エジワに来たけども…。
ん…?
??? : ……動くな。
声だけ聞こえる!!
あんた、なにを知ってるの?
回り込まれてるっ。
これ以上深入りするつもりならこの場で……消すよ?
何も知りません!
むしろ何も知らないからこうやって話を聞こうと!
……フン、しらばっくれる気? まあいいけど。
いいよ。もうすぐ死ぬんだしあんたが嗅ぎまわってること、教えたげる。どうせ、誰にも言えないだろうしね……。
それ、負ける前の悪役がよく言うセリフ…!
もう知ってるだろうけどボクはアトルガン皇民じゃない。ツァヤって島国の出身なんだ。
ツァヤ出身!?
だからアフマウはツァヤのことを教えてもらおうとしてたんだ。
そしてツァヤっていうと、アサルトのクエストで出てきたヤスミールの出身地。
えげつない暗殺部隊がある…。
あっ!!!
ヤスミールが言ってた、「ある裏切り者の皇国将軍に近づき、折を見て暗殺しようとしてた」って、もしかしてミリ・アリアポーのこと!?
ひぃえー!
しかし、裏切り者って言われるって一体ミリに何があったのか。
……アトルガン皇国がいくつかの属国を有してることは知ってる?そのうちのひとつが、そのツァヤ……。属国といってもツァヤには自治権が認められていて自警軍っていう名の独自の軍隊も持ってるんだ。
皇国から派遣された総督こそいるけど、権利は皇民と平等。そう、子供達には教えられていた。でも……
ボクの実家はね。元々、島の人々が食べるためのポポトイモを育てる、裕福な大農家だったんだ。
おおっ、そうなのね。
ポポトイモが主食で名産なのかな。
でも、ある日、突然皇国総督の名の下、新農地法が施行されてボクの家は財産のほとんどを没収されて……
えっ!?
生活は一変したよ。おしゃれだったママは着る物にも困るようになったしボクもいつも食べ物のことばかり考えてた……。
なんてこと…。
それに、追い討ちをかけたのがアルザビでパママが流行ってるとかで、村を挙げて作物を切り替えろ、というお触れだった。でも……
果物作りは、皆慣れてなくてさ。ある時、病気になって一斉に枯れちゃった……。村では、たくさんの餓死者がでたよ。そのとき、ボクのママも……。
言葉も出ない。
……家も失ったボクはただ生きるために、なんでもするようになった。毎日、必死だった……。そして13のとき、お腹いっぱい食べられるって聞いて歳をごまかして自警軍に志願したんだ。
13歳で。
本当は15歳以上じゃないとダメとかかな。
でも、そこも地獄だったよ。年齢詐称がばれたボクは皇国にないしょの秘密部隊「ツァヤ自由軍」にムリヤリ入隊させられたんだ。
年齢詐称は理由付けで、優秀だったからかしら。
それは、自警軍の裏の顔……。ツァヤ完全独立を目論む勢力の切り札である暗殺のプロ、アサシンを育てている特殊部隊さ。
死んだことにされたボクはくる日もくる日も、暗殺の訓練を受けつづけた。そして、すべてのカリキュラムを終えたとき……留学生ミリという偽りの身分証明書を自由軍により与えられ、ワラーラ寺院に送り込まれたんだ。
死んだことにされた?
お母さん以外の家族と会えなく……あっ、ミスラだから母子で暮らしてたのか。
ナシュモだ。
……殺ってきたよ。
ごくろう……。
証拠は残してないだろうね?
……うん。
パママの皮突っ込んでるんですよね!?
同士ミリ、ここのところのお前の働き、たいしたものだ。きっと天国の母上も、喜んでるだろう。
……。
どうした?
あのさ、思うんだけど埒があかないよ。こんなこと続けたって……。
立場を利用して属国から搾取してる、悪いヤツはアトルガンにいくらでもいる……。だから、1人ずつ潰したってこの国が変わらない以上、代わりの誰かがそいつを引き継ぐだけなんじゃないかな。
ほう……わかっているようだな、同士ミリ。……我々もまったく同じ気持ちだ。
そう、私たちの計画もそろそろ最終段階にきているの……。
……だから、計画の仕上げに相応しい作戦を立案した。よく聞け。
近々、ワラーラ寺院の優秀な学生が皇宮に招待され、授賞式が行われるそうね?
どうして、それを……。
同士ミリ、お前は成績優秀でその生徒代表に選出されたそうじゃない?
……?
またとない好機よ。その機に乗じて……
……聖皇を暗殺なさい。
!!
案ずることはない。授賞式には、必ず聖皇も臨席する習わし。確実に仕留めるチャンスがめぐってこよう。
ボクは……どうなるの?皇宮の警備網を逃げ切るなんて……。
……まず無理ね。
……。
捨て駒…。
同士ミリ。のどかな学生生活で忘れてしまったのかね?なぜ、君が住み慣れた家を追われたかを。なぜ、君の母上が亡くなったかを。
…………。
ツァヤ自由軍からしたら、この為にミリを学校に潜入させたわけだし、まぁこうなるよね…。
わかった……ボク……やるよ。
……それでこそツァヤの星ミリだ。君の栄光は我々自由軍戦士の間で永久に語り継がれるだろう。
いつもの場所に皇宮の見取り図を置いてあるわ。すぐに準備にとりかかりなさい。
同士ミリに精霊の加護があらんことを……。
ツァヤ自由軍に精霊の加護があらんことを……。
うーん、助かる見込みはないと分かっててもやらないと、死ぬより厳しい罰が待ってたりするんだろうなぁ。
……成功するかしら。
……無理だろうな。だが、皇宮の心胆を寒からしめることはできよう。それに……無論、第2、第3の矢も育ててある。
……くそっ! 遅かったか!
また殺されてる。
さっきミリがやってきたって言ってた人かな。
……おや、手を引かれたはずでは?ルガジーン殿。
とうとう、前宰相さままでも……!
なんと。
まぁ、つまり前宰相も腐ってた、と。
第三頚椎と第四頚椎の間の椎間板が真一文字に切断されています。こんな場所で、どうやって……。
ひぃ。
……チャクラムだわ。外周が刃になっている投げ輪の一種よ。
ご明察だ。犯行方法が、ますます大胆になってきている。……だが、おかげで犯人像はほぼ絞り込めた。
やはり、属国が関係しているのか?
……おそらく。この前宰相も、かつて南方諸国の総督を歴任した経験がおありだ。
特にツァヤでは新農地法の制定を断行し、大農家から土地を没収した挙句……プランテーション経営に失敗し、多数の餓死者まで出していた……。
こいつかよ!!
なに?何故、そんな男が宰相にまで?徳政で知られる総督なら、いくらでも……。
反対運動は徹底して弾圧。さらに重税を課して、損失を補った。……帳簿の上では有能な官吏だよ。……故に我々はツァヤ自由軍か、その残党の犯行が濃厚と見ている。
なんてこった。
自由軍だと!?コルセアならともかく、あの組織は不滅隊が総力を上げて壊滅させたはずでは?
残念ながら……違っていたようだ。歩行中の男の未来位置を瞬時に目算し、チャクラムで首を飛ばすなど自由軍のアサシンでなければできない芸当だからな……。
ミリ、凄腕すぎる。
……次に狙われるのはより上の立場の者であろうか?
丞相は視察で皇都を離れておられる。となれば、皇族もしくは陛下の御命を直接狙う恐れもある。
早速、部下を配置につけよう。
それには及ばん。皇宮には、我が不滅隊の警備網が十重二十重に張り巡らされている。たとえ、東方の高名なニンジャといえども侵入することは不可能だ。
既に侵入済みとは想定外なんだな。
……待て。近々皇宮で式典の予定がなかったか?
陛下御臨席で学生の表彰式が予定されている。だが、出席者は教師1名と少年少女のみ……アサシンの付け入る隙はあるまい。
その中にいるんだなぁ。
でも、少年少女がまさかこんな超凄腕のアサシンとは思わないよね。
ツァヤ自由軍が相手とあればいかなる可能性も捨てぬ方がいい。
ふむ、一理あるな。だが宮廷内の警備は我々に任せていただく。
……ああ、頼んだぞ。
…………。
不滅隊は帰っていった。
ルガジーン将軍。せめて、私たちだけでも……。
案ずるな。私に腹案がある……。
腹案とな。
陛下の命が脅かされる可能性まで考えてるみたいだから大丈夫そうだけど、そうなるとミリはどうなってしまうのか…。