ようこそいらっしゃいました。総長講話会をお聞きになって、なお楽園についての質問がおありだとか?
普通納得しないと思うんだけど、信者たちは盲目になってるのか洗脳されてるのか?
繰り返し同じことをきいて麻痺してるのかな。
タブナジア大聖堂の洗礼を受けたお嬢さん、冒険者の方、どうぞこちらへ……
場所を移さないと話せない事…?
ここは、聖遺物堂。サンドリア大聖堂の前教皇ムシャヴァット枢機卿様を偲んで造られたものでございます。
赤AFでおばけが出たところかな。
ムシャヴァット枢機卿様は、大戦によって民が負った、深く痛ましい傷痕を癒すがために、身も心もお尽くしになりました。
そのご様子を、暁の女神アルタナ様は、見守ってくださっていたのでしょう。その労苦がたたりお倒れになってしまったその夜、枢機卿様は楽園への道を悟られましたのです。
楽園への道を……?
はい。ムシャヴァット枢機卿様は「私利私欲を捨て、神に帰依せよ」とおっしゃいました。それこそが楽園へ通じる道なのでございます。
「これが楽園へ通じる道だ」って言ったのかな?
違うんじゃないのー?って気がするよね。
私たちは永い間、楽園への道、楽園への扉は、目に見えるものだとばかり思っておりました。サンドリア大聖堂に残された古文書をあさましく漁り、他国の砦を攻め落とし……タブナジア侯国にある大聖堂と争うこともありました……。
他国を攻めたのは資料探しが目的でもあった、と。
死も怖れもない楽園を望みながら、私たちは死と恐れを自ら求め、楽園を遠ざけていたのです。その悪夢より目覚めることができた私たちは、同じく私たちの友や隣人を目覚めさせなければなりません。
えぇ…。
まぁ、サンドリア国教会の信者のことかな。
どうでしょう、お二方とも、おわかりになりましたか?
……ええ、だいたいのことはわかりました。
やっぱりおかしい。ってのが分かったよね。
しかし、男神が人にかけたといわれる呪いはどのようにして解かれるのでしょう?
それは……。
……それについては、軽率に語ることを許されてはおりません。なにしろ忌むべき神のことですからね……。その意味についてはあなたもよくおわかりでしょう?
……。
知らないんじゃないのぉ?
お嬢さん、冒険者の方、なにも心配することはないのですよ。私たちは、あまねく人々に祝福を与えるがために、女神アルタナ様に勤め上げております。
神を信じれば救われる。
お祈りしとけば大丈夫。
って考えがそもそも無いから、言ってることが分かるわけがなかった。ってことが分かった。
女神アルタナ様のお言葉に従って、清く正しく生きていれば、必ず悪神は退けられ、楽園の扉は等しく開かれるのですから。
……ええ。おっしゃること、よくわかります。ご親切に、ありがとうございます……。
またウルミアが受けた教えと真逆の事言われてるのに、大人だなぁ。
いえいえ、お礼などおっしゃる必要はございません。楽園のことをわかっていただいただけで私はこのうえのない幸せを感じております。
本当に自分たちの教えが信者以外にも分かってもらえてるって思ってんのかな。
思ってそうだな。
教える側も盲目になっちゃってるし。
ああ、そういえば……
冒険者の方は、王立騎士フランマージュ・M・ミスタルさまをお探しなのでしたね。
あ、うん。
私の記憶が確かでしたら、ジャグナー森林の奥、ギルド桟橋付近が、今はなきミスタル伯爵家の領地だったと思います。そこに行かれてはいかがでしょうか?お屋敷には近づけませんが、使用人のひとりやふたりが、薪でも集めていることでしょう。
あれ?今はテュロム伯爵の領地になってなかったっけ。
フランマージュが死んだ後に奪われて。
ま、いいか。行ってみよう。