紐解ける理 其の壱

ナジ おーい。待てよりぃ!

ん?

ナジ フゥ……今から会議に出頭するとこだろ?どうやら間に合ったみたいだな。さあ!議場なら、あっちだぜ。
りぃ ビシージ終わったの?

ナジ でも、その前にちょっと一服させてくれ。
りぃ えっ、早く行った方がいいのでは?

ナジ なーに、どうせ空転してるんだ。構いやしないさ。

本当に??

  

フォルカー ……だから、何度も言うように皇国の秘密兵器、機関巨人とやらの完成を我々はなんとしても阻止せねばならんのだ。そのためなら、我がバストゥークは単独での武力行使も辞さぬ覚悟でいる。
シャントット 同感ですことよ。魔笛を5つも自前で揃えた以上、皇国の意思は明らか。もはや、一刻の猶予もないと見るべきですわね。

トリオン しかし、いま出兵すれば宰相をはじめとする皇国内の主戦派に格好の口実を与えてしまうだけだろう。

おっ、今回はトリオン王子が来てるのね。

トリオン 今も、皇国内には聖皇を慕いその意見に従う者が少なくないはず……私は、その可能性にかけてみたい。

シャントット オホホ……らしくないですこと。聖皇に身の自由が与えられている、という希望的観測が多分に含まれておりますことよ。
フォルカー そのとおりだな。聖皇は宰相の傀儡と化している……その情報をもたらしたのは貴公の部下ではないか?

トリオン うぬ……。

ウォルフガング しかし、これは大きな戦になりますね。ここは、もう少し外交的努力を重ねてからでも……。
フォルカー 正論だが、危ういな。相次ぐ戦乱で疲弊しているとはいえ相手は大国。先手を打たねば我々は水晶大戦に匹敵する犠牲者を強いられることになろう。

シャントット いいえ。そんなものではすまなくなるかもしれませんことよ。
ウォルフガング どういうことです?

シャントット みなさま、「ゴルディオス」はご存じですわね。
トリオン ああ……忘れるものか。

ウォルフガング 確か、ワラーラとかいう寺院に安置されている神体で、世界の理が記されていると……。
シャントット よく、ご記憶でしたこと。花丸をあげますわ。

博士感が出てる。

シャントット でも、そっちじゃないんですの。こちらを御覧あそばせ……。

シャントット わたくしが言っているのは今からさかのぼること、900年ほど前……1年もの間、地上から夜を奪いさった超新星のことですのよ。

アレキサンダー座とオーディン座って隣にあったのか…。

トリオン 思い出したぞ!教皇から習ったことがある。天晶元年に女神さまが起こされた奇跡だな?
フォルカー 後に、光度を落としアレキサンダー座に納まったという北天に輝く一等星のことか……。

シャントット これだから歴史の浅い国々は……それは、たまたま超新星の軌道上にあった星。超新星の正体ではございませんことよ。
フォルカー 軌道上?意味がわからん。

そのまま打ちあがって星座の位置まで行ったのかと思ってたけど、星座のゴルディオスと超新星ゴルディオスは全くの別物だったのか。

シャントット わたくし、目の院の奥でとっても古そうなパピルスを束ねた古文書を見つけましたの。それには、このように記されておりましたことよ。

シャントット 白き神と黒き神が争うと、天空には巨大な穴が穿たれ地上には大いなる嵐が吹き降ろされた。それがラグナロクである、と……。

冥闇の鏡のお話よりも遥かに分かりやすい記述!!
でも言いたいことはちょっと違うのか。

フォルカー ラグナロク……神々の黄昏と呼ばれる北方の伝説ですな。超新星は神々の戦いの光だった、とでも?
シャントット あら、おしいですこと。あたらずとも遠からず……半丸ですわね。

シャントット ここからは、これまで集めた情報をもとにした、わたくしの推論ですけれども……

シャントット かつて、古アトルガンは白き神を宿した巨人を空高く打ち上げて天の道を歩ませ、世界を支配しようとした。

アレキサンダーを打ち上げる?
天の道を歩ませってことは、空に留まらせるってことよね。

飛行機くらいの高度なのか、衛星軌道に乗せようとしたのか分からないけど、制空権を取って軍事支配を目論んでいたってことね。

シャントット 対立していた黒き神を信奉する国は、それをよしとせず生贄により得た冥路の騎士を空へと放った。

生贄…?

冥闇の鏡を使った時に街が吹っ飛んだっていうの、オーディンとアレキサンダーがドンパチやったラグナロクのせいかと思ってたけど、オーディンを召喚するために街の人全員の命使ったってのが真実!?

シャントット 天空での死闘の末、ばらばらになった巨人と、傷ついた騎士は共に墜ち、ようやく戦いは終わった。

シャントット けれど、後に残されたのは焦土と化した大地。そして世界に天変地異をもたらすことになる天空の大穴だった……。

900年前に世界中で天変地異が起こったのね。
ってかその大穴、どこに繋がってたの?

ウォルフガング ……なんということだ……。
フォルカー ……馬鹿げた妄想を。巨人が空を飛ぶ、などと……

船も空飛んでんじゃんよー。

フォルカー それに、その現象がゴルディオスの名と何の関係がある?
シャントット 我がタルタルは、昔から食にかけてはうるさい種族。先人たちは、きっとどこぞから食材を運んできた貿易商を通じて耳にしたのでしょう。

シャントット その発端となった巨人の卵の名を……。

アレキサンダーの卵の名前がゴルディオス?
ワラーラ寺院にあるあの設計図ことか。

トリオン ……我々は、魔笛に惑わされていたのだな。あの球体こそ、もっとも警戒せねばならぬモノだったのか……。
シャントット 彼の国の宰相が、ゴルディオスの真の価値に気づかずにいることを祈るばかりですわね。
フォルカー …………。

気づいちゃったんだなぁ。

ナジ お待たせしましたっ!ナジ、りぃを連れてまいりました。

アヤメ 遅いっ。何をしていた!?

ほら怒られたじゃんよー!

ウォルフガング まぁまぁ、アヤメ殿。
トリオン それより、りぃ。よく来てくれた。いまやお前は当事者でもある。

トリオン だからこそ聞かせてほしい。彼の国で、いったい何が起ころうとしているのか。お前が見てきたこと。そして、思うところを……。
りぃ うん。