うーん、いや……しかし……
どうしたの？

わわっ！

これは失礼。ちょっと考えごとをしていたもので。
いえいえ、びっくりさせてごめんね。

実は私、あることに頭を悩ませておりまして……よろしければ、耳を貸していただけますか？
うん。

ありがとうございます！私はニーシェ、田舎領主の末息子です。さる高名な史家のもとで、書生のようなことをしております。

さる高名な史家って誰だろう。

ええと……？
りぃだよ。

りぃさんですね。よろしくお願いします。
よろしくっ。

……実は私を悩ませているのは、「龍」にまつわることなんです。

龍？

貴女はグロウベルグに棲まうという、「龍神」の伝説を耳にしたことがおありでしょうか。
ないよ。

文献によれば……それはもともと近東に棲まう、年経りた龍であったそうです。

真龍だ！

近東って……アトルガンから海を渡ってきたってこと？

それが、驚くべきことに……高雅なるエルヴァーンの乙女の姿をとり、人里の様子を見聞することを好んだとか！

かわいい！！

ところがあるとき、どうした成りゆきかこのクォンの大陸に飛来して、現在でいうグロウベルグに所領をかまえる武人と盟約を結び……

以来「聖山の守護龍」として末流にいたるまで、武人の一族を加護しつづけることとなった、と伝えられています。

へぇ～。

でも、当のグロウベルグではいまや龍神信仰どころか、エルヴァーンの集落すらみあたらない有様でしょう？

バストゥーク共和国軍の小屋があるだけだった。

まして乙女に化身する龍なんて……私も同門の書生たちとともに、迷信や絵空ごとのたぐいと笑い飛ばしていたのです。

……ところが！近ごろ、騎士たちのあいだで「戦いのさなかに巨大な龍を目撃した」という噂が流れているらしいんです。

おおっ。

その話を聞いてから、もしや伝説の龍神では……！と、学究の徒の血が騒ぎだしまして。ね、気になる話でしょう！？もしも存在を確認できたら大発見です！
気になるね～。

うーん、なんとかその龍と遭遇する手段はないものかなぁ……

りぃさんも、もしグロウベルグに赴く機会があれば、様子を見てきていただけませんか？何かの折があるときで、かまいませんので……
うん。わかった。

高価そうな宝飾類が置かれている……。

こんなところに宝石が？

りぃさん！わざわざ足を運んでくださったんですね！

ニーシェが置いたのか。
そっか、龍は宝石が好きっていうものね。

……！これは、龍の……爪あと……！？まだ新しい……！この巨大さ……ただの龍じゃない！もしや、接触に成功か！？

宝飾は……残念。そのまま、か……

可愛いサイズの宝箱。

実は私、供物として、ここに宝飾品や貴金属をそなえてみたんです。ま、半分は伝説をたしかめたいという気持ちからですが……

もしもグロウベルグの守護龍が実在し、これを味方につけることができるなら……現在の国難を、ひいてはアルタナ連合の窮状を救う切り札になるかもしれない、とも思いまして。が……

なるほど。
強力な戦力になるね。

このとおり、手つかずのようです。龍らしきものが、ここまで来た痕跡はあるのに……

そんなに宝石は好きじゃない龍なのかな。

あるいは賢き龍神は、供物にこめられた信心が本物かどうかまで見通してしまうのでしょうか？好奇心とか……こんな、恩恵を期待するような心がまえではダメなのかもしれませんね。

なるほど。

でも、収穫はありました！この山に、これほど巨大な爪あとをのこす龍が棲んでいるのであれば、遭遇も時間の問題……

おや……？
ん？

！！！

言ってるそばからーーー！？

あ、あ……あれは……！？

あちらに降りたったようです！急ぎましょう！

黒づくめの人がいる。

……故郷には、いまも信仰篤き者多く、アレヴァト様の御帰遷を一日千秋の思いで待ち望んでおります。おんみの棲処は選りすぐりし屈強の衛兵を配してお護りし、心よりの安眠を約束いたしましょう。

……ふむ、悪くなさそうじゃの。

此度はおんみへのささげものとして、こちらの品を持参いたしました。どうか、お納めください。

この敬礼の仕方は、ナジャ社長やガッサドが聖皇に向けてやっていたものだわ。
近東の最敬礼なのね。

……おお、これは！和妙のスカーフではないか！げに懐かしき品じゃ。かほどの逸品の織り手がまだおったとはの。

この聖山は、森閑にして心地よきねぐらじゃったが……近ごろは汚らわしいケダモノが跋扈し、騒がしいことこの上のうなった。

戦地になってるものねぇ。

のみならず、深き眠りより久方ぶりに醒めてみれば、旧き知己はみな往に、人どもは余との盟約を忘れてしもうたようじゃ。

何十年とか寝てたのかしら…。

由あって捨てた東の地なれど、さほどに余を待ち望む者どもがいるならば……久々の宿替えも、悪くないかの……
ありがたき、みことば……

ん？

めっちゃ光ってる！！

消えた…。

たしかに「アレヴァト様」と聞こえたが……まさかいまの少女が……龍神の、化身……？
っぽい感じだね。

（いや、しかし……まさか……。すぐ王都に引きかえして、古文書を調べないと……！）

りぃさん、すみません。私はここで……詳しい話は、のちほど！
うん。わかった。