東風

ピエージェ ……本日は、我がサンドリアの急な要請に応え、お集まりいただいたこと。我が王に代わって礼を言う。

ピエージェ 急きょ、お歴々にお越しいただいたのは他でもない。これは、もはや一国の問題ではなく……
ウォルフガング ピエージェ公!貴公のたっての希望により、特別参加許可を与えた冒険者が、到着したようです。

ピエージェ よく来てくれたな。りぃ。
りぃ おまたせ。

ピエージェ では、まずご参集いただくに至った経緯から、順を追ってご説明いたしましょう。

あれ?
ピエージェ王子もフォルカーもお供を連れてるのに、シャントット様はひとりで来てる。
付き人など必要ないのですね。わかります。

ピエージェ 先日のことだ。冒険者であり傭兵でもある、このりぃが、1通の書状を携え我がドラギーユ城の門を叩いた。それが、すべての始まりであった……。

ピエージェ その書状の差出人は、ライファルと名乗る賢者。そこにはアトルガンの現状が克明に記されていた。

トリオン王子の名前は伏せておくのね。

フォルカー なに!?

ウォルフガング アトルガンというと、例の「傭兵キャラバン」で巷を騒がせている……
ピエージェ そうだ。近東の大国アトルガン皇国だ。あの国はいま、三勢力の獣人軍の猛攻にさらされており、皇都アルザビすら陥落の危機にあるという。

ウォルフガング なんと……。

フォルカー ……沈黙の大国。かつて、あの国はそう呼ばれていた。

フォルカー お若いピエージェ公は存ぜぬかもしれぬが、皆は忘れてはおるまい?
シャントット ……。

ピエージェ ……知っているとも。クリスタル大戦時、我らアルタナ四国の総計をも凌駕する莫大な兵力を抱えながら……言を左右し、結局一兵も援軍を寄越さなかった、と……。
フォルカー ご存知であったか?これは失礼した。

フォルカー だが、それならば、お分かりいただけよう。あの国が、どのような窮状にあろうと我らには関係のないことなのだ!

うーん。言いたいことは分かるけど、今回の場合アトルガンから救援要請があったわけじゃなくて、ヤバいことに巻き込まれないように対処しておこうって事だからちょっと訳が違うね。

シャントット 鳥肌ものですことね。いつもは沈着なるあなたが、こうも熱くなって冷たいことをお言いになるとは。

フォルカー からかわれるな。シャントット卿。卿とて、あの地獄の戦場を潜り抜けた身ではないか。もしもあの時、アトルガンの支援があれば……
シャントット それこそ大変なことになっていたと思いますけれど?

あー。
勝利の暁には褒賞として金品やら土地やらをどっさりと要求してくるよね。

もしかしたら混乱に乗じて結構な範囲を支配されていたかもしれない。

フォルカー なんだと!?
シャントット アトルガンは、今までにも数多の国を併呑し……近頃では東方諸国にまで触手を伸ばしている、虎狼のごとき国。彼の国の軍勢を呼ぶということは、デーモンを退治するために、ドラゴンの用心棒を雇ったようなものですもの。

たとえが上手い。

フォルカー ……。確かにあの国は、それまで蜜月の関係だったタブナジアですら……。
ピエージェ その話は……。

タブナジアとアトルガン、蜜月だったの?
ふむ…。

フォルカー であればシャントット卿、ウィンダスは何故、連中にマウラを開港したのだ?
シャントット オホホ。この場を借りて我が国の内情を探り出し、ありもしない企みの尻尾をつかもうとでも?まぁ、尻尾のありなしでもめていらっしゃる国の方ですもの、仕方ないのかもしれませんけれど。

息をするように煽る。

フォルカー シャントット卿……。言葉が過ぎよう。……取り消していただこうか?

怒らせて論点をずらして回答を避ける。
手段はアレだけど、上手いよね。

ピエージェ 待たれよ、お二方!私は、彼の国に援軍を派遣する相談をしに来たのではない。

ウォルフガング では、何を?
ピエージェ 本題は、彼の国と獣人の争乱の原因と考えられる「魔笛」と呼ばれる宝物についてなのだ。

フォルカー 魔笛?
ピエージェ 楽器のような名だが、どうやらただの楽器ではないらしい。

ピエージェ その楽器を安置していると、いずこからか「星気の風」と呼ばれる風が吹きだし、人の耳には聞こえぬ音色を独りでに奏でるそうなのだ……。

ウォルフガング それは、また奇怪な。耳に聞こえぬ音色というのも、よく分からないですね……。
シャントット ……星気……

フォルカー ……ふむ。確かに奇妙だが驚くほどのものでもあるまい。
シャントット ……いずこからか……

フォルカー ウィンダスならば、勝手に筆記する自動ペンに、勝手に掃除する自動ホウキ……

シャントット ……吹き出ずる……風……

フォルカー そうそう、カーディアンの珍妙な楽隊だってあるではないか。なぁ、シャントット卿?

シャントット アストラル……

シャントット 風……

アストラル風?

フォルカー ……いかがされた、シャントット卿?

煽ったのに乗ってくれなかった悲しみ。

シャントット !!

シャントット様が何かに思い当たった…!

シャントット オーホホホホ!自動楽器なんてものは、我がウィンダスでは、子供が魔法学校で最初に作る教材ですことよ?

ちゃんと聞いとったんかい。

ピエージェ 問題は、その風の力にある。

また口論になる前に話を進める王子。

フォルカー 風の力?
ピエージェ その風は、周囲の者を包みこみ陶然とさせる霊力があり、その魅力には何者も抗し難いそうなのだ。……獣人でさえも。

フォルカー ならば、そのような危険な代物、獣人にくれてやるか、さもなくば壊してしまえばよいではないか?
ピエージェ 常識的にはそうでしょう。個人ならば。あるいは街ならば。しかし……。

フォルカー 何が言いたい。

ピエージェ しかし、国家ならばどうだろうか?それが自国民をも危険に曝すものだと分かっていても、切り札となるならば温存するものではないだろうか?
ウォルフガング まさか……それほどの脅威が、たかが楽器に?

国家という単位は、面倒よねぇ…。

ピエージェ 少なくとも、書状をくださった賢者はそれを懸念しておられる……。やがて魔笛は我らが諸国をも巻き込む、新しき大戦の発火点となるやもしれぬ、と。

ウォルフガング なっ!

フォルカー ……ピエージェ卿。一国の代表を担う者が、軽々しく口にしてよいことではないぞ!
ピエージェ 失敬した。これは、あくまでも賢者の推測にすぎぬ。

ピエージェ 詳細を、実際に見聞してきた、このりぃに聞くとしようではないか。
フォルカー …………。

責任重大すぎる。

ウォルフガング ……し、しかし、この話だけでは判断がつきかねます。

笛ひとつで大陸超えて戦争に巻き込まれるとは信じがたいよね。

ウォルフガング 国家たるもの、自衛のために兵や兵器を整えるは当然の責務。まして都がそのような状態にあるならば、起死回生の秘策も必要なことでしょう。

ウォルフガング 第一、その魔笛とやらはそれ自体は、人畜無害の宝物のようではありませんか。
シャントット どうですことね?

ピエージェ ……りぃ、お前が城を去ったあとで思い至ったことがある。今から話すゆえ、お前の忌憚のない意見を聞かせてくれ。
りぃ うん。

ピエージェ うむ。それでこそ、お前を呼んだ甲斐があるというもの。数多くの危機を乗り越えてきた冒険者としての見識に期待しているぞ。

ピエージェ ……魔笛とは何か?それほど大事な宝物ならば何故、安全な皇宮の宝物庫におかず、獣人に襲撃される可能性の高い危険な下町に置いておく?

そうなんよねぇ。

ピエージェ 私は、そこに魔笛の危うさ。そう何かこう忌まわしき、別の深い意図のようなものを感じるのだ……。

ピエージェ りぃよ。何か心あたりはないだろうか?

 「賢者ワラーラ」
 「ゴルディオス」
 「ワラーラ寺院」

この中から選ぶの?

えーっと、賢者ワラーラはゴルディオスの謎を紐解いた人で、ワラーラ寺院はワラーラの教えを元にできたものだから、発端はゴルディオス。

りぃ 「ゴルディオス」かな…
ピエージェ 「ゴルディオス」か……はて……どこかで聞いた名だな……。

この前の私と同じこと言ってる。

ピエージェ それは、どういった人物なのだ?
りぃ 人じゃなくて、真ん中が宇宙みたいになってるよく分からんやつなのよ。

ピエージェ ……なるほど。ゴルディオスは人ではなく神体のようなもの、か……。ワラーラ寺院に安置されているのだな。
りぃ うん。

ピエージェ はるか昔、件の賢者ワラーラは1度だけゴルディオスを紐解き、世界の理を読みとった……。今も多くの学僧が、その理を己も知らんと、日夜、ゴルディオスの綻びを探している……と。

ピエージェ どうやら、我々の信仰とは、だいぶ趣が異なるようだが……。
シャントット 大聖堂で育ったデスティンのおぼっちゃまの石頭で、よくそこまで考えを進められたこと。女神の祝福あってのことですわね。

またそんな言い方するー。

ピエージェ シャントット卿!私を愚弄するか!
シャントット よござんす!このわたくしが、その冒険者の代わりに大切なことを教えてさしあげますことよ!

フォルカー 何か、知っているのか?
シャントット 魔笛を安置している「封魔堂」を管理しているのは、ワラーラ寺院の僧ですわ。そして、その封魔堂を警護しているのは、「五蛇将」と呼ばれる、アトルガン皇国軍最強の面々ですことよ。

さすがシャントット様詳しい。

フォルカー ……五蛇将?耳にしたことがある。ひとりひとりが一騎当千のツワモノとか。

シャントット ワラーラ寺院、つまり国教によって厳重に保護されているアトルガンの至宝「魔笛」。それですのに安置されている場所は、ワイルドオニオンの外皮にあたる皇都一危険な、人民街区。

シャントット なのになぜか、それを護っているのは皇国最強の将軍「五蛇将」と……りぃみたいに、諸国からかき集めた歴戦の「傭兵」たち。

おかしな話よね。

ピエージェ 確かに私も、その矛盾が腑に落ちぬところだ。
シャントット つまり……

シャントット アルザビは巨大な「ネズミ捕り」。そして魔笛は「餌」ということですわ!
ピエージェ ……!

ネズミ捕り…。

あっ、引っ掛けたいのは蛮族なんかじゃなくて、もっと別の大物!?
蛮族はエサに群がるコバエみたいなもので、もっと他の…。

アストラル風…。
アストラルってMPが増える装備によくついてる名前で、つまり魔力とか精神とかに関係するってことよね。
あ、あと、召喚士の装備とか技とか。

召喚…。

まさか、狙ってる大物って、冥路の騎士…オーディン?

それか、フェロークエに出てきた冥闇の鏡の対の天光の鏡。
オーディンが黒いクリスタルにいたのなら、どこかに白いクリスタルもあるはず。

そちらの方の大いなるもの?

フォルカー そうか!それですべて説明がつく。
ウォルフガング ……待ってください。新たな疑問も生じます。なぜ、そこまでして獣人を引き寄せる必要が?
シャントット あら。そんなことは、このわたくしには知ったこっちゃありませんですことよ。

本命がかかる前に雑魚が寄ってきてるだけなのならば納得。

ピエージェ だが、あの国の中枢で何か巨大な計画のもと、それらが実行されているのは間違いなさそうだな。
フォルカー ……民の犠牲も省みず、か。

ウォルフガング ……さらなる情報が必要ですね。
ピエージェ うむ。隠された情報をも見抜く鋭い目と耳がな……。

ピエージェ ……諸卿。私の考えを聞いてほしい。りぃは現在、彼の国で傭兵をしている。しかし彼女は誇り高き冒険者。断じて、魂まで売ったりはしていない。

ピエージェ それが証拠に、たかが行きずりで預かった書状を届けるためだけに、

ピエージェ こうして遠路、戻ってきてくれたのだ。

ピエージェ それに、何より今まで多くの冒険者と出会ってきたここにいる諸卿がよく存じていることだろう。

ピエージェ 冒険者が、信をおける、我らが同士であることを!

ピエージェ だから私はりぃに再び皇都に戻り、今までどおり傭兵として戦ってもらいたいと思う。たとえ、どの国の民であれ獣人によって尊い命が失われることがあってはならないからな。

ピエージェ だが、一方でりぃには、軍で功績を上げ少しでも皇宮に近づき……彼の国の本当の目的について、探ってもらいたいと思うのだ。

潜入捜査ね。

フォルカー 異論ない。彼ら冒険者は、幾度も我が国の危機を救ってきた影の英雄だからな。
シャントット そして、わたくしたちの手間が省けるということですわね!すばらしきお考えですこと。

ピエージェ ジュノはいかがか?
ウォルフガング 同意しましょう。我が国は、彼の国と競売所を通じて結び付きを強めてはいますが、あくまでも政治と経済は別ですから……。

シャントット 全会一致ですこと?
ピエージェ 待ってくれ。この問題は賢者ライファルも指摘するように近東だけに留まるまい。

ピエージェ 我らがアルタナ四国を含む「ヴァナ・ディール」全土……彼の国の言葉でいう「ウルグーム」全土を巻き込む発火点となる危険性があるのだ。

ピエージェ 我ら、全員より頼む。りぃよ。どうか、引き受けてほしい。
りぃ うん。わかった。

ピエージェ 礼を言うぞ、りぃ。

ピエージェ 無論、我らもできるだけの支援を約束しよう。これは少ないが路銀にでもしてくれ。……彼の国の通貨だ。

アトルガン青銅貨を10枚手に入れた!

わざわざ用意してくれたのね。
ありがたい~!

??? : ……アレは単なる「餌」ではありませんわ。

??? : 餌は餌でも、アストラルの毒餌。

??? : 聖皇とやら、ちょっとお遊びが過ぎますようね……

こ、これは。
名前が???になってるけど、明らかにシャントット様。

シャントット様が動き出す…?

オーディンがどうかするより大変なことになりませんか!?

ヒィー!!