無手の傀儡師

アブクーバ ……なんだぁ。りぃさんかぁ。予定より早いんで、焦ったじゃないですかー。
りぃ どうしたの?

アブクーバ 今日は、皇宮から大事なお客さまを、お迎えするってことで社内は、おおわらわなんです。

アブクーバ ま、幸いナジャ社長の機嫌が、すこぶるいいんで助かってるんですけどねー。
りぃ それはなにより。

アブクーバ この前、君が帰ってったときとは大違いです。
りぃ ぐぬ…。

アブクーバ 見てください。先に使者として、不滅隊のアミナフ様がいらしてから、ずっとあの調子なんですよ。

くねくねしてる。

ナジャ・サラヒム フンフン、フフーン♪フン、フフーン♪

声をかけづらい。

ナジャ・サラヒム !!

ナジャ・サラヒム ……りぃ。あんた……、いったい、いつからそこにいたんだい?
りぃ ちょっと前から。

ナジャ・サラヒム 社長の真後ろに、黙って近寄るだなんて……

ナジャ・サラヒム いきなり、殴り殺されたって、文句は言えないよっ。
りぃ ゴルゴですか!?

ナジャ・サラヒム いったい、どういう了見だい!

りぃはナジャ・サラヒムの鼻歌を真似してみせた!

ナジャ・サラヒム んなっ!あ、あんた、聞いてたのかいっ!?

ナジャ・サラヒム ……あたいのこの「モーニングスター」で、あんたの頭の中にあるそのメロディを……忘れさせてやろうかネェ?

闇王のBGMになったぁ!!!

ナジャ・サラヒム って、あんたと油売ってる場合じゃないんだったよ。

街のBGMに戻った。良かったっ。

ナジャ・サラヒム これから、大切な、大事な、大金持ちな……、特上顧客さまがいらっしゃるんだ。

ナジャ・サラヒム それに、それを伝えてくださった不滅隊のアミナフさまが、すでに奥でお待ちなんだよっ!

奥っていうかすぐそこだから、全部聞かれてるよね。

ナジャ・サラヒム ほらほらっ。今は無調法な傭兵は、お呼びじゃないんだ。シッ、シッ!おかえり!
りぃ わかったよぉ。

アブクーバ ナジャ社長!!報告でありますっ!ただいま、宮廷傀儡師のアフマウ様、ご到着になられましたっ!
ナジャ・サラヒム あちゃぁ……予定よりも、ちょぉーっとばかし、お早いお成りだネェ。

ナジャ・サラヒム りぃ!いいかい?粗相のないように、隅っこでおとなし~くしておいでっ!

確かに今出ていくのもなんか失礼な感じするし、隅っこでおとなしく…?

アヴゼン くるシュウナイ。ソノママデ、よイゾ。

ナジャ・サラヒム (なんだい、あの偉そ~な「お人形」は?)

私隅っこにいるわ。
結構目立つところだけど…。

アブクーバ (たしか……アヴゼ……)
ナジャ・サラヒム (チッ!あたいは、んなこと聞いてんじゃないよっ!)

市民にオートマトンの名前が知られてるくらい有名なんだ?

アヴゼン なにカ?
ナジャ・サラヒム これはこれは……かような、むさ苦しきところへご足労いただき、恐悦至極に存じます。

ナジャ・サラヒム さ、さ、こちらへ……。
アヴゼン ナンテ、ムサくるシイトコ!

ナジャ・サラヒム ……!?

リシュフィー そうか、初めてだったな。こちらは、宮廷傀儡師のアフマウ様、そして……

アフマウ わたくしの友人……アヴゼンよ……。

オートマトンじゃなくて、友人なのね。

ナジャ・サラヒム ご無礼をお許しくださいませ。アヴゼン様。皇国の忠実なしもべ、ナジャにございます。
アヴゼン ……ツーン。

どうして自分の意志で動いてるオートマトンはこんな性格なのだ!?
たまたま知ってる2人がこんななだけ??

ナジャ・サラヒム ……。

き、キレないかしら…。

リシュフィー ほら、なにか言葉を!だいたい協力を頼みたいって言い出したの、アヴゼンさんだろう?
アヴゼン フン。

アフマウ ……アヴゼン!
アヴゼン ………。

アヴゼン ……ゴキゲンヨウ。
リシュフィー よしよし、よくできました。

リシュフィーって身分の高いアヴゼンに対してずいぶんフランクに話しかけるのね。

というか、不滅隊にしてはずいぶん普通で、優しい人よね。
これはこれで変わり者ってことになるのかしら。

アヴゼン !!アノものハ、ナニものダ?

そりゃ気になるよね!?

アヴゼン やまねこノばっじをツケテルナ。アレガ、ようへいカ?
ナジャ・サラヒム そ、それは中の国より取り寄せました……マネキンでございます。

マネキン!?

私はマネキン。私はマネキン。

アヴゼン ソウカ?……マァ、よイ。

アミナフ ナジャ。アヴゼンの質問にマジメに答えなさい。

さっき動いて喋って歌ってるところ見ましたものね!

ナジャ・サラヒム ……はい。この者は中の国より、聖皇さまの御ため馳せ参じた、我が社の傭兵、りぃにございます。
アヴゼン フム。でアルカ。

アヴゼン れいノけん、すでニ、つたエテアルノカ?
アミナフ いえ、これからにございます。

アヴゼン ウム。はやク、つたエロ。

アミナフ ナジャ。聖皇ナシュメラ様よりの、勅命を伝える。
ナジャ・サラヒム ははーっ。

アミナフ 「……サラヒム・センチネル。

アミナフ 余、ナシュメラは民草の心を安泰にさせんがため、巷で噂の幽霊船の正体解明を命ず。

アミナフ また、もしこれが何者かの策謀である場合、これを阻止せよ。ナシュメラ2世。」

ナジャ・サラヒム ……ゆ、幽霊。

一番苦手なやつなのに。

アミナフ なにか、異存でも?
ナジャ・サラヒム いえ……。ナジャ・サラヒム、つつしんでお受けいたします。

リシュフィー 先ほども申したが、繰り返す。この任務、民や兵に気取られ、いらぬ騒ぎとならぬよう、秘密裏に進めよ、とのお達しだ。

リシュフィー 故に調査の総指揮は、ここにいらっしゃる宮廷傀儡師のアフマウ様が、とられることに決まっている。

ナジャ・サラヒム そ、それは……

いかにも戦闘とか探索とか慣れてなさそうなのに、出張られたら困るよね…。

アヴゼン んー?まさか、フマンなのカ?
ナジャ・サラヒム め、めっそうもございません。……光栄に存じます。

アヴゼン よき、こころガケでアルナ。では、サッソク、せんぞくノようへいヲ、きょうしゅつセヨ。
ナジャ・サラヒム 然様でございますネェ……

ナジャ・サラヒム ……火急なれば、このりぃでございましたら、すぐにでも出立の準備が整っております。

やっぱりそうなりますよねー!?

抗議しますか?
 激しく抗議!
 いや、やめときます……

激しく言ったら社長が激怒しそうだから、控えめに言っておこう。

りぃ いや、やめとk
アヴゼン たのンダゾ。はたらキニヨッテハ、ベツに、ほうびヲツカワソウ。

聞いてねぇ!!!

あっ!
このやめとくってのは、抗議するのをやめておくって事だったのか!?

ぬかったわ!!

アフマウ ……よ、よろしくお願いします。
アヴゼン オかねハ、いくらデモアルノダヨ。

アフマウとアヴゼンは帰っていった…。
指揮取るの、大丈夫なのかなぁ。

アミナフ 些細なことでもよい。得た情報はすべて、皇宮に報告しなさい。
リシュフィー では、健闘を祈っているよ。

ナジャ・サラヒム それにしても……聖皇さま、直々の任務をやり遂げたら、この会社に箔がつくこと間違いなしだネェ。
りぃ そうだけどとっても大変そう…。

ナジャ・サラヒム りぃ!この任務は、いつも以上に慎重にすすめてもらわなきゃならない。絶対に、失敗は許されないよっ!
りぃ うん…。

ナジャ・サラヒム わかったかい?じゃあ、我が社の掴んでる幽霊船の情報を教えてやろう。最近では、蛮族に紛れて亡霊がアルザビ周辺までやってきてるとか……。
りぃ えっ、もうそんな情報あるの?

ナジャ・サラヒム なんで、知ってるかって?皇宮のお偉い方々の耳には、今ごろ届いたんだろうけど、街じゃずいぶん前から噂だったのさ。

なるほど。

ナジャ・サラヒム ……10数年前のこと、あるキキルンが、アラパゴ諸島で初めて見たのを皮切りに、幽霊船は、各地で目撃されるようになったんだ。
りぃ そんなに前から!?

ナジャ・サラヒム 最初は、あの辺に沈んだ皇国の客船アシュタリフ号だろうって、もっぱらの噂だったんだけど……。ナシュモの帰りにそいつに遭遇しちゃったある男が、あれは、ブラックコフィン号だって言い始めてネェ。

ナジャ・サラヒム なんでも、先祖がイフラマド王国につながる彼の家では、屋根裏に大切に保管されてたらしいんだよ……200年前、アトルガン皇国に最後まで抵抗した、反皇国のシンボル、ブラックコフィン号の雄姿を描いた絵画がね……。

ナジャ・サラヒム まぁ、ありがちなことだけど、そいつは不滅隊に捕まったらしくて詳細は不明ってオチさ。

捕まってどうなったんだろう…。

ナジャ・サラヒム とにかく、聖皇さまの勅命を完璧にこなせば、うちの会社は、報酬だけで10年は安泰だろうさ。

ナジャ・サラヒム だから、りぃ!その噂が、本物だろうが偽物だろうが構わない。その手で必ず、幽霊船の正体を暴いてくるんだよっ!
りぃ うん。頑張ってみるよ。