナリじゃあ、心もとないね……。
うっ…。
そうだ、こいつを着るといい。レプリカだけどあんたの先輩だって持ってるやつは少ない。どういう意味か、わかるね?
うん。ありがとう。
いいかい、お前たち!これから私は救出作戦のプランを練る。総員、出撃の準備にとりかかんな!!
りぃ、あんたは、別行動だ。先行して皇都に潜伏、情報を収集しておいてちょうだい。
はーい。
時期がきたら、シャララトで落ち合うよ!
コルセアトルーズを手にいれた!