あっ、来てる。
皇宮御用達サラヒム・センチネル社長ナジャ・サラヒム様、御到着~!
同じくサラヒム社社員でもない人にしてラグナロクの調停者でもあらせられますりぃ様、御到着~!
どういう肩書よ!?
ってか、社員じゃないんだ?
銅鑼がなった。
……御静粛に。それでは、只今よりアトルガン皇国マジャーブ朝第16代聖皇ナシュメラ2世陛下の再戴冠式を執り行います。
ん?もう始めるの?
列席者これだけ!?
先ずは建国千年の古よりまします守護神アレキサンダー様に万謝の言寿をあげ、その……。
バリハール儀典官!
……!?
(陛下……まだ、みことのりを発するときではござりませぬぞ……。)
もうよい。堅苦しい儀式はやめじゃ。後は、わらわが直接話す。
(し、しかし……それでは御列席の賓客に対し……。)
よいと言うておる。わらわの戴冠式は2度目。此度は、わらわの好きにさせよ。
御意……。
聖皇陛下、御成~!
(ん?……侍女?)
(……まだ年端もいかぬ子供ではないか……。)
そう思うよね。
そりゃそうだ。
……みなさま、御静粛に。
御列席のみなさま。さまざまなことがありました……。みなさまの中には、わらわを、そして我が国を快く思っていない方もおられましょう。
それでも、わらわの招待に応えこの戴冠式に御臨席くださったこと……心より謝意を表したいと存じます。
本来、戴冠式は国を挙げて盛大に執り行うのが我が国のしきたり。けれど……諸国の特使の方々にわらわが再び戴冠することを認めていただきたいと思い、こうしてお集まりいただいた次第です。
(皇族貴族が……軍高官が……あ、あたいのビジネスチャンスが……!)
まさかこんなのとは思わないよね…。
中の国のみなさま。此度の件では、我が国の挑発的行為により大いに不安を覚えられたことと存じます。また、墜とされた飛空艇に乗船されていた方々に対し、わらわは心より御冥福をお祈りしたく……
…………。
……御顔を上げてください。ナシュメラ様。
あの攻撃で、エンディミオン号の乗員そして乗船していたサンドリアの騎士の方々が負傷いたしましたが……バストゥークの銃士、ナジ殿の応急手当が功を奏して幸いにも全員一命を取り留めました。
そうなのですか!
凄いぞナジ!
では、ぜひ我が国の錬金術師をそちらに派遣させてください。再生治療に秀でた者が多数おります故……。
ありがたくお受け致しましょう。
……さて、ナシュメラ様。今後、我々四国との関係をどうされるおつもりか御存念をお聞かせ願いたい。
都合のよい提案であるとは存じますが……まずは、元の関係に修復させていただくのが最善と考えております。
緩やかな相互不可侵の関係に戻されたいと……?
はい……。我が国は、領内に有力な蛮族を多数抱えその脅威に現在もさらされ続けています。
また、膠着状態にあるとはいえいまだ東方諸国との戦も続いており……休戦の目処すら立っておりません。
関係を深めるとそれらの争いに我々を巻き込んでしまう……そう、懸念されておられるのですな?
なるほど。
ええ、そのとおりです。
??? : あいや、悲観してはなりませぬぞ!
その喋り方は。
!
シャントット様じゃなくてカラババ様だ。
何卒、遅参の非礼をお許しくださりませ、なしめら様。
ゲッショー!遠路、ごくろうでした。
ありがたき幸せ……なしめら様が親書、確かに、我が帝にお渡し致し申した。
あんたっ最近見かけないと思ったら!
然様。拙者、故あって故国に戻っており申した。社長殿、平に御容赦を……。
社長、ここで怒らない方が…!
それで……帝はなんと?拝謁できたのですか?
よい……ここにいる者すべてに関係することですから。
御意。詳しくは返書を御覧いだたきとうござるが、大君はかく申されました……
「ことここに到りて和議は至難である」と。
……やはり、そうですか……。
されど、斯様にも申されました。「諸侯を説いてみよう」と……。
!!
東方は封建の世。大君一人の独断では何事も決められませぬ。万事、月日を要するものでござる。其は失敬ながら、政情不安定な今の皇国も同じと存じ申すが?
……そうですね。今、勅命で停戦命令を発すれば東部方面軍は反乱を起こすかもしれません。
及ばずながら月照、両国和議の為、この身を捧げる所存。これからも存分にお使いくだされ。
……ありがとう。ゲッショー。
……フン。随分と出世したもんだよ。
りぃ殿の御陰でござる。
私何かしたっけ?
苦労話して慄かせ、自分の方が遥かにましだったと思わせはしたけど。
なるほど……東の国との関係改善にはすでに着手しておられたわけですな。
……はい。もし、東方と和議成立の暁には西方の皆様とも友好条約を結びたいとわらわは願っております。
ですが、そのためには貴国はもう1つ大きな障害を抱えたままではございませんか?
……機関人形のことですね。壊れてはおりますが、確かに今もナイズル島に放置したままです……。
となると、その兵器を貴国が修理し、再び我が国の脅威として用いぬ保証はどこにもない。我々の監視の下、徹底的に破壊していただく他方法はないと思われるが、いかがですかな?
そのとおりだと存じますが……。
その人形の残骸……ただの墓標ではありませんわね?
はい。機関巨人の中心部に……「時空の歪」が検出されたのです。
中に時空の歪み?
時空の歪だと?どういうことだ……?
……おそらく、その機関巨人アストラルゲートと化していますわね。
アストラルゲート……ですか?
貴国にあるハザルム試験場とやらに冥界の門が開いたと部下から聞きましたわ。
ええ、オーディンはそこから現れました……。
おそらくは、それと同種のもの。わたくしたちの住むこの世界と神獣の住まうアストラル界を繋ぐ穴ですわ。
…………。
ハザルムの穴は冥界に繋がってるけど、機関巨人の中にできた穴は、アレキサンダーの世界に繋がってるのかしら。
丁度そこにいたラズファード、もしかしてそっちの世界に行っちゃってない!?
……みなさま。どうか、しばらくの間、巨人の骸の破壊を待っていただけませんでしょうか?
冗談ではない。そのような危険なシロモノがあるのなら尚更、残すなどと……。
よござんす!我がウィンダスは巨人の現状保管を承認いたしますわ!我が国の魔法技術の発展に役立ちそうですし……魔笛にもとっても興味ございますからね。
……ありがとうございます!
我が国も承認いたしましょう。道理あればナシュメラ様に協力するようトリオン公より仰せつかっておりますから。
まあ!トリオン兄さまが……。
兄さまと呼ぶほど仲が良いとは。
私は巨人の件持ち帰らせていただきます。……プレジデントの判断を仰がねば。
ですが、戴冠は承認いたしましょう。だいたい、そのような大事他国に仰ぐものではありませんからな。
素直じゃありませんことね。
我が国としては将来、飛空艇が安心して航行できるよう巨人を完璧に封印していただけることが条件です。
もちろんです。ぜひ、みなさまの国のお力をお貸しください。
コホン!え~それではそろそろ戴冠の儀に移らせていただきたく存じます。
冠を授けられるのは……。
もう、誰にお願いするかわらわは決めてるの……
わらわの腹心よ、お願いできますか?
えっ、私?うん、いいよ。
ありがとう……。ガッサド!王冠をこれへ。
あのう、ガッサド殿?王冠はいかがされました?
何も持ってないね。
申し訳ございません。純度の高いシンチレーターが必要になりすべて溶かしてしまいました。
王冠溶かしちゃったの!?
な、な、な、なんという!陛下の特赦の御恩も忘れ……事と次第では、ただでは……。
こちらの歯車にどうしても必要だったのです。お許しください……。
!?
……やれやれ、病みあがりだというのに……乱暴がすぎるぞ……。
……ああ……メネジン!
……ファアアア、ヨクねタゾ!
なしゅめらヨ、ひさシブリダナ!
アヴゼン!!
最高の贈り物よ、ガッサド!2人とも元どおりに……
王冠なんていらないね。
よかった。アフマウ。本当に。
待って……!今わらわはアヴゼンとメネジンを繰ってないのにどうして……!?
むしろ今まで勝手に動いてたんじゃなくて操ってたんだ!?
きニスルナ!
気になるわよ!!
……こいつらは旧タイプのオートマトン。からくり師の人形のような自立型ではありません。そのため、自動では話せなかったのですが……記憶装置は最初からアルザダール遺跡で見つけた部品を再生した超一級のものを仕込んであったんですよ。
ん?
メネジンは魔笛の側に来たら自分で喋りだしたんだよね?超一級の遺物を使ってたからそれが魔笛に反応して動き出したってこと?
その時に前のメネジンはいなくなったって言ってたからどういう事だろうと思ってたけど、アフマウが喋らせてたメネジンってことだったのかな。
アヴゼンもその後からくり士の特訓してたらものすごい勢いで喋りだしたって言ってたよなぁ。
遺物の力で自分の意志で喋ってたのか、アフマウの腕が上がって喋らせることができるようになったのか、どっちだろう。
修理を完了し、自立回路をつけた途端、堰を切ったように話し始めまして……。
自分で考えて自分で動ける、他にないオートマトンになったってことね?
なしゅめらヨ!オロオロスルトミットモナイゾ?
……お前は戴冠式を進めねばならないだろう?
お前?
メネジン今までアフマウに対してお前とか言ってたっけ?
手のかかる……。
……兄さま?
ははは……。元の所有者ラズファード様の記憶も残っているようですな。
いや、所有してたのって9年前よね。
この物言い、今のラズファードなのでは?
アレキサンダーの中に一緒に入ってた時に今の記憶が移った?
それかまさか、メネジンの中に入ってる説…?
あのう……。
そうね。りぃに、わらわの戴冠をお願いしている最中だった……。
見てのとおり……わらわの王冠はアヴゼンとメネジンに生まれ変わりました。りぃ。代わりにそなたの心を王冠として授けてくれますか。
心を!
うん。もちろん。
うーんと……あれこれ言うのも無粋ね。
ずっと応援してるよ。
ありがとう……
これだけしかいないのにすごい歓声が上がってるぞ…?
ありがとう、みなさん!
わらわの最も頼りにする者……ナジャ・サラヒム・ゾワン!
はは~っ。
ゾワン?
新聖皇の名においてそなたの傭兵会社「サラヒム・センチネル」をあらためて公式に認可する。
光栄に存じます。
そして、さらに報奨金としてアトルガン白金貨1000枚を授ける。
ヘ……!?
アトルガン白金貨って、黄金貨の上のやつじゃないですか。
それが1000枚!!!
ルザフの懸賞金よりも相当多い!
ナジャ、あなたがいたからこそ皇都は護られたのです。
陛下……。
あなたの育ててくれた、りぃをはじめとする傭兵が、どれほどわらわの支えになったか……。
そなたの真の望み故国ゾワの自治獲得についてもすでに大臣に指示してあります。今度は、そなたが得た資金を使ってゾワの窮乏を救ってあげてください。
ナジャ社長の出身はゾワ!
ん?ゾワ国のゾワンさんって、もしかして国を統治している家系の人ですか!?
目的は自国を救うためだったのね。
自治権を剥奪してきた国に会社を作って、聖皇と接触して信任を得て、お金も稼いで…。
すごいやり方。ナジャ社長、すごいよ。
はは~っ!必ずや……。
最後に……ラグナロクを防げたのも中の諸国との戦争を回避できたのも……すべてりぃあなたの尽力の賜物です。
今回のミッションもいろんな人に散々振り回された結果世界救ったなぁ。
わらわは、その多大なる功績に報いる術を知りません……。せめて、我がマジャーブ家に伝わる家宝をお渡ししその大恩に報いたいと思います……。
この3つの指輪の中から1つ選んでもらえますか?
りぃヨ、ドレガよイノカネ?ンー?
この報酬、今となっては使わないから鞄圧迫しないためにも貰わないでおきたいトコロ。
後で決めてもいいかな?
ホーゥ?いがいトゆうじゅうふだんダナ……マァ、むりモナイカ。ドレモ、なしゅめらノ、トッテオキダカラナ!
……りぃ。わらわは聖皇として学ぶべきことが、あまりにも多く仕事も山積みとなっています。もう、あなたと共に旅をする機会もないことでしょう……。
そっかぁ。
あなたが、この国に来てくれて本当によかった……。
めっちゃハート飛んできたぁ!!
これからもアトルガンを護り、支えてください。
そして、いつの日か……
……いえ、なんでもありません。さようなら、りぃ。
行っちゃった。
本当は何が言いたかったんだろう。
いつか聞かせてくれるかな。
さようならって言われちゃったからもう会えないのかしら…。
え~、御列席のみなさま。英雄、ナジャ・サラヒムとりぃにどうか温かい御声を!
どこからともなく紙吹雪と歓声が!?!?
アヤメとナジが世話になったな。りぃ。見事な活躍だ!
ありがと。
トリオン公……もとい賢者ライファルからも「傭兵仲間として貴様と共に戦いたかった」との言伝がございます。来られず悔しそうでしたぞ。
そういえばあれ以来トリオン王子アトルガンに来なかったね。
これ以上勝手するとクリルラに責任を取らせるとかなんとか言われて動けなかったんだろうなぁ。
シャントット様より伝言ですわ。「これで終わったと思わないことね!」なんのことでございましょうね?オーホホホ!
ラスボスより怖い。
りぃ殿。同じ空の下に歩む者同士……また何時か、何処かで……。
うん。
りぃ。これを、つかわそう。
メネジンから皇国旗を賜った!
これからもナシュメラを陰で支えてやってくれ。
あいつはこの混迷の世に未来を灯すこのアトルガンの宝なのだ……。
完全にラズファードじゃない。
死なずに自分で支えてあげなさいよ。
本当にバカよ…。