取ってきたよ。
おお、この木片にウェライの遺した言葉が書いてあるのだな?これは重要な調査資料として受け取っておこう。
それではこれで……ん?マカリム監督官、どうかしましたか?
大変なことになったわ!鉱山区のガルカたちが鉱山の入口に押しかけてきて……。
えぇ?
何ですと!?
うわぁ!?
何事??
どうして冒険者にだけコロロカの洞門を開放するんだ!俺達をいつまでこんな狭苦しい街に閉じ込めておくつもりだ!!
鉱山労働者としてこき使われるためだけにこの地にいる訳じゃない!
冒険者だけ行かせるってのは、知られたくない何かがあるからじゃねえのか?
もうヒュームたちに歴史を曲げられたり、隠されたりするのはたくさんだ!
こ、これは大変!
アイアンイーターが来ても収まるかどうか…。
お、おまえら落ち着け……な。
そうだぞ!洞門を封鎖しているのはおまえらの安全のためにだな……。
いつまでそんな話でごまかされると思ってる!!
なにごとだ、これは!?
あっ、来た。
あ、アイアンイーターさん!なんとかしてよ!冒険者だけにコロロカの洞門開いて、オレたちを閉じ込めようとするからこんな騒ぎに……。
何をバカなことを……。
あ、グンパ!
おおっ!?
……いい加減にしろ!いつまでそんな妄想にとらわれているんだ!
コロロカの先に何があるか……だと!?知っているはずだろ!!そこにはただ砂漠が広がっているだけだ。そんなところを理想郷だと思いたいのか?
ガキは引っ込んでろ!
ずいぶんと偉そうな口をたたくじゃねえか、ガキのくせによお……。まるで自分が見てきたような言い方だな。
……見てきたよ。100年ほど前にね。
100年……だと?おまえはまだ転生して20年ぐらいでは……?
まだ若かったオレとウェライはガードの目をかいくぐり、コロロカの洞門へと入った……。
ああ、ついに正体を明かしてしまうのね。
なんのことはない、洞門を抜けたら、そこには広がる砂漠と点在する遺跡があっただけだ。
あんなのが理想郷か?アンティカたちを相手に力だめしはできても、そんな所に生活があるか?
冒険者じゃない、バストゥークで仕事をして生活をしているガルカは砂漠を見たことが無いのね。
滅んだと知ってはいても、今の生活が不満だと、かつての故郷に理想を求めてしまうのも仕方ないのかもしれない…。
そんなことはみんな知っていたはずじゃないのか?1人のガルカが記憶を伝えないと歴史は語り継げないものになってしまったのか?
グンパ……。
おまえ、まさか……。
ガルカの民に問う!ヒュームに対する不満をまぎらすためにアンティカと戦いたいと言うのか!?
ガルカの民に問う!砂漠の果てに理想郷など存在すると本当に思っているのか!?
ガルカの民に問う!我々は、語り部がいなければ記憶を紡ぐことのできない種であったのか!?
たしかに……ヒュームたちに憤る日もあるだろう……。ヒュームの目に映る世界と我々の目に映る世界は違うものなのかもしれない。そう思う日もあるだろう。
しかしそれは、我々ガルカの間でも同じだ。隣にいる同胞が、同じ色で、同じ形にこの世界を認識しているという保証がどこにある!?
そんな保証はどこにもない……けれど、我々が同じ地に、同じこのヴァナ・ディールに、同じこのバストゥークに存在していることだけは疑いようのない事実だ!
考え方や認識の違いなど、あって当然だろう、しかし我々は共にこの地に立っている!生きているんだ!
我々の未来はアルテパ砂漠の先になどない!このバストゥークと共にしかないんだ!
ラオグリムもウェライも、ザイドも、もうこの街にはいない。けれど、語り部なんていなくたってボクたちは、記憶を紡ぐことができるはずだ。
この街の皆が、運悪く200年前の記憶をもって転生してきたガキの言うことなんて聞く必要はないんだよ……。
けど、みんなが迷うことがあるなら、ボクも少しでも力にならせてほしい。役に立たない200年前の記憶だって語るよ……。語り部なんていなくてもみんなが希望をもって生活できるように……。
グンパ、おまえ……。
久しぶりに大人のしゃべり方なんかしたら、疲れちゃったよ。これで、あいつも……ウェライも、喜んでくれるよね、きっと。
立派な演説だったよ。グンパ。
語り部が現れた安心感と、心に響いたであろう言葉を受け止めて、ガルカたちは落ち着くだろうね。
えぇー!?
ヌルっとランク9になったぁ!