……だれ?
……ミリ!!
まさかとは思ったけど……。
残念だよ……。
やっぱりなんとなく気づいてたのね。
あんなひどい官僚を野放しにしてる聖皇がアフマウだってのが残念なのか、学友を暗殺しないといけないのが残念なのか…。
ご、ごめんなさい……ミリ、怒ってる……? わたくし、挨拶もしないまま寺院からいなくなって……。
?
ん?
学校に行かなくなってたのかな?
今日は……ミリに授賞式で会えること……とても楽しみにしていたの……。それなのにルガジーンが、こちらにって……でも、会えてよかった……!
…………。
単純に友達と会えて喜んでる?
ミリが暗殺者とは露ほども思ってないのかな。
!!
扉の開く音!
捕らえろ!
……!!
来るな!
ミ、ミリ……?
将軍4人も揃ってて大失態じゃないですか!
クッ……止めろ!なにが望みだ?
望み……?ボ、ボクの望みは……ママの仇を……
でも、もう……望みなんてない……ボクは……ボクの仇は……アフマウ、ボクは……
……。
……。
短剣を落とした…!
空腹に耐えかねて軍に入ったんだから、本当の目的は仇うちじゃないんだよね。
自由軍に入れられて、暗殺の動機を強くするために刷り込まれたんだろう。
自由軍から離れて学校に通ってる間に洗脳が弱まったのかな。
そしてそこで意図せずとも育んだ友情が勝った、と。
!!
グッ……。
横から吹っ飛ばされた!
猿芝居はそこまでにしてもらおう。ルガジーン殿。
不滅隊!
しかし、皇都防衛を担う四将が雁首そろえて、この有様とは……落ちたものだな。
………。
面目ない……。
それは何言われても仕方ないと思います。
否、こちらも手落ちがあった。まさか、皇宮を抜けていらっしゃるとは……。
我が不滅隊が責任を取り女の身柄を受領しよう。……さて、大逆罪に科される刑は?
はっ、焚刑です。
火あぶり…!?
……。
あっ、意識は飛んでないんだ。
やれ!
ここで火あぶり!?
火事になるよ!!
……待って!
やめた!
……みなさん、もしかして勘ちがいをなさってるのでは……その方は、わたくしの……
……ゆうじんダゾ!
?
……どういうことでしょうか。
……そのミリは、寺院で仲間外れだった、わたくしに良くしてくれた人です。いじめられたときは、かばってくれて……
……。
……あの子が、あの内気なアフマウが、不滅隊とかけあってボクを助けてくれたんだ……。そして、ボクにこう言った。今のアトルガンに憤るだけじゃなくてよりよき明日を作るため、共にがんばろうって……。
この出来事は2年前だったね。
アフマウの両親が亡くなったのが4年前。
まだ学校に通う年齢だし、官僚は腐りまくってるし蛮族が攻めてくるしで…そりゃあままならないよなぁ。
政治もよく分からないまま即位してしまったんだろうし…。
それからボクはルガジーン将軍に預けられ防諜の任にあたるようになったんだ。東方の忍者を捕まえたりラミアの破壊工作を防いだりそれなりの功績を挙げたし、勲章ももらったんだよ。
優秀すぎるのでは!?
もちろん自由軍の連中とは手を切った。彼らはボクを裏切り者と罵ったけど……。
やっぱりヤスミールが暗殺しに来た将軍はミリ。
でもそのヤスミールも愛を知り、自分の判断で暗殺やめたものねぇ。
ツァヤの自由軍はやり方を変えた方が良いのでは。
でも、彼らの摘発にだけは最後までボクは手を貸さなかった。ルガジーン将軍もそれを許してくれたんだ……。
そっかぁ。
仁義を通したんだね。
そして、ある日……。
……特務隊長ミリ。
……先のマムージャ潜水工作部隊による皇国船団襲撃作戦よくぞ、未然に防いでくれた。……貴官がいなければ我が国は貴重な商船数十隻を失っていたのみならず皇都アルザビの糧食も底をついていたことだろう。
とんでもない功績じゃないですか!!
……よってミリ・アリアポー。その功績を認め、本日付で貴官を水蛇将に任ずる。
え……じゃあ……。
……ああ、今日より四将軍あらため五将軍だな。よろしく頼むぞ、ミリ将軍。
ガハハハッ。この俺が誰にも文句は言わせねえ。なんたって、堂々たる功績だぞ。
おめでとう、ミリちゃん。これからもよろしくね。
……ケッまぁた、変なのが1匹……足手まといにだけはなるなよ。
変なのの筆頭はあなたじゃないですかね??
みんな……あ……ありがとう……。
すっかり仲良しだわね。
……そして、本日は特別に陛下より御言葉がある。
はっ……ありがたき幸せ……。
……面を上げよ、水蛇将。……わらわからひとつ、頼みがある。
ははっ、なんなりと……。
……哲学の徒であるそなたに、短剣は似合わぬ……。……この棍と盾を使うが良い……。
は、はあ……。棍と盾ですか……。
乗り気じゃ無いですね。
そりゃあ今まで両手で短剣使ってたのに、突然慣れていないだろう棍と盾。……それであの強さってとんでもないですね…?
……それらの武具…………何で作られているか知っておるか……。
……紫檀と……黒檀……?あ……待って……ひょっとして……ツァヤンローズウッドとツァヤンエボニーウッド!?
ツァヤの?
聖皇、洒落てるじゃないですか!
……そのとおりじゃ。……今も、そなたは……故国ツァヤの人々にとって……希望の星……。
……水蛇将ミリ。わらわの……忠臣よ。
御意……。
アフマウ、関係が最悪な属国とも上手くやっていきたいと願ってるのね。
人の命を奪う暗殺者から、人を守る白魔道士に変更させたのもメッセージなんだろうな。
(しかし、敵の刃に乗るなんて危なっかしい戦い方をしたやつは後にも先にもお前だけだぞ……。)
(フフンッ。危なっかしい?だって、止まって見えたんだもん。)
あの勢いで乗られてびくともしなかった天さんの腕力も計り知れないと思います。
(ふっ、ぬかせ。いずれ、あのときの決着はつけるぞ。)
(いいよ、いつでも相手になるよ。ま、結果はわかってるけどね……。)
(ふふふ……侮るなよ。だが、棍に慣れるまで待ってやる。)
もう、将軍ったら大人気ない……。
ガハハハハハッ。違えねえや。
全部聞かれてるじゃないですか。
……とまあ、そういうわけ。キミが聞き上手だからつい時間をかけ過ぎちゃった……。
聞き上手だった?
へへっ。
ところでさ……キミが持ってきた色とりどりの髪。それ、なんだかわかってる?
ううん。知らない。
それはね……ボクが暗殺した人々の毛髪だよ。
ぎええ!?
最初は、自由軍に作戦完遂を報告するために集めてたんだけど、軍を辞めてからも、なんとなく捨てられなくて持ってたんだ……。
な、なるほど。
そんな理由が。
みんな悪いヤツらだったけど殺すことはなかったから……。
そっか…。
なくしちゃってどうしようと思ってたけど……。今でもそれ、不滅隊本部に出せばボクの過去の罪を追及する証拠になる……
どうする?
こんなもんいらんから返すよー!!
それに今ミリを罰したって何もいいことないでしょう。
……そっか。
ボクね、よく夢に見るんだ。ママが死んで、ひとりぼっちになった頃のこと。もう最悪。ずっとずっと暗い気持ちだった。
……でも、今は違う。朝起きたとき、最初に仲間や部下の顔を思い出すんだ……。
それは、よかった。本当に…。
ボク、自分のしたことが許されるとは思ってない。だけど……あの子の夢を叶えるまではがんばるつもり。
あの子ってのは、アフマウだね。
あ、あれ?おかしいな……もう、なんだよ……変な話をするんじゃなかった……
ああ、泣かないで…。
守りたい人たちができてよかっ
見るなッ!
ピャー!
短剣やめたんじゃなかったんですかー!!
持ち歩いてんじゃん!!
……いい?今日はキミを殺さないけど、このことをどっか他所で話したらどうなるか……わかるよね?
棍よりも手になじんでる感がすごい!!
こ、これは誰にも話せない。
分かってるよぉ~。
あっ、走って行った。
でも~ッ!ありがとう~~!!
えっ?
か、可愛いっ…。
あ、付き人君!じゃなかったりぃさま。で、で、どうでした?謎が謎を呼び、死が死を招く身の毛もよだつ「パママ連続殺人事件」の真相は!
適当にごまかすしかない。
ええ!?殺人事件の真相は……迷宮入り?
しかし、水蛇将がパママの皮で滑った、決定的瞬間をばっちり目撃した……?
わたくしがほしいのはサスペンス!それは、スラップスティックじゃないですか~!
スラップスティックとは、体を使ったギャグのことらしい。
はぁぁ……これでは、つまらないどころかミステリーにもなってないじゃないですか……
命がかかってるんでね…。
そのとんがりを引き換えによろしく。また生えてくるでしょう。
大変だ、大変だ大変だぁぁああぁぁぁ。
おや、ファリワリ先生。そんなに大変な作品を生み出してしまわれたんですか?
ヒッ!
まさか、一篇も詩ができてねえで青銅貨1枚、用意できないなんてこたぁ……
い、いやいや!詩はできてますとも!わたくしは世間をあっといわせる大変な問題作を作ってしまったのですよ!
そいつは楽しみだ。早速、アタシらにも聞かせてもらえませんか?
いや、だから、これは作詞界の常識を覆す衝撃の問題作でおいそれと歌うことは……
できてるんですよね?先生ッ!?
借金も嘘をつくのもするもんじゃないわね。
も、もちろん。それでは五蛇将シリーズ新作「南の島のミリ」……発表させていただきます。
ほう、期待させるタイトルじゃねえか……
歌えるほどミリのこと知ってるのかしら。
……あ~、人として生まれ~♪ジャングルに~捨てられ~♪クァールに~育てられた~♪獣少女~♪その名は~ミ~リ♪
ええ…?
一糸まとわぬ~、まる裸~♪獲物さがして、野山駆け~♪大好物は~オポオポ内臓♪パママの実ッ♪骨ごと食べます~、オポオポを~♪皮ごと食べます~、パママの実~♪ガツガツ、モグモグ、ボ~リボリ♪♪
??? : フーン……それから?
おまけに、用を足すときは~♪片足ちょいと粋に上げ……
あっ…。
……って、ええ?
ドカン!ばしゅううううう。
ギャーー!!!
逝った…。
あ、アタシらは!?
聴いたんだ、同罪だよ!
んな、無茶な!?
ギュオオオオオオオオオオ!
ググェェェェェ…………
TPも溜めずにWS2連発…。
ヒィ…。
……さて、キミも同罪だよ。と言いたいところだけどちょっと用があったんだ……。
えっ、あ、どうしたの?
よく分からんけど助かったっ。
あ、べつに、そのためにわざわざ探しに来たってわけじゃないからね。それでさ……
探してくれたんだ。
ほら、なんかいろいろあったしさ。今度から、ちょっとくらい……じゃなくて。名前くらい覚えてあげたっていいかなって思ってさ!
えっ!?
ミリ、傭兵嫌いなのに!
……ふぅーん、りぃっていうんだ。りぃ…………ちゃん。
…ちゃん?
あのさ、今度から街でボクを見かけたら……声くらいならかけてもいいよ。
!?
じゃあ、またねっ!りぃちゃん!
り、り、り、りぃちゃんだって!?
は、はわわわわわわわ。