りぃさん!
やっほ。
グロウベルグでは別れのあいさつもそこそこに、失礼しました。一刻をあらそって文献にあたる必要があったので……。
もちろん貴女と目撃した巨龍……そして、「アレヴァト」と呼ばれていた少女に関することです。あるいは貴女ならもう、お気づきかもしれませんが……あれこそ伝説のグロウベルグの守護龍……そして、かの乙女こそその化身かもしれないのです!
バハムートとかも人型になれるのかな?
文献によると……
龍神は人間がつけたオズマヌークなる呼び名を好まず……信徒にはかならず「アレヴァト」という名で呼ばせたとか。
気づけばオズマヌークって呼ばれてて、なんでよ!?私の名前を勝手につけないでよ!!ってなったのかな。
プラチナのごとき輝きを放つ細い銀髪に、豪奢な近東装束。そして古風な言葉遣い。伝説のそれと、寸分たがわぬ姿……にわかには信じがたいことですが……貴女も目にされたように、あの乙女はたしかに伝説の龍神にふさわしい光輝に満ちていました。
くわえて空を悠然と舞う龍の、神々しいばかりのあの威容。あれこそ、まさに……!
ただ、あの少女が本当に龍神の化身だとしても、無邪気によろこんでいる場合ではなさそうです。
グロウベルグにいた男たちは、おそらく近東よりの使節。なんの目的かは知りませんが、聖山が戦禍に呑みこまれたこの機を見はからって……守護龍を故郷に呼びもどすつもりでしょう。あの様子では、まもなく近東につれていかれてしまいます!
あの敬礼はアトルガン皇国のもので、多分イフラマド王国の末裔ではないだろうから…。
蛮族対策とか、東側対策とか、南の抑えとかに利用したい感じなのかなぁ。
ああ、せっかくここまでつきとめたのに!……いやいや、こんな不心得ではダメですね。
ですが、まだ機会はあります。大聖堂の書庫を渉猟した甲斐あって、古文書で糸口らしきものをつかんだのです!
おおっ。
龍神と盟約をかわした武人の一族は、守護龍のねぐらがあるグロウベルグの清浄をたもつ誓いを立てたほか……アレヴァト様が大変好まれる「ある品」を、日々の供物としたとか。
それは、まるで判じ物のような記述でした。
「其はヨロイなれど、鋼にあらず。鉄床(かなとこ)ならぬ硬き寝床を好み、その内に宿りて、安きを得るもの也」
残念ながら、この品の名は門外不出の秘密とされたらしく……この記述のほかに有力な手がかりはありませんでした。
ああ、なるほど。
だからそのものズバリの名前は書かなかったのね。
でも、もしもこの品をさぐりあてて献ずることができれば……そしてあの少女が、本当に龍神の化身だとしたら……伝説の守護龍をグロウベルグにとどめ……さらにはアルタナ連合の味方とすることも、夢ではないかもしれません!
そこで貴女を見込んで、お願いがあります。龍神の好む供物とは、いったいなんなのか……もしもそれらしき品を入手できたら、ここにお持ちいただけませんか?相応のお礼はいたします。
うん。いいよ。
実は何が必要か用語辞典で先に知ってしまっていた。
ちゃんと持ってきたよ。
……こ、これは……ヨロイ蟲!?
うむ。
りぃさん、よりによってこのようなものを……!でも……いや、しかし。
「其はヨロイなれど、鋼にあらず」……ヨロイ蟲は、たしかに金属のヨロイとは別物です。
そして、「鉄床ならぬ硬き寝床を好み、その内に宿りて、安きを得るもの也」……ヨロイ蟲は、クゥダフ族の甲羅に寄生する虫と聞いたことがあります!
鍛冶師の鉄床ではなく硬い甲羅を寝床とし、安楽を得るもの……
たしかに条件にあてはまっている……まさか伝説の龍神が、このような……
まぁ、爬虫類だろうからねぇ。
虫食べるよね。
もはや迷っている時間はありません。貴女の洞察に賭けてみます!
とはいえ、相手は気高き龍神。これをそのままお持ちするのは、ちょっと……
確かにヨロイ蟲をむき身では…。
私はヨロイ蟲を納める化粧箱を用意して、グロウベルグにむかおうと思います。
うん。