魔蛇の封蝋 其の壱

ナジャ・サラヒム これはこれは、りぃじゃないか。どうやら仕事のほうは順調そうだネェ?
りぃ ハイ。

と言わないと怒られる。

ナジャ・サラヒム ホ~♪そいつはなによりだ。ようやく、あんたも傭兵稼業が板についてきたのかもしれないネェ。

なんたって中尉ですからね。
それ以降アサルトやってないけども。

ナジャ・サラヒム ところで、ちぃとばかし聞いとくれよ。
りぃ うん?

ナジャ・サラヒム 最近ね、あたいの心の家には高揚ってヤツが住み着いててさ♪

高揚…?

ナジャ・サラヒム あんたもうちの社員だ。当・然、あたいの高揚がなんによってもたらされてるか、わかってるだろ?

分かんない…。
カラババ様とやりあってとても不機嫌だったのに、一体何が。

ナジャ・サラヒム そうだよ~♪ご存知のように、ここんとこ我が社の業績が上向いてんのさ。い~感じでね!
りぃ おおっ。

ナジャ・サラヒム 創立以来の困難と苦しみに満ちた日々が、ようやく報われてきた……この充・実・感♪

創立何年なんだろう。

ナジャ・サラヒム こういうときにこそっ。そして、今度という今度こそっ!このまま良いことが起き続ける!

ナジャ・サラヒム そんな予感がするのさ♪
りぃ おめでたいです。

ナジャ・サラヒム だから、あたいはね。これから福を呼び込むあんたたち社員を大切にしなきゃ、な~んて思ったりしてんのさ。

えっ??

ナジャ・サラヒム ルンルン、ルルーン♪ルン、ルルーン♪

毒キノコ食べたりしてない?大丈夫?

アブクーバ (りぃさん……)

アブクーバ (りぃさん!)

ん?

アブクーバ (こっちこっち!)

アブクーバ ええっとですね、ナジャ社長はあれから……つまり、あの大使さまとの一件以降。

アブクーバ 仕事に邁進!仕事に猛進!頭の中はいつでもチャリチャリの音でいっぱい!!(りぃさんに通じるかな……?)

アブクーバ 以前にもまして我が社の経営再建に一心不乱。そしてついに、ついに、ここまで……。

すごい。

アブクーバ ですから、僕……鼻歌を歌ってる社長を見るのはとても久しぶりなんですー。

鼻歌だったのか。

アブクーバ しかし、あのご満悦ぶり……しばらくはそっとしておいた方がいいかもです。

アブクーバ ……あっ!でも、ひょっとして来社されたのは、何か急ぎで社長に伝えたいことがあったからじゃ?

アブクーバ ご安心ください。僕、ちゃーんとうけたまわりますよ。りぃさんには借りもありますし。

どれが貸しなんだろう。分かんないや。

アブクーバ それで、りぃさんはナジャ社長に何を聞きたかったんです?
りぃ ゲッショーのこと。

アブクーバ ゲッショーさん、ですか?最近は、さっぱり来社してませんねぇ。

まだ来てないんだ?

アブクーバ 他の傭兵さんから聞いた話ですけど、なんでもマムークで見かけたとか……。だから御公務に励んでるのは確かなんでしょうけどね~。

マムークに?
何してるんだろう。
賢哲王モラージャに会いに行ってる?

アブクーバ それで、りぃさんはナジャ社長に何を聞きたかったんです?
りぃ カラババ様のこと。

アブクーバ あわわわわ……

ど、どうした?

アブクーバ シーッ!ダメですって!そんな質問、絶対に伝えませんから。我が社の禁止語辞典に書いておかなくちゃ。

そ、そんなに…。

アブクーバ それで、りぃさんはナジャ社長に何を聞きたかったんです?
りぃ アフマウのこと。

アブクーバ アフマウさま、ですか?

アブクーバ あっ……

アブクーバ ……。

アブクーバ あわわわわわ……。

どうした??

アブクーバ ナジャ社長!

アブクーバ ナジャ社長っ!

アブクーバ ナジャ社長っ!!

ナジャ・サラヒム ……んなっ、な、なんだい。

ナジャ社長をこんなに驚かせるとは。

ナジャ・サラヒム ったく……急にあたいのそばで大声はりあげるんじゃないよっ!

アブクーバ こっ、これのこと……すっかり、うっかり忘れていました……。す、すみませんっ!

何かを渡し忘れてたのか。

ナジャ・サラヒム !!

ナジャ・サラヒム こ、こいつは……双頭の蛇の封じ蝋……まさか……

ナジャ・サラヒム 送り主は…………ラズファード、さ、宰相さまじゃないか!

そんな大層な手紙渡し忘れてたの!?

ナジャ・サラヒム 待てよ。宛名は……と。

ナジャ・サラヒム ………………。りぃ……親展!

私?
しかも親展?

ナジャ・サラヒム あんたをご指名だとさ……。もし、よろしければあたくしめにも読み聞かせてもらえますかネェ?

さすがに宰相からの親展は社長権限で開けないのね。

ナジャ・サラヒム ヘーェ……。

ナジャ・サラヒム ………………。

ナジャ・サラヒム ソーォ……。

こわい。

ナジャ・サラヒム あんた。皇宮からの書状が届いてるって虫の知らせでもあったのかい?
りぃ ないよ。

そんなん来るとか夢にも思わないじゃないですか。

ナジャ・サラヒム フンッ。そんなことはどうでもいいんだよっ。

いいんかい。

ナジャ・サラヒム ラズファードさまからお声がかかるとはまた、ずいぶんとご出世なされたもんだネェ。

ナジャ・サラヒム ひとつ、ご進言してもよろしいでしょうか?りぃ中尉さま。
りぃ ハイ。

ナジャ・サラヒム その文面からお察しするにラズファードさまはた・い・そ・う、お急ぎのご様子……。

そんな手紙渡し忘れるなんてっ。

ダンッ!

ナジャ・サラヒム もう、おわかりだね?

ダンッ!

ナジャ・サラヒム だったら、ただちに皇宮に向かいな!!

ナジャ・サラヒム これ以上、参内が遅れたらラズファードさまに非礼にあたるだけでなく……我が社の信用はガタ落ち。せっかく上向いた業績まで落っこちまう!

ナジャ・サラヒム そんなことは…………そんなことは、このあたいが許さないからねっ!!

急がないと大変だああああ!!