りぃさん、すぐに天の塔へ来たれと命令が出ています。どうやら、ヤグードたちがまた騒いでいる様子です。
ええーっ。ヤグード?めんどいねぇ。
ミッションを受けるの、途中まではランク○の冒険者。とかいう指定だったけど、最近は名指しで呼び出されるようになったのぅ。
星の神子さま宛てに、ヤグードとウィンダスの間に交わされている和平条約を見直すよう、申し入れがあったとのこと。
今度はどんな因縁をつけてきてるんだろう。
ヤグードの申し入れは回を増すごとに、強気になってきているそうです。どうも、戦争をしたがっているとしか思えません。
ふむぅ。
天の塔から出される指令書に神子さまが署名を入れてくれないのなの!どうしても必要な手続きが進まないのなの!神子さま、たすけてなの!
遅延頑張って…!
神子さまが今、満月の泉に拉致されてるっていうのは超極秘事項になってるのね。
早く助けないと…。
…わかっているな、りぃよ。
ピッ。
事を知るのは、ワシと守護戦士、そして、アジドマルジドとおまえさんのみ。
なるほど、ズババ様にだけは知らせて、天の塔の機能が止まらないようにうまいことやってもらってるのね。
ウィンダスの未来は、おまえたちに託された。どんな手をつかってでも星の神子さまをお助けするのだ。
絶対に助けます。
あ、セミ・ラフィーナ。
…。
神子さまやっぱりいない…。
…りぃか。
おまたせ。
ミッションの説明は受けたわね?
うん。
やっかいなことになったわ。ウィンダスとの間に結んだ和平条約に違反があったと、ヤグードどもが騒いでいるの。
違反?
和平条約文には、「西サルタバルタにある中央魔法塔は、双方の同意ない限り、今後二度と動かさない」という約束事が記されている。
あら。
しかし、アジドマルジドが魔導球を使って中央塔を動かしてしまった。それを目ざとく見つけたらしい。
ヤグードはここの先住民だから、いろいろ詳しいからねぇ。
満月の泉にもう魔力がほとんどないのも気づいていたし。
ヤグードどもは、ホルトト遺跡をよこせと息巻いてるわ。奴等は、ウィンダスの目と鼻の先に、確固たる拠点を作りたいのでしょう。もちろん、そんなことはさせないけれど…。
ああー、本当賢いねぇ。
隙を見つけたらすかさず突いてくる。
…。とにかく今は、星の神子さまをお救いすることが最も優先すべきこと。アジドマルジドに会いに行きましょう。
ここは…。
心の院だ。
あの衝立の陰にあるドアから繋がってたのね。
あ、アプルルちゃんもいる。
…。
アジマル、頭抱えてめちゃくちゃうろうろしとるが!
ずっと目で追ってるアプルルちゃんがまた可愛い。
セミ・ラフィーナさま…。
アプルル!?あなたがここにいるということは…
…はい…。おにいちゃんから、聞きました。神子さまになにがあったのか…。
ぜんぶ、手の院の責任です!神子さま…、セミ・ラフィーナさま…、ウィンダスのみなさん、ごめんなさい…!
えっ!?アプルルちゃんは何も悪くないのでは!?
アプルル、顔をあげなさい。これは、あなたの責任ではないわ。
得体のしれぬものがうろついている中、神子さまを満月の泉へお連れした私こそが、すべての責任を負うべきなのだ。
セミ・ラフィーナさま…。
得体のしれないものじゃないぞ。
黒き使者は、おそらく蘇ったカラハバルハだ。
な、なんだと!?
やっぱりそうだよね。
でもどうして、あんなに本人の意思を感じられないんだろう…?
…ここに残されていた研究は完璧だった。あらゆる系統を超えて、はるかなる高みを見通した、完全な理論。
アジマルに完全と言わせるなんて。
完全召喚は成功し、彼は、大いなる獣フェンリルの心を支配したんだ。しかし、大いなる心を人の体は支えられなかった。カラハバルハの体は死に、それが神獣フェンリルをも殺すことになった…。
…そう、蘇った死者…「黒き死者」はカラハバルハであり、そしてフェンリルでもあるんだ。
黒き使者は、基本カラハバルハだけどフェンリルと混ぜこぜになってるから、見た目も変わってるし意識もよく分からない感じになってるのかなぁ?
ジョーカーの方はフェンリルが強いみたいだけど、カラハバルハもいる…ってことなのかしら。
カラハバルハでもあり、大いなる獣フェンリルでもある存在…。
だから、カーディアン・ジョーカーは満月の泉を占拠したのね。でも、なぜ神子さまを?
まさか、復讐のつもりか!?
黒き使者がフェンリルだというならば、自分を死に追いやった神子さまを恨んでいるはず。
考えたのも手を下したのもカラハバルハだけど、いわゆる上司は神子さまだから、責任が…なのか。
神子さまのところへ現れたのも、神子さまへの憎しみから…?
…そこはまだ、俺にもわからん。ジョーカーが望む結果…すなわち、黒き使者が満月の泉へ戻ったとき、いったいなにが起こるのか。
ただ、無傷で神子さまをお救いするには、ジョーカーの望みどおりにするしかないだろう。
くっ。
けれども、そうは言っても、あれは神出鬼没の存在。しかもどんな攻撃も効かないとなれば、無理に連れてくることなど不可能だわ。
だいじょうぶだ。黒き使者がフェンリルならば、彼を満月の泉に呼ぶ方法がひとつだけある。
おおっ、どんな?
「神々の書」にあった古代の民クリューの歌だ。クリューの民は大いなる獣たちと盟約を交わしていたそうだ。
あ、やっぱりクリュー人はフェンリルと何か契約を交わしてたのね。
「大いなる獣たち」だから、召喚獣全員ともかぁ。
その曲は、3つに分かれて、古代の遺跡に残されている…。
盟約に関する、曲?
りぃ、その曲を集めるのは、おまえに頼みたい。そのありかは3つ。ロ・メーヴ、宣託の間、ウガレピ寺院…。
うん。わかった。
全部、クリュー人ゆかりの地だね。
どのような形で残されているかまではわからないが、後世の人間に伝わるような形をしているはずだ。
そしてセミ・ラフィーナ、おまえはミスラの族長ペリィ・ヴァシャイに事態の説明をしてくれ。もしも、神子さまになにかがあれば、俺たちタルタルは気力を失い、戦うどころか、なにもできなくなるだろう。
確かに…。
そんな状況で、ヤグードどもに襲われたら、ウィンダスは瞬く間に陥落する…。
ひぇ。
その戦いが起こったときは、おまえたちミスラの戦士が中心となるだろう。力を貸してくれ、セミ・ラフィーナ。
…わかった。ペリィ・ヴァシャイ族長と共に、ヤグードの急襲に対する軍備を整えておこう。
頼もしすぎる。
しかし、そのような事態が起こらぬようにしてくれ、アジドマルジド…
早速準備に向かった。仕事が早いッ!
あとは…アプルル、おまえが最初に話してたことの続きだが、本当にカーディアンたちを麻痺させることができるのか?
…うん、おにいちゃん。彼らの魔導球に、とっても強い星月の力を与えれば、彼らを動かす力の流れがおかしくなると思うの。
雷が落ちたみたいになるのかな。
ほんとうに短い間だと思うけど、力の流れが元に戻るまで動けなくなると思う。
再起動するまでのわずかな隙か。その隙を狙って、神子さまを…。
しかし、それほどの力、どうやって集めるんだ?おまえに扱えるか?
…おにいちゃん、任せて!わたし、おにいちゃんがいない間に、いろんなことを知ったんだから!
とっても頑張ったものね。
へぇ、よく言うぜ。どこかの誰かが悪知恵を授けただけじゃないか?
そんなことない…もん!おにいちゃん、わたし行くからね!
まぁ、せいぜい無理するなよ。
素直に、頑張れ。頼んだよ。って言いなよ。
ねぇ。
(それにしても……)
(カラハバルハよ…おまえほどの魔道士が、「完全召喚」によって自分が死ぬことを予想できなかったのか?)
(……もしも……)
(もしも、予想していたとしたら…すべてを予想していたのなら…?)
すべてを…予想していたら?
星月の意思を変えさせるという不確かなことに賭けるより、殺すことで意思を無くし月詠みの予言を破棄した方が確実…。
しかしフェンリルを倒すのはおそらくなかなか無理な話で、それなら完全召喚で自分の中に取り込んで、おそらく体が耐え切れなくなって死ぬだろうけど、フェンリルを道連れにすることができる…。
この時点で始まりの神子の月詠みは消え、ウィンダスの滅びの予言も無効となる。
その後、何らかの手段で自分の寿命を吹き込んでおいたジョーカーを復活させ、自分が生き返ると同時にフェンリルも生き返り、フェンリルを完全蘇生させてサルタバルタに星月の加護を取り戻す。
始まりの神子の予言は消え、ウィンダスの滅びは無くなり、星月の力も失わない。
犠牲になるのはカラハバルハひとり。
ウィンダスの国と、国民全員を護るのと引き換えにひとりの命で…!
今回は神子さまの願いで蘇ったけど、おそらくカラハバルハは他に手段を用意していたはず…。
…エースカーディアン!!
だから、エースカーディアンはあんなに王の復活に固執してたんだ!
ジョーカーがカラハバルハの家に保管されていたのも、カラハバルハが完全召喚前に自分で置いた…のか、ジョーカーが死んだらあそこに保管しておけってエースカーディアンに命令していたのかな。
なんてこと…。
計画は完璧でも、完璧に計画を実行できるかなんて。
しかももう自分は死んでて何もできないのに。
でも、もう少しで、完遂できそう。
大天才、カラハバルハかぁ…。