この門の先への通行は許可していない。ご了解いただきたい。
これはこれは、デュフォン子爵!そしてアルテニア様!
こんにちは、ロスティーニュさん。
……あら、りぃさん。こんにちは。
こんにちは。
あ、こちらはフィリユーレ・S・デュフォン子爵。王都防衛の要、近衛騎士団の副団長よ。
お初にお目にかかります、りぃ殿。……おや?
門が開いた。
……な、何だ!?
誰か来た。
誰か追いかけて来た。
??? : そこをどけっ!私をッ……!私を彼女の代わりに、第一連隊に!
ボーレル卿!無茶はおやめください!
フィリユーレと同じ顔だけど、今喋ったのは追いかけてきた兵士の人。
どうか、どうか城へお戻りください!
ええい!お前たち!どけと言っておるのが聞こえぬのか!
名前がハルヴァーーー!!
……どうした、ハルヴァー。いや、ボーレル伯爵。かような場所で騒いでは、たとえ貴公といえど、そこにおられる神殿騎士たちの世話になりかねんぞ。
邪魔だてするな、フィリユーレ!たとえ莫逆の友の忠告であろうとも、今度ばかりは譲れん!
大切な妹がガルレージュ要塞に行ってしまうのだぞ!?それをただ黙って見ておれと言うのかッ!?
……なるほど、そういうことか。
たしかに危険を伴う作戦だ。だが、王の尖槍たらんと決死の反攻作戦に志願したアルテニアの胸裏……兄の貴公が汲まずして、誰がおもんばかる?
フィリユーレ様、ありがとうございます。
アルテニアがハルヴァーの妹ーー!!?
ハルヴァー、確か現代でトリオン王子の嫁に自分の妹を推薦してたよね!?
兄さん、大丈夫よ!あたしの槍の腕前をご存じでしょう?簡単にやられたりしないわ!
アルテニア……。
ボーレル卿、失礼します!さあっ!城にお戻りください!
力づくだー!
うおおお!アルテニア!
アルテニアァァ~!!
は、ハルヴァー…。
門が閉じた。
兄さん……。
困ったもんだね…。
……アルテニア。ああは言ったものの、私も少なからず心騒いでいる。そなたの属する紅燕騎士隊は、精鋭ぞろいの第一連隊中でも、名門中の名門。みすみす後れをとったりはせぬと信じているが……。
アルテニアすごく強いんだ。
近ごろジュノ近郊では敵軍の動きが、とみに活発化していると聞く。ハルヴァーのためにも、必ず帰ってくるのだぞ。
帰って行った。
何しにここに来たんだ…?
近くに寄ったついでに門番のロスティーニュにあいさつに来たのかしら。
りぃさん、ごめんなさい。お見苦しいところをお見せしてしまって……。さっき連れていかれたのはハルヴァー、あたしの兄です。
まさかだったよ。
実は、あたしの所属する隊が次の作戦でとても重要な役割を担うことになったの。詳しい内容は教えられないのだけれど……
もしかしたらあたし、みんなにもう会えなくなるかも……なんて。
そんなに命がけの作戦!?
……りぃさん……。あなたにお願いがあるの。
うん?
もし……もし万がいち、あたしがサンドリアに戻ることがなかったら……そのときはあなたの手で、エグセニミルたちを守ってほしいの。
お母さまにご不幸があって以来、あの子があたし以外の大人に心を開いたのは本当に久しぶりで……だから、エグセニミルを任せられるのはあなたしかいないって思ったの。
そうなのか。
どうか、あなたを見込んでのお願いです。引き受けていただけませんか?
嫌だ。そんな弱気だと本当に負けてしまうよ。
……ご、ごめんなさい。あたしったら、どうしたのかしら。そうよね。あの子たちを残してこの世を去るなんて、考えただけでもぞっとするわ……。
そうだよ。
ふふっ、ありがとう、りぃさん。おかげで目が覚めたわ。
あ……そろそろ時間。もういかないと。だけど、もうひとつ……。これだけは報告しておくべきね。
うん?
(ほら、脱走したオーク兵と吊り牢の前で密談していたっていう神殿大騎士ダルヴィーユのこと……。実は彼、目的不明の出立を、幾度となく繰り返しているらしいわ)
ほほう。
(ぜったい裏になにかあるわ。用心して!)
うん。わかった。
じゃあ、今度こそ行ってきます。りぃさんもお気をつけて。またどこかで。
行ってらっしゃい。
どうか、無事で。
任務ご苦労さまであります!先日の活躍をラーアル殿から聞いたであります。なんでも、血と肉に飢えたオークをボッコボコにしてやったとか。すごいであります!
あっ、肝心の作戦会議でありますが、団長の気まぐ……いえ命令で延期になったであります。
自由な団長だなぁ。
というのも団長と副団長は「ゲアルバン島の巨人偵察作戦II(ツー)」を緊急展開中だからであります。
えっ、またゲアルバン島に行っちゃったの!?
ちなみに申しあげますと、「II(ツー)」なる命名の理由は……りぃ殿が少年騎士団に入る以前に、いちど偵察作戦を実行したことがあるからであります。
え?団長たちの現在の状況でありますか?
ビスティヨ作戦本部長!!
……ロロン、そんな大声出さなくてもちゃんと聞こえてます。
前回の行動パターンから鑑みるに、団長はブンカール浦に到着し、情報収集を始めたころではないでしょうか。
団長たちはふたりだけで大丈夫でありましょうか?
以前の作戦のとき……灰色の巨人を見て腰を抜かしてしまったのは我輩にとって苦い想い出であります……。
ロロンも行ってたのね。
まあ、いくらあの無謀な団長でも、まさか巨人を相手に力くらべを挑んだりはしないでしょう。
もしかしたら、団長たちは、その灰色の巨人を見にいったのかもしれないであります。
灰色の巨人?
前はブンカール浦の橋あたりで灰色の巨人を見たであります。つまり、団長たちはそこにいるかもであります!
そこに行けばいいのね。