第4章
迷い子の揺りかご
やっと帰ってきたぜ!懐かしきタブナジアへ!
アルドは優秀な航海士を見つけたのね。
みんな、元気だったかよ!そんな顔するなって、俺は幽霊かなんかじゃねぇぞ!
少し、妙な雰囲気ですね?……なにかあったのでしょうか?
プリッシュ、ウルミア!無事だったのだな!
ジャスティニアス、どうした?なにかあったのか?
それが……
何かあったんだな。
プリッシュ、ウルミア、こちらへ来なさい。おまえたちに話がある。
長老だ。
おじいさま……?
えっ、ウルミア、長老の孫だったの!?
あんなに枢機卿のことを信じてたデスパシエール老が、こうもあっさりよそ者の言うことを信じてしまうとはね……。
よそ者?
ナグモラーダのこと?
年を取ると、何かにすがらないと、生きていけないものなんだろうか……。なんだか悲しいね。
うーん、なんだか不穏だわね。
りぃさん、よくお帰りになりました。わしらはあなたに今一度お会いして、お礼を申しあげねばならないと思っていたのです。
えっ、どうして?
あなたがナグモラーダ様とここタブナジアに現れなければ、わしらはこの島にずっと取り残されていたことでしょう。
ナグモラーダ様!?
どうした!?
しかも、わしの孫ウルミアを無事にタブナジアに送り届けていただいたことにも感謝の言葉がありません。
失礼いたしまする。よろしいかな?
これはこれは、東の国からお越しになった方。よくぞ海のかなたより、このような小さな町にまでお越しくださいました。私はウルミアの祖父、デスパシエールと申します。
心温まるもてなし、そのお心遣い感謝いたす。我輩、テンゼンと申す者。ひんがしの国より、バハムートに会わんがためジュノに渡り、運命の導きかプリッシュ殿、ウルミア殿と出会い、この地に渡ること叶った次第……。
……よってぜひにとも、我輩が町から出ること、お許し願いたい。我輩の旅はバハムートに会わねば終わらず、終わらずして祖国に帰ることはできませぬ。
そうですか。バハムートに会うがために、わざわざこのようなところまで……。
街から出ること禁止されてるの?
どうしてまた。
しかし、テンゼン殿。この件については、もうしばらくお待ちいただけませぬか?バハムートは、この町の目と鼻の先に住処を作ったようでしてな。余計な刺激を与えれば、この町がどのような目にあうかわかりませぬ。
今しばらく待てば、礼拝堂よりジュノの外交官ナグモラーダ様がお帰りになります。ナグモラーダ様とご一緒ならば、バハムートにまみえることも許されましょう。
あー、そうかも。
それまでどうか、この町にてお休みください。できるだけのもてなしを致します。
ジュノの外交官殿が?……分かり申した。今しばらく待つことにいたす。
ナグモラーダ、礼拝堂に何しに行ってるのかな。
まぁ、絶対に良からぬこと考えてるんだろうけど。
ところで、それはそれとして、町の中とて何故にプリッシュ殿に会うこと、叶わぬのでござろうか?
プリッシュに会わせてもらえない?
我輩、彼女に尋ねたいことがござる。しかし、彼女の部屋の前に立つ者に取り次ぎを頼めども、取り合ってはもらえませぬ。
申し訳ありません。実は、そうは見えないかもしれませんが、プリッシュには重い病があるのです。
しかしあの性格ですから、あのように無理ばかりして困ったものです。ナグモラーダ様の計らいで、ジュノとの交易が蘇った今、彼女にはゆっくりと病を治すべく努力してもらわねばなりません。
ジュノと交易?
良かったじゃない!
物資が残り少なくなって困ってたものね。
だからナグモラーダ様とか言っちゃってるのかな。
ふむ、そのような事情があったでござるか。確かにそういわれればそうでござるな、りぃ殿。
ん?うん、まぁ、そうだね。
ではデスパシエール殿、バハムートの件、よろしく頼むでござる。
テンゼン納得いってないな。
参ったでござるな。我輩、ジュノの兵士がバハムートを討伐せんとくる前に、バハムートに会わなければならぬ。
そういえばバハムートを捕獲する的な事言ってたよね。
ナグモラーダ待ってられないじゃない。
しかし、プリッシュ殿には会えず、ウルミア殿も見つからないでござる。うむむ、いったいどうすべきでござろう。
長老のお孫さんのウルミアの歌はそれはすばらしいものですよ。あれほど美しい歌声の主はそうはいません。
タブナジアの人たちに勇気と癒しを与えてるんだろうな。
でも……そういえば、昔の聖歌隊には、ウルミアと同じようにすばらしい歌声の女の子がいましたわ。あの子が生きていれば……もう一度、あの子の歌声も聞きたいものです。名前は……エメリーヌと言ったかしら?
エメリーヌ?
うーん、聞き覚えは無いような気がする?
今後重要人物になったりするのかな。
プリッシュがいたからこそ、この町は20年もの間、たくましく生き残り、人らしく住処を作り、生活を営むことができたのだ。
絶望しかなかった中、あの元気で励まし続けたんだろうな。
彼女が特別な存在だったということが、暁の女神さまの奇跡だったというのに、その奇跡を今になって再び閉じ込めるとは……。
「忌むべき子」が暁の女神の奇跡?
年寄りたちと真反対の考え方ね。
え?閉じ込められてるの?
長老が病気って言ってたのは口実?
ウルミアを探している?彼女なら、いつもの海岸だ。珍しく、デスパシエール殿と激しく言い争っていたからな。
プリッシュを閉じ込めるのに猛反対したんだろうな。
デスパシエール老はあのジュノから来た男を信頼しきっているようだが……。……嫌な予感がする。あのタルタルたちの様子もおかしい。
あのタルタルたちって、チェブキー兄妹かな。
なんだかさらに雲行きが怪しくなってきたなぁ。