新たなる猜疑 其の弐

エンゲルハルト な、なんだ?りぃ。いま忙しいんだ。話しかけないでくれ。
りぃ あら、ごめんね。

抜き足差し足で動き出したぞ?
怪しいが過ぎる!

誰かいる。

Ernestine 尾行されてないでしょうね。
エンゲルハルト ああ、大丈夫だ。ミスリル銃士隊もまだ、俺には目をつけていないようだ。

それはちょっと甘いわね。

エンゲルハルト それより、アジトの方は無事なのか?エルディーム古墳の……

Ernestine シッ、声が大きい!

かわいい。

Ernestine ……あそこは無事よ。いまのうちに処分してしまえば問題ないわ。

私、めちゃくちゃ堂々と見てるけどバレてないんですかね!!?!?!?

エンゲルハルト くれぐれも注意しろよ。
Ernestine わかってる。

全く隠れてない。

バレなかった!!!

古墳にアジトかぁ。

棺の下から、妙な物音が聞こえる……。

りぃ ん?

この下にアジト?

Ernestine ちょっと、あなた。こんなところで何をしているの?
りぃ なんか音がするなぁって。

Ernestine 棺の下から物音が聞こえたですって?寝ぼけたことを言わないでちょうだい。ここは危険よ。早く立ち去りなさい。

ドゴォン!

Ernestine !?

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

なっ、なんぞー!?
中から砂埃が!!

ガコォン

えーーーーっ!?
なんで古墳にアンティカ!?

Ernestine なっ……!

アンティカにびっくりしたのか、出てきたことに驚いたのか。

あっ。

砂の呪縛!

石化しちゃった。

来るならこいっ!

ん?

ザイド!?

ザイドが敵を倒した……だと…………!?

フォルカー そいつは……アンティカ!?どうして、こんな場所に……。

ザイド おまえはベルナー軍務大臣に雇われた傭兵組織の者だな。どういうことか説明しろ。

Ernestine フッ、ミスリル銃士隊に嗅ぎつけられたか……。エンゲルハルトのやつ、やっぱりマークされていたのね。

Ernestine ……そのアンティカは、棺の下に監禁していたの。軍務大臣の依頼を受けてね……。
ザイド 何だと?

Ernestine 軍務大臣はアンティカ帝国がもつ恐るべき兵力を戦争に活かせないものかと考えてたのよ……。
ザイド ……!?

ザイド 何を言い出すか!やつらとの同盟などという世迷言、軍務大臣が口にするはずがなかろう。
フォルカー 確かにアンティカ帝国の潜在的軍事力は、この戦争のゆくえを一気に決めてしまいかねない規模を誇る。

フォルカー しかし、やつらとの取引など……
Ernestine ……もちろん、外交交渉や取引で連合軍に引き込もうだなんて穏便な話じゃないわよ。

Ernestine 軍務大臣はシフートを改造して、アンティカの兵士を操る計画を進めていた……その捕虜は実験用よ!
ザイド 何ということを……。

無理矢理思いのままに動かすってことよね。そんなこと可能なの?
アンティカの会話は人間のような言葉じゃなくて、骨の摩擦音でやるらしいからなんか超音波的な頭痛くなるアレでできるってことかしら。

ザイド そのような愚かな計画など、今すぐここで断ち切ってくれる……!

ガキィン!

おおっ?

フォルカー やめろ、ウォークラウド!

ヒュームが付けたザイドの名前、ウォークラウドっていうの。

ザイド ……私をその名で呼ぶな!
フォルカー このアンティカは、捕虜として軍規にのっとって扱わねばならぬ。それにもう、抵抗できる状態では……

動き出した!

フォルカー !!

ザイド アンティカ族を侮るな。こいつらは生まれながらの戦闘機械……やつらにアルタナの民の常識は通用しない。生存の機会をあたえれば、いずれわれらの敵となりふたたびわが軍の脅威となるだけだ。

Ernestine フッ。よくわかってるじゃない。アンティカの敗残兵に捕虜としての価値はない。たとえ母国に戻れたとしても、死より過酷な運命が待っているだけ……。

Ernestine そんなやつらを操ろうだなんてね。その計画に手を貸したあたしが言うのも何だけれど……

Ernestine 軍務大臣の計画に、大統領とペイルイーグル議長が「危険だから」という理由で反対したのも、ま、常識的な判断ね。
フォルカー なに、大統領が?

Ernestine ……あら、知らなかったの?戻ったら、聞いてみることね。

なんか親切に色々教えてくれるわね。
大臣もういないし、アジト潰すつもりだったしいっかーって感じかな。

フォルカー ……すまない。われわれは君を尾行していたんだ。君が、あの傭兵組織と接触する可能性があったからな。

私をつけてたんかい。
まぁ、やるべきよね。

フォルカー 例のエンゲルハルトという男が傭兵組織の窓口だということはわかっていた。そこであの男を、わざと自由にさせておいたんだ。

フォルカー エンゲルハルトと君がまた接触したときは正直言って君を疑わざるを得なかったが……でもさっきの女は、君のことをまったく知らなかったようだな。

最初から見ててくれて助かった。

フォルカー 君は、あの傭兵組織とは本当に関係がなかったわけだ。利用するような真似をして、申し訳ないことをした。
りぃ 気にしてないよ。

ザイド …………。

ザイドはまだ疑ってる?

フォルカー それにしても、まさかこんな計画が進行していたとは。
ザイド 隊長に報告せねばならん。行くぞ。