おーい。待てよりぃ!
ん?
フゥ……今から会議に出頭するとこだろ?どうやら間に合ったみたいだな。さあ!議場なら、あっちだぜ。
ビシージ終わったの?
でも、その前にちょっと一服させてくれ。
えっ、早く行った方がいいのでは?
なーに、どうせ空転してるんだ。構いやしないさ。
本当に??
……だから、何度も言うように皇国の秘密兵器、機関巨人とやらの完成を我々はなんとしても阻止せねばならんのだ。そのためなら、我がバストゥークは単独での武力行使も辞さぬ覚悟でいる。
同感ですことよ。魔笛を5つも自前で揃えた以上、皇国の意思は明らか。もはや、一刻の猶予もないと見るべきですわね。
しかし、いま出兵すれば宰相をはじめとする皇国内の主戦派に格好の口実を与えてしまうだけだろう。
おっ、今回はトリオン王子が来てるのね。
今も、皇国内には聖皇を慕いその意見に従う者が少なくないはず……私は、その可能性にかけてみたい。
オホホ……らしくないですこと。聖皇に身の自由が与えられている、という希望的観測が多分に含まれておりますことよ。
そのとおりだな。聖皇は宰相の傀儡と化している……その情報をもたらしたのは貴公の部下ではないか?
うぬ……。
しかし、これは大きな戦になりますね。ここは、もう少し外交的努力を重ねてからでも……。
正論だが、危ういな。相次ぐ戦乱で疲弊しているとはいえ相手は大国。先手を打たねば我々は水晶大戦に匹敵する犠牲者を強いられることになろう。
いいえ。そんなものではすまなくなるかもしれませんことよ。
どういうことです?
みなさま、「ゴルディオス」はご存じですわね。
ああ……忘れるものか。
確か、ワラーラとかいう寺院に安置されている神体で、世界の理が記されていると……。
よく、ご記憶でしたこと。花丸をあげますわ。
博士感が出てる。
でも、そっちじゃないんですの。こちらを御覧あそばせ……。
わたくしが言っているのは今からさかのぼること、900年ほど前……1年もの間、地上から夜を奪いさった超新星のことですのよ。
アレキサンダー座とオーディン座って隣にあったのか…。
思い出したぞ!教皇から習ったことがある。天晶元年に女神さまが起こされた奇跡だな?
後に、光度を落としアレキサンダー座に納まったという北天に輝く一等星のことか……。
これだから歴史の浅い国々は……それは、たまたま超新星の軌道上にあった星。超新星の正体ではございませんことよ。
軌道上?意味がわからん。
そのまま打ちあがって星座の位置まで行ったのかと思ってたけど、星座のゴルディオスと超新星ゴルディオスは全くの別物だったのか。
わたくし、目の院の奥でとっても古そうなパピルスを束ねた古文書を見つけましたの。それには、このように記されておりましたことよ。
白き神と黒き神が争うと、天空には巨大な穴が穿たれ地上には大いなる嵐が吹き降ろされた。それがラグナロクである、と……。
冥闇の鏡のお話よりも遥かに分かりやすい記述!!
でも言いたいことはちょっと違うのか。
ラグナロク……神々の黄昏と呼ばれる北方の伝説ですな。超新星は神々の戦いの光だった、とでも?
あら、おしいですこと。あたらずとも遠からず……半丸ですわね。
ここからは、これまで集めた情報をもとにした、わたくしの推論ですけれども……
かつて、古アトルガンは白き神を宿した巨人を空高く打ち上げて天の道を歩ませ、世界を支配しようとした。
アレキサンダーを打ち上げる?
天の道を歩ませってことは、空に留まらせるってことよね。
飛行機くらいの高度なのか、衛星軌道に乗せようとしたのか分からないけど、制空権を取って軍事支配を目論んでいたってことね。
対立していた黒き神を信奉する国は、それをよしとせず生贄により得た冥路の騎士を空へと放った。
生贄…?
冥闇の鏡を使った時に街が吹っ飛んだっていうの、オーディンとアレキサンダーがドンパチやったラグナロクのせいかと思ってたけど、オーディンを召喚するために街の人全員の命使ったってのが真実!?
天空での死闘の末、ばらばらになった巨人と、傷ついた騎士は共に墜ち、ようやく戦いは終わった。
けれど、後に残されたのは焦土と化した大地。そして世界に天変地異をもたらすことになる天空の大穴だった……。
900年前に世界中で天変地異が起こったのね。
ってかその大穴、どこに繋がってたの?
……なんということだ……。
……馬鹿げた妄想を。巨人が空を飛ぶ、などと……
船も空飛んでんじゃんよー。
それに、その現象がゴルディオスの名と何の関係がある?
我がタルタルは、昔から食にかけてはうるさい種族。先人たちは、きっとどこぞから食材を運んできた貿易商を通じて耳にしたのでしょう。
その発端となった巨人の卵の名を……。
アレキサンダーの卵の名前がゴルディオス?
ワラーラ寺院にあるあの設計図ことか。
……我々は、魔笛に惑わされていたのだな。あの球体こそ、もっとも警戒せねばならぬモノだったのか……。
彼の国の宰相が、ゴルディオスの真の価値に気づかずにいることを祈るばかりですわね。
…………。
気づいちゃったんだなぁ。
お待たせしましたっ!ナジ、りぃを連れてまいりました。
遅いっ。何をしていた!?
ほら怒られたじゃんよー!
まぁまぁ、アヤメ殿。
それより、りぃ。よく来てくれた。いまやお前は当事者でもある。
だからこそ聞かせてほしい。彼の国で、いったい何が起ころうとしているのか。お前が見てきたこと。そして、思うところを……。
うん。