ねえねえ、聞いた?
……え、ええ。
ひどい話よねぇ。どれだけの人が、彼女のせいで犠牲になったことか……。
ほ~んと……。怖気づいて敵将を見逃したあげく、皇都に敵を誘導してしまっただなんて。
天才射手が聞いて呆れるわ。あたしだったら、顔を隠して歩いてるわね。
……ナジュリス様は御自分で将軍に罪を告白する上申書を提出して、営倉に行ったんですって……。
やだ~なに考えてるのかしら。
さ~て、どうなることやら。よくて国外追放……う~ん悪ければ、縛り首ってとこかしらね。
ええ?あの方がそんな……。
金髪の人が性格きつくて、茶髪の人はやさしくて、黒髪の人は中間って感じね。
ナジュリスが敵を皇都に誘導したって思ってるってことは、ライアーフがやったことは知られてないのね。
全ての罪を背負うつもりなのか。ナジュリス…。
……ナジュリス。将軍は軍規に厳格な御方だ。このままでは厳しい処分を免れぬぞ。私からも口添えしよう。もう一度、考えなおせ。
…………。
そうか……だが、何故そう死を急ぐ?あれは、公式には任務中ではなかったのだ。
そう、それよね。
いくらでも言い訳はできるのに。
……隊長、感謝します。しかし、私の犯した罪はあまりにも重く、それを消すことも忘れることもできません……。
お前の弟は……ライアーフはどうするのだ?もうすぐ、禁固刑を解かれるのだぞ。
弟にも、いずれ私の決断がわかる日が来ることでしょう……。
ナジュリス、死ぬ覚悟なのね。
……ナジュリス……お前は……。
第11弓兵小隊ナジュリス射手出頭いたしました……。
General : 入れ……。
名前が将軍だ。
General : ナジュリスよ。まず、聖皇さまに宣誓するのだ。真実のみを語る、と……。
ん?
名前出てないけど、この鎧といい剣といい、ルガジーンじゃないですか。
……はい、誓います。
General : よろしい。さて、お前の報告だが要約すると……手柄がほしくて敵将を狙撃せんと、休暇中に勝手に出動した。
General : 途中で追いつき、止めに入ったヤシュトラ中隊長の命令を無視。敵将に矢を放ったものの、討ちもらした。
General : しかも、そのまま皇都に逃げ帰り、結果的に敵軍を皇都に招き寄せてしまった……。
見事に全部嘘やん。
真実を混ぜつつ都合よくしないと、おかしなところが出てきて破綻するのでは?
General : 相違ないか?
すべて、報告のとおりです。
General : ふざけるな!私を愚弄する気か!!
……いえ、そのようなつもりは……。
ひぃー!
剣を抜いたぁ!
General : ヤシュトラ中隊長、ダルハブ副隊長、ザルワン伝令兵。そして……ライアーフ偵察兵。
!!
お前以外はみな報告内容に矛盾がない。しかも、だいぶ中身が違うようだが……どういうことだ?彼らは虚偽の報告を私にしたというのか?
顔が出たから名前もルガジーンになった。
いえ、それは……。
口裏も合わせず真逆の報告するなんて、今まで何かをごまかすとかやった事なかったんだろうなぁ。
お前のしでかしたこともさることながら……聖皇さまへの宣誓を破ったことは許せぬ。そこになおれ!
はい……。
やっぱりそっちの罪を重く取られますよね!?
……最後になにか言い残すことはあるか?
…………。
……畏れながら……。
……私は大切な家族を守るためと信じてただ弓の道に邁進して参りました……。だから、今でもわからないのです……
あのとき、弟の命を顧みず、矢を放つべきだったと私が本気で、そう考えているのか……。
もし再び、同じ状況が起きたとしても矢を放つことができるのか……。
無理なのでは…。
いや、正確無比に射ることができる腕前を身に付ければできる、か?
……自信がないのか?
……はい。
私の弓は何の役にも立たなかった……誰も守ることができなかった……。街の人々も……たった1人の弟さえも……!
私が、もっと強くあったなら……もっと力量が高く弓の狙いが正確であったなら……。
ああ…。泣かないで…。
…………。
私は……私は断罪されるべきです……。
……話は済んだな。
肉親の情にほだされ結果として、市民の犠牲を招いた罪、許しがたい。
確かに起こった事だけ見るとそれだわ…。
ナジュリス・タイラ。
お前を斬首に処す。
ぎええ!
そこに直れ……。
…………。
えっ、いや、ここで!?
あれっ?
!?
本日、ナジュリス・タイラは軍規違反により処刑された。
……?
また、本日付で天蛇将直轄の特務隊隊長としてナジュリス・パレビアを任命する。
名字の変更!
……ど、どういうことでしょう?
……お前は己の弓が正確でなかったことを悔いていると言ったな。
……はい。
自惚れるな!
……お前に足りなかったのは、決断する勇気。それだけだ。
!!
真の勇気とは己の大切なものを失う可能性を背負いつつも……大義のため、それに打ち克とうとする心。
ナジュリス。常に激戦と共にある私の旗下で苦悶し、己に打ち克て。その姿勢を見せることこそが、唯一お前の弟を本当に救う方法となるだろう。
!!
そして、贖罪せよ。此度の戦で犠牲になった人々を超える数の命、これから守ってみせるのだ。
……この新たなる弓で。
天さんかっこいい!
……御意。
……たとえ、弦切れこの身千々に散ろうとも必ずや、贖罪を成し遂げてみせます。
……これで私のお話はおしまい。……あなたの手にしているそれ……あのとき放てずに、ここに置き去った私の矢なのです……。
ナジュリスが将軍になるまでにはこんな物語が………ん?
さっき任命されてたのは将軍じゃなくて、ルガジーン直轄の特務隊隊長か。
ということはこの後にも色々なことが。
え?私が風蛇将に任命されたのはいつかですって?
うん。
……それはまた別の話です。
ですが、風蛇将になった今でも私の贖罪は、終わってはいません。いいえ、きっと永久に終わることはないでしょう……。
でも、昔のようにくよくよと迷うことは少なくなりました。少しは勇気が身についたのかもしれません。
大変な努力の賜物ね。
五蛇将のみな、心強い傭兵たち……きっと一緒に戦ってくれている勇気ある仲間がいるからですね。
あなたのような……。
えっ…?
えへへー。
……そうだ。あなた、名前を聞かせてくださる?
りぃだよ。
……そう、りぃさん。私の話に長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
少々気に病むことがありここを訪れたのですが、おかげで心が晴れました。
何があったんだろう。それも気になる。
問題なくなったのならよかったけれども。
これからも勇気を合わせ共に戦って参りましょうね。
うん。よろしくお願いしまっす!