真珠色の思い出 其の弐

白タルの散歩道

アンジェリカ あら、りぃ。久しぶりね。またわたしの芸術的な絵のモデルになりたくていらしたのかしら?
りぃ 違うよぉ。実はね…。

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アンジェリカ まぁ、なんてこと!わたしが描いた絵を運ぶ途中になくしたですって?
りぃ うん。らしいよ。

アンジェリカ 確かに最近、バストゥークに住むウムバートって方の希望で、絵を1枚描いたけれど……。その絵のことかしら?いったいどういうことなのか、とにかく事情を聞かせてちょうだい。
りぃ かくかくしかじか。

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アンジェリカ ……まあ、絵を船で運ぶ途中、海賊に襲われてしまったの。恐ろしいわね。そして、その混乱に紛れて、絵がなくなってしまったというわけね?
りぃ うん。

アンジェリカ それであなたは、あのディデリックとかいう人の代理として、絵の描き直しを、頼みに来た……。
りぃ うん。

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アンジェリカ それにしても、あなたのお友達は、本当に、絵の代わりに空箱を持っていったの?
りぃ 作戦らしいけど…。

アンジェリカ ずいぶん大胆な計画よね。ふふ、楽しそう。上手く騙せるのかしら?
りぃ いやぁ、どうだろう?

アンジェリカ 事情はわかったし、……いいわ、描き直してあげます。
りぃ おおっ!ありがとう!

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アンジェリカ ええ、きっとこれは、わたしに課せられた試練の壁。このアンジェリカ、もちろん受けてたちますわ!そうよ、思い返せばあれは納得のいく出来ではなかったわ。わたしにはもっと素晴らしい絵が描けるはず!

さすが前向き!!

アンジェリカ 絵の内容は、おじいさんのお亡くなりになった奥様の肖像画、だったわね。いちおう、似顔絵を、資料としていただいているけれど……。

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アンジェリカ ……ダメよ。やっぱりダメ!!あんなヘタな似顔絵だけだなんて!ちっとも奥様のイメージが浮かんでこないわ。

下手な似顔絵見て描いたの!?
どんな絵になってるんだろう。やっぱり太古の血潮みたいな…?

アンジェリカ ……ああん、もう!なにか他に、奥様のイメージを膨らませてくれるものはないのかしら。

…ん?
なんか、鈴の音みたいなのがする。

…あ、シグナパール?

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Umberto おお、やっと絵を持ってきおったか。待っていたぞ。早く見せてくれ!
ディデリック まあまあ、じいさん、焦るなよ。まずは一息入れさせてくれ。さっき到着したばかりなんだ。

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Umberto 何を言ってるんじゃ!さんざん待たせおってからに。注文した絵は、3日前には着く約束だったんだぞ。

えぇー!?
さっき、納期は間近って言ってたのに、既に3日もぶっちぎってんじゃない!
嘘ついてたな!

Umberto ……まさか、持ってきていないと言い出すんじゃなかろうな? 場合によっては、タダじゃすまさんからな!

じいさん怒っても仕方ない。

ディデリック わかってる、わかってる。今、渡すから、そう怒らないでほしい。おぁっと、丁寧に扱ってくれよ?
Umberto ふん、さっさとよこせばいいんじゃ。まったく、近頃の若造は……。

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Umberto ……ん?……ずいぶん厳重な包みじゃな……。ちっとも開かんではないか……!
ディデリック ああ!ダメだダメだ!そんなに乱暴に扱ったら!なぁ、まずは落ち着いて話を聞いてくれよ?

どれだけガチガチに固めたんだっ。

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Umberto ……ふむ、絵の具がまだ乾いていないのか。まったく、遅れてやっと到着したと思ったら未完成品か……!けしからんな……!いったい、いつまでわしを待たせるつもりなんじゃ!

ごもっとも。

ディデリック だが、じいさん。絵画ってえのは、えらくデリケートなんだ。絵の具が確実に乾くまで、湿度や温度の急激な変化にさらすのは良くないんだよ。

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ディデリック このヤーガウミガって奴は、ええと、……絵の専門家なんだ。

その設定大丈夫…!?

ディデリック ……なに? 冒険者に見える?バカなことを言うなよ、じいさん。こう見えて、なかなかの目利きだぞ。専門家であるヤーガウミガが、今、箱を開けると、絵に悪影響を与えると言うんだ。

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ディデリック ……だから、じいさん。ヤーガウミガがいいと言うまでは、決して箱を開けないでくれ。いいか、決してだぞ。

この人、ひとりで大丈夫だったのでは。

ディデリック ……なぁに、もうほんの少しの辛抱じゃないか。じいさんだって、できあがった絵をダメにしたくはないだろう?
Umberto ……ふむふむふむ。まあ、いいじゃろう。仕方ない。3日も先延ばしにされたんじゃ。もうしばらく待つぐらい勘弁してやることにしよう。……その代わり、絵が乾くまで、ただ待つだけでは暇じゃろう?

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Umberto 実はな、この前死んだばあさんとの思い出の品であるバル貝の殻をなくしてしまってな。

あらま。

Umberto おぬしら、探しにいってきてくれんかの。……まさか、この殊勝な老人の頼みを嫌とは言うまいな?
ディデリック おい、じいさん!勘弁してくれよ。

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Umberto ふん、散々待たせておいて、頼みの1つも聞いてくれんとはな。……今後おぬしには、一切仕事は頼まんほうが良いようじゃな。
ディデリック いや、その……じいさんの頼みの1つや2つ、もちろん聞こうじゃないか!なぁ、ヤーガウミガ?

ヤーガウミガにやらせる気満々だ!

ディデリック ただし、箱は絶対に開けないと、約束してくれ。専門家のヤーガウミガがこう言ってるんだ。これは必ず、守ってくれよ。
Umberto しつこいのう。いいから、早く行ってこい!

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ディデリック ……よし、どうやら空箱だとは気づかなかったようだな。まずは、第一関門突破だな!あれだけ念を押せば、まさかじいさんも、箱は開けんだろう。

開けはしないかもだけど、気づかれてない…かなぁ。

ディデリック ……それにしても、まあ、なんだ、変な頼みごとを引き受けちまったな。

連絡もせずに納期3日も遅れてるからでしょ。

ディデリック ええと、じいさんが探しているのはバル貝の殻だったな。バル貝の殻だったら昔、あつかったことがある。仕入れ先の奴は、コロロカの洞門で手に入れたって言ってたな。

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アンジェリカ 今の音は、いったい何?
りぃ シグナパールだよ。

アンジェリカ まぁ、あなたのお友達の様子がわかるの?……ふーん、そんな便利なものがあるのね。それで、どうなの?なにか絵のヒントは見えたのかしら?

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アンジェリカ 奥様の思い出の品がコロロカの洞門で取れるバル貝の殻なのね?ふーん、そうなの……。……いいイメージが浮かびそうだわ。

おっ!

アンジェリカ わたしのこの素晴らしいイメージが消えないうちに急いでバル貝の殻とやらを、取りにいってちょうだい!
りぃ わかった。

ばびゅーんと行ってくるかー。