はい~、登校ですね?では、シルバーケトルさんを呼んできますので、待っててくださ~い。
お待たせしただな。んだば、早速出発進行ぉ~。
おらは運び屋~♪ヘイボー……
どんどんと歌が省略されていく。
……軍曹かと思ったら君か。他の連中なら、まだ来てないよ。まだ、遺書でも書いてるんだろう。
ネオザリアは?
ん……?私は書かなかった。……渡す相手もいないしな。
渡す相手がいない?
伯爵家の御曹司なのに??
なんか、闇が深いのかしら。
それより、りぃ。君はなにも感じないのか?
うん?
なにか不吉なことが起こる前のあの肌がピリピリする気のようなものを……。
フッ、私としたことが……なんでもない。今の話は忘れてくれ。
弱気になってるのかな。
それとも本当に何か起こってしまうのか…。
おい、ウジ虫ども。マムージャが大切にしている奇妙な水の噂を聞いたことがあるか?「変身の水」と呼ばれるドロドロした水のことだ。無論、ただの水ではない。
マムークの壺の中に入ってるアレね。
聞いて、腰を抜かすなよ。その水を人間が口にしたとする。すると周囲からはその人間がマムージャ、つまりマムージャ側からしてみれば、同族のお仲間に見えてしまうのだ。
知ってた。
この前飲んで、じわじわHP減っていってて焦った。
詳しい原因はわからんが水の匂いがヤツらの視神経に作用し集団幻覚のようなものを引き起こすらしい。不思議な水もあったものだ。
あれって本当にマムージャになってるんじゃなくて、幻覚だったんだ。
さて、その「変身の水」は我々にある潜在的脅威を暗示している。それがなにか、わかるウジ虫?
そんなの決まってるじゃん。不細工なマムージャの顔になったまま戻らなかったらと思うと、ぞっとするもん。
ネズミッ子!残念だが、まったく外れだ!後で、学校100周。
もし、人間に変身できる水を蛮族が発見したら、人間に化けた敵が大手をふって皇都で破壊活動を始める可能性が考えられます。
そのとおりだ、御曹司!無論、現在のところ、そのような兆候はないが今後、起こり得る可能性は捨てきれんだろう。
ああー、なるほど。
それは大変。
例えば、貴様らの部下にその水で変装した蛮族の工作員が紛れ込んでみろ。貴様らの部隊は、確実に死地に赴くことになるのだ。故に、士官たるもの工作員を見破る第六感を養わねばならん。そのための実習が、今回の「防諜訓練」である。
なお、本実習はキキルン傭兵を始めとして、我が社の大勢の社員にも協力を仰ぐ大掛かりなものとなる。貴様ら、私に恥をかかせるなよ。
キキルンの傭兵もいるんだ。
あ、ビシージの時にいるあの人たちかしら。
では、後期実習の記念すべき魁は……貴様だ。りぃ!
またかい。
訓練方法を説明する!
今、貴様の前にはナンバリングされたヒュームの傭兵たちが立っているな。間違いないか?
うん。
くくくっ!貴様の目は節穴か! 実はこの中にヒュームに成りすましたキキルンが混じっているのだ!
そんなん分からんわ!
どうして、そう見えるか教えてやろう。ここにはキキルンがヒュームに見える特殊な魅了の魔法が付与されているのだ。故に、視覚や嗅覚など五感はまったく頼りにならん。貴様は第六感だけを頼りにキキルン傭兵のみにマーキングをしていくのだ。
すべてのキキルン傭兵にマーキングし終えたら、答えあわせと行こう。なに、迷うことはない。貴様に第六感があれば、な?
よし、防諜試験レベルC!キキルン傭兵すべてにマーキングしてみろ!
大人数(4人)を一度に調べる。少人数(2人)に絞り込んで調べる。ってのがあって、調べたら「ひとつの違和感を覚える」とか出るから、それを駆使してキキルンをマーキングしていく。というシステムのようだ。
長くなるので過程は省略。
こうだー!
よし!正解!
いい気になるな。これくらいできて当然だ。では、防諜試験レベルB!そろそろ、すべての傭兵が怪しく見えてくる頃ではないか?
こうだー!
よし!!
ほう、キキルンをすべて発見したか。だが、このレベルではどうかな?これがラストだ、防諜試験レベルA!敵の気配すら感じとれぬようでは貴様に兵を率いる資格はないぞ!
今回のはさすがにややこしいな。
あれ、ログウィンドウが大きくならなくて前のやつが見えない!
なんだったっけ、忘れた…!ヒィー!!
こ、こう…?
この程度もクリアできぬとは……。もしや貴様は人間に扮した蛮族だな!?
くっ…。
と……思ったが私は慈悲ぶかいことで有名でな……。あと1回ほど、再チャレンジさせてやろう。
えっ、本当に!?
これがラストだ、防諜試験レベルA!敵の気配すら感じとれぬようでは貴様に兵を率いる資格はないぞ!
こうだー!!!
よし、合格だ!その感覚を忘れるなよ!蛮族に寝首を掻かれたくなかったらな!!
やったー!
え~と、え~と……ん、あの人?なんだかヒュームにしては目が丸いぞ……いや待て待て、こっちの人、鼻をヒクヒクさせてる……。
ねぇ、ファルズン。それは目で見てるでしょ。この試験では視覚に惑わされちゃダメなの。
「ひとつの違和感を覚える」とか出てたのは目で判断してるんじゃなくて感じてたからなのか。
……そうだ、ファルズン!あたしの方を見て……。
ファルズンはヤスミールをじっと見つめた……!
ううんそうじゃなくて、あたしを心で感じてみて……。どう?あたしの色が見えてこない?
獣使いが操る時の色とSEあっは~ん!
え?……え?色……色…………あっ……レッドローズ?みたいな色が……見えた……気が……。
そう、それよ!その感覚で、傭兵さんたちを見てみて。キキルンはじっとしているのが苦手だからイライラして赤い色がにじんで見えるはずよ……。
あ……ああ!見える……僕にもキキルンが見えるよ!
そんなアドバイスだけですぐに見えるようになるファルズンすごいのでは!?
……ンフフフフ。
よ~し、傾注~!!
さすがはウジ虫にネズ公だ。どこからともなく臭いものを嗅ぎつけて来る能力だけは目を見張るものがあるからな。
「防諜訓練」全員合格だ!
やったー!
だが、次の実習は「暗号訓練」貴様らの知性を問うことになろう。その小さな頭脳で果たして、どこまでついてこられるか、おおいに見物だな?
訓練用のマニュアルをサラヒム社の人事担当に渡してある。各自、目を皿にして熟読しておけ。それでは、解散ッ!