……それは、2年ほど前のこと。当時は、ミッサードという皇族の元帥が、西部方面軍の総指揮を一手に任されていてね。ルガジーンさまは、まだ、その麾下で大隊長を任じておられた……。
……ふむ、なるほど。キミの言わんとしていること、よく分かった。作戦参謀たちに、一案として検討させておこう。
……ことは急を要するのです!近々、敵が大規模な攻勢に出る兆候があります。増援を待っていては手遅れになる危険性が!
ふぅ……、ルガジーンくん。バルラーンラインの防壁を思い出してみたまえ。そして、そこに配置された我が軍の兵士の数を!
たかが蛮族ごとき、束になって押し寄せてこようが、物の数ではないのだよ。
……。
すごい人数が配置されてるのね?
せめて……
……。
今夜、夜陰に乗じて敵陣に接近し、出端をくじくのです。
挙兵してまだ日の浅い蛮族どもは、士気旺盛なれども烏合の勢。うまくゆけば、同士討ちを誘引し、我が軍が皇都防壁を強化する時間を稼げるかもしれません。
……ルガジーンくん。
このまま、手をこまねいていては、バルラーンラインを一点突破され、防備の手薄な皇都が火の海となる危険性すら……。
ルガジーン!!
……はっ。
そろそろ口を慎みたまえ。たかが、大隊長の戦術レベルの具申を、くどくど聞いているほど、吾輩は暇ではないのだよ。
……。
現場レベルの情報ほど大事じゃないですかね?
なんだね、その不敬な態度は?よかろう……ルガジーンくん。貴様を本日付で大隊長より解任する。
……なっ!?
ええ!?
上官不敬罪により鞭刑を受けた後、一兵卒として原隊に復帰。後任の指示に従いたまえ。
……はっ。
こんなのが元帥…。
こいつがトップだから士気が下がってて負けてるってのもあるのでは?
ふん……。戦略も知らぬ、たかが大隊長風情がでしゃばりおって……。
……ん?なんだ?
どっちだ!?
西門のほうだ!
……おい、どうしたっ!?
あっ、ルガジーン大隊長どのっ!た、大変です!
ワジャームのバルラーンラインが突破され、大量の……大量のトロール兵が……皇都を包囲しています!
なんだと!?
やつら、攻城兵器まで持ってきています。このままでは皇都に雪崩れこむのも……
攻城兵器まで持ってこれてるって、一点突破されたどころじゃなくて結構やられたな?
バルラーンラインの防衛軍はどうした? あれだけの大軍だ。全滅したわけではあるまい。
後続してきた、マムージャ蕃国軍に翻弄され、釘付けにされている模様です。
くっ、遅かったか……。蛮族め……ついに。
……我が装甲大隊は、こちらに集結しつつあります。大隊長どの、ご指示を!
……すまない。
大隊長どの?
……私は先ほどミッサード閣下に、大隊長を解任され、指揮権がないのだ……。
……その閣下なら、あそこに……。
キョロキョロしてる。
走った。
めっちゃこっち見てる。
!?
逃げたあああああ!!!
なぜ、戦線へ向かわれない?まさか、将兵や民を見捨てて、逃げ出されるおつもりか……?
後ろの兵士2人、元帥が敵前逃亡したのにあまり動揺してないな。こういう人だって分かってたし、ついにやっちまったな。って感じなのかな。
……。
仕方ない。私が臨時で指揮をとろう。
は、はい!
総員、抜刀!五列縦隊を組み、白兵戦用意ッ!!
……市街戦になるぞ。
市街戦…。
本来ならとんでもない事態なのに、今や日常化…。
この時が初めての市街戦だったのかな?
ということは、2年前から始まったのか。
来た!
うろたえるな!長い行軍で、敵も疲れている。いま少し、持ちこたえれば、勝機は見えるはず。この戦、必ず勝てる!
いいか。建物は、敵に好きなだけ壊させておけ。むしろ、火の拡大を防いでくれる。だが、市民の命だけは、なんとしても守り抜くんだ。この街の未来が、諸君の双肩にかかっている!
おおっ!!
!?おい、君!どこに行くつもりだ?
そっちは危険だ。戻れ!
アフマウ!?
サジャルダ、しばらく、指揮を頼む……。
はっ。
いや、保護を部下に任せて、天さんは軍の指揮を執った方が良いのでは!?