水和ぐ盾 其の弐

ウニーム ん、なんだ、お前は……
りぃ ちょいと聞きたいことがあって。

ウニーム なに?「パママ連続殺人事件」について、知りたいだと?
りぃ うん。

ウニーム (私の探偵時代、最後となったヤマを、なぜ今頃、お前が調べている?)

ヒソヒソ声になった。
まわりに聞かれたくないのかな。

ウニーム (……まあ、理由は詮索するまい。このまま、アレをお蔵入りにするのは私としても不本意だったからな……。)

ウニーム (……いいだろう。お前に賭けてみよう。いいか?私は今の職を失言で失いたくない。だから、私は独り言をつぶやく。独り言だ。わかったな?)
りぃ うん。

ウニーム (事件発生の頃、私は蛇の目探偵社の一級探偵だった……当時の私は数々の難事件を解決に導いた探偵として軍からも指名されるほどの名声と信用を得ていたのだ……)

えっ、すごい。
それなのに今は門番してるんだ?
軍の仕事でも、もっと別なことできそうなのに。
探偵だったのは内緒にしてるのかしら。

ウニーム (そう、あの呪われた「パママ連続殺人事件」の依頼が天蛇将様より舞い込むまでは……。)

ルガジーン どう見る?

ウニーム ……背後から正確に腎臓を一突きされ、えぐられています。相当な手練と見て、間違いないでしょうな。

ひぃえ。

ルガジーン 発見した使用人の話では口にパママの皮が押し込まれていたそうだ……。
ウニーム おそらく、気道を塞ぎ声を上げさせないためでしょう。

背後から刺してるんだから、口に入れたのはその後よね。

ルガジーン 私もそう思った……だが、なぜパママの皮なのだ?なにか他にも理由がある気がするのだが……

気道を塞ぎたいなら、パママの皮は効率悪いよねぇ?

ウニーム 確かに……この豪華な装飾品を前にして手をつけようとした形跡すらありません。怨恨の線も多分に考えられますな……。

確実にそんな感じね。

ルガジーン 怨恨……か。この被害者は、やんごとなき身分の御方で属州総督を歴任された名士でもあられる。善政家とも聞いた。人から怨まれるようなことはなかったと思いたいが……。

ウニーム 失礼ながら人は思わぬところから恨みを買うもの。先入観は、判断を鈍らせる元です。
ルガジーン そうだな……。

ラウバーン ……これは、ルガジーン殿。防衛軍は、いつから犯罪事件も担当するようになったのでしょうか?

ルガジーン ラウバーンか。皇都で起こった犯罪に、蛮族関与の可能性が認められる場合、我々にも調査権があるはずだ。
ラウバーン ……ほう。よろしい。では、お教えいたしましょう。

ラウバーン 実は、その男属州総督時代に、各地の地方領主から賄賂を受け取っていた疑いが濃厚でして……我々不滅隊が内偵を進めていたところだったのです。

うわぁ。

ウニーム やはり……怨恨の線が濃厚になってきましたな。

ラウバーン ご存じでしたかな?これで12人目ですぞ。

殺されたのが?
多いな!!

ルガジーン なんだと?どういうことだ!?

知らんかったんかい!
まぁ、管轄外だからか。

ラウバーン 頚動脈切断、延髄破壊、吹き矢の毒、アムルタートの蔓……殺害方法や凶器は状況により異なりますが……すべての被害者の口にはパママの皮が押しこまれていた。

ラウバーン そして、被害者はいずれも皇国の要職にあるものばかり。
ルガジーン 同一犯ということか……。

国の要職に付いてる人が12人も殺されたって、国政大丈夫なの!?ガッタガタなのでは??

ラウバーン さらに、我々の調査によると、汚職に手を染めている点も共通していました。

全員悪い事しとったんかい!
腐りすぎ!!

ラウバーン 蛮族の仕業にしてはいささか、趣向が過ぎることは御理解いただけましたかな?
ルガジーン ……そうだな。捜査権が不滅隊にあることは了解した。

ルガジーン だが、聖皇さまの身に危険が及ばぬとも限らぬ。この件の情報は、私にも渡してもらおう。
ラウバーン 承知しました。天蛇将殿。

不滅隊って一番偉そうにふんぞり返ってるのかと思ったけど、将軍の方が身分は上なのね。

ウニーム (……それからも私は天蛇将様の内意を受けて調査を続けたが被害者は毎晩、増えつづけ、捜査は遅々として進展せずに……そして、あの「ワラーラ賞授賞式騒動」が起こった……。)

ワラーラ賞授賞式騒動?

ウニーム (騒動の後、天蛇将様は探偵社に来られて成功報酬に等しい額を支払い、事件の捜査依頼を正式に取り下げられた。)

んん?
つまり、その騒動で事件のカタがついたって事よね。

ウニーム (しかし、私は犯人の尻尾すら掴めなかった自分が許せなくてな……。探偵を廃業したというわけさ。)

あらら。
気にしなくてよさそうなのに。

ウニーム (……ん、「ワラーラ賞授賞式」とは何かって?)
りぃ そこに答えがあるんじゃない?

ウニーム (ワラーラ寺院は知ってるだろう?あそこには昔からワラーラ哲学を学ぶため、皇国各地から数多くの優秀な学生が集まってくるんだ。その中でも特に成績優秀な学生たちには聖皇様より賞が授与されるのさ。)

へぇ。

ウニーム (だが、前回の授賞式のとき聖皇様のお命を狙う曲者が皇宮に侵入してな。それが「ワラーラ賞授賞式騒動」だよ。)
りぃ ええっ。

ウニーム (まあ、宮廷内の不祥事でもあり内々に処理されたから、関係者以外にはほとんど知られていない事件なんだが……。)

なるほど。

ウニーム (……よし、すべて話そうか……。私はな、2つの事件は、間違いなく関係していた、と睨んでいる。探偵の勘ってやつだ……)

ウニーム (しかし、しがない私立探偵の身分では、皇宮内での自由な捜査など許されるべくもないからな。そういった意味でもあの事件は、私にとっては迷宮に迷いこんじまった物なのさ。)

どうしようもないよね。

ウニーム (……だが、お前のその目。気に入ったぜ。この事件に、風穴を開けてみてくれよ。期待してるぞ、名探偵。)
りぃ うん。ありがと。

ワラーラ寺院に来てみたよ。

ナディーユ ようこそ、ワラーラ哲学の殿堂へ。当寺は理を探究する者に、常に門戸を開いております。おや、なにか質問ですか?質問は学問の基本。どうぞ、遠慮なさらずに……
りぃ 学問ではないんだけども…かくかくしかじか。

ナディーユ なるほど……2年前の連続殺人事件のことを調べて……ごくろうさまです。しかし、拙僧は学究の徒。俗世に疎くて、生憎その事件を知らないのですよ。お役にたてず、申し訳ありません……。

国の要職についてる人が十数人も連続殺人されてるのに知らないって、いくらなんでも相当だな。

ナディーユ ですが、前回の授賞式の騒動なら、よく覚えています。
りぃ おおっ。

ナディーユ 留学生でありながら堂々たる成績を修め、生徒代表に選出されたミリ・アリアポーを筆頭に……あのときは優秀な生徒が揃っていました。それなのに、あんなことになってしまい……
りぃ ミリがワラーラ寺院の学生?

しかも留学生?

ナディーユ ……おや、ご存じありませんでしたか?今は五蛇将として知られる彼女は、当寺の学僧だったのですよ。

知らんかった!

ミリ・アリアポー ………。

学生のミリだ。

ナディーユ ……ミリ?
ミリ・アリアポー ……これは、ナディーユ老師。

ナディーユ そのままで、かまいません。九時課は休憩してよいことになっています。他の学生は、みな外に出ていきましたよ……
ミリ・アリアポー いいんだ……。ボク、つるむの好きじゃないから。

ナディーユ ……ミリ。かつてワラーラさまは、こう申されました。

ナディーユ 「我が友よ、大いに飲み、語らん。そこにこそ、今宵の真理は生まれん」と。誰しも、友人は必要なのですよ。

ミリ・アリアポー ボクは故郷の人たちの寄附でここに来てる。遊んでる暇なんてないんだ。そのぶん、ワラーラさまと本で語らってるよ。
ナディーユ あなたの成績は確かに優秀です。ならば、その知識を他の学生たちにも分け与えてあげなさい。

ミリ・アリアポー どうして?ここに来たとき、みんなは、ボクの発音が可笑しいってバカにしてたのに?
ナディーユ それは、彼らが無智だったからです。今ではきっとそのときの自分を恥じていますよ。

発音がおかしい程度でバカにする人は反省するほど賢くないだろうな。

ミリ・アリアポー ふぅん、どうかな……お面を被ってるだけじゃない?みんなも、老師も、ボクだって……。
ナディーユ ミリ、他者に教わり教えることで、学問はより深まるもの。ほら、彼女をご覧なさい……。

ナディーユ あの子は集中力に欠ける所がありいつも試験で見当違いの答えを書いてしまいます。あのような迷えるカラクールを救ってあげるのも……。

アフマウじゃないですか。
ワラーラ寺院で勉強してたんだ。
でも成績は芳しくなかったんだな…?

ミリ・アリアポー あの子が迷えるカラクール?老師、やっぱりわかってないよ。

きっと身分を隠して来てるだろうけど、ミリは何かに気づいてる?

ナディーユ ミリ……!

飛び降りた!

??? : み、ミリ……

??? : あ、あの、わたくし……あなたとおやつをいっしょに食べたいと思って…………午餐のときになにも食べてなかったでしょう……?

??? : だから……バルックサンドを買ってきたの……。ほら、夜、時々……港でお魚釣ってるでしょう?だから、きっと、好きなのかなって……。
ミリ・アリアポー …………。

顔も名前も出ないな。

??? : あ、あのね、わたくし南国のツァヤに憧れてて……珊瑚礁とか、オポオポとか……。よかったら、お話を聞かせてほしいの……。
ミリ・アリアポー …………。

ツァヤに憧れてる?
アトルガンの属国で、結構ひどい目にあわせてるんじゃなかったっけ…?

??? : あ、それから……
ミリ・アリアポー ……そんなの嫌い。パンの匂いがするから……自分で食べれば?

魚は魚だけじゃないとダメなのか…!

??? : あっ、ミリ……。

ナディーユ いまでは立派になって……、拙僧だけの懐かしい思い出です。

アフマウの正体は知ってるんだろうか。

ナディーユ ……あ、そうでした。「ワラーラ賞授賞式」での騒動について、でしたね?
りぃ うん。

ナディーユ ……そうですね。では、そのとき生徒代表を務めていたミリ本人に聞いてみては如何でしょうか?

えっ、教えてくれるのかな。

ナディーユ 今でも彼女の人嫌いはそのままですからちょっと難儀するかもしれませんが……ひょっとしたら貴方が追っている事件のヒントくらい得られるかもしれませんよ。

ちょっとの難儀で済むだろうか…。

ナディーユ 真剣に求めるとき真実は、誰の前にも閉ざされることなくただ泰然として、そこに在るものですから……。

とりあえず行ってみるかぁ。

ミリ・アリアポー ……ん、傭兵?ボク、いま忙しいんだ。キミたちにかまってる暇なんかない。
りぃ かくかくしかじかで。

ミリ・アリアポー ……ナディーユ老師が?

ミリ・アリアポー …………。

ミリ・アリアポー 話がしたいんだね、わかったよ。
りぃ えっ、いいの?

ミリ・アリアポー エジワ蘿洞……。休憩時間になったら行くからそこで待ってて。
りぃ わかった。

ミリ・アリアポー そうそう、色とりどりの髪って知ってる?それがないと、会ってあげないからね。

色とりどりの髪?
持ってたかなぁ。

色とりどりの髪は次のストレージに存在します。
モグサッチェル

りぃ 持ってたわ。