天駆ける剣 其の壱

ファリワリ あーあーあーてすとてすと。

ファリワリ あえいう、えおあお。かけきく、けこかこ。

ファリワリ ♪らららーららららーるるるーるーー♪

ファリワリ はっ、失礼失礼。発声練習を聞かれてしまったようでおはずかしい。

ファリワリ わたくし、吟遊詩人を生業としておりますファリワリと申す者。
りぃ こんにちは。りぃです。

ファリワリ この美声を披露しつつ、諸国をめぐり、各地で血湧き肉躍る英雄の話を取材しては、新しい詩を書き糧として参りました。しかし、中の国の英雄譚もあらかた集めてしまいましてね。ついに一大決心をして、はるばる海をわたり、こうしてアトルガン皇国にやってきたわけなのです。

えっ、すごい吟遊詩人なの?

ファリワリ ……ところで。あなたは、なかなかこの街に精通しておられるご様子。ここでお会いしたのも、なにかの縁。どうです?わたくしの付き人となってこの街を案内してはいただけませんか?

りぃ 付き人?
ファリワリ 付き人というのはですね……。

ファリワリ 道を案内したり、飲み物を買ってきたり、熱狂したファンを制したり、楽屋にお菓子を差し入れしたり……。創作の手助けをしたりする、ステキな仕事のことですよ!

つまり雑用全般ですね?

ファリワリ では、さっそくですけれどこの国の英雄は誰か、街の人々に取材したいので手伝ってくださいね。

まだやるって言ってない!

ファリワリ さてと、どなたに取材しましょうか……。

ファリワリ そうですね、例えばあの物々しい装備の、彼女とか……。

ファリワリ もしもし、美しいお嬢さん?
ビヤーダ なんだ、あんた?

ファリワリ ちょっとお話をいえ、チャイを一杯ご馳走させ……

ビヤーダ いい度胸だね。私を天蛇将ルガジーンさま付の副官、ビヤーダと知っての軽口か?

美人だなぁ。

ファリワリ す、すみません。白鳥と見まごう、あなたさまの典雅な物腰に見惚れてしまったもので、つい……。

ファリワリ ……ところでいまなんと仰いました?

ビヤーダ ビヤーダだ。
ファリワリ いえ、その前。

ビヤーダ まさか、ルガジーンさま?
ファリワリ え、ええ。すみませんが、有名な方なのでしょうか?いえ、わたくし、まだこの国を訪れて日が浅いものでして、右も左も……。

ビヤーダ いくら、異国人だからってルガジーンさまの名を知らないだなんて、ものを知らないにもほどがあるよ。ここ皇都の守護神にして、五蛇将を束ねておられる、それはそれは偉大な御方なんだよ。

ファリワリ ……ほぉぉう。きっと剣虎のごとく猛々しく、獅子のごとく雄々しい御仁なんでしょうねぇ?
ビヤーダ もちろんだとも!

ファリワリ よろしければ、そのルガジーンさまのお話、わたくしにもお聞かせ願えないでしょうか?いえね、決して怪しい者ではございません。わたくしは英雄の詩を詠いながら旅をしているしがない吟遊詩人でございまして……。

ビヤーダ なるほど、それで、ルガジーンさまの話を聞いて詩想にしたい、と。それは素敵……

ビヤーダ ……と、ダメだ!いま、ゴタゴタしてて、それどころじゃないんだったよ。

ファリワリ !? まぁまぁ、そう仰らずに。私にできることなら、なんでも致しますから!
ビヤーダ 大きなお世話だよ。だいたい、あんたみたいな非力そうなヤツに、何ができるっていうんだい?

ファリワリ 失敬な!たしかにわたくしは、非力でかよわい、詩うたい……し、しかし、こちらの付き人は、その限りではない!
りぃ ええっ?

ビヤーダ ん?あんたは傭兵じゃないか。……ふむ、そうだね……。傭兵ならば、数々の修羅場をくぐり抜けてきているだろうし……。
ファリワリ そうですとも!この付き人は、千軍万馬。古今無双。一騎当千……

ビヤーダ ちょっと、その付き人と話がしたいんだけど、いいかな?
りぃ うん。

なんだろう。

ビヤーダ 話というのは他でもない。そのルガジーンさまについてのことなんだ……。

ビヤーダ 近頃、度々蛮族が襲来するようになったため、ルガジーンさまは一刻も休まず、常に神経を張りつめて、防衛軍の指揮にあたっておられる。だから、そのお疲れたるや、我々の想像をはるかに絶するものだろう。

いくらなんでも倒れてしまう。

ビヤーダ それは先日、皇都に侵入してきたトロール傭兵団を迎撃するためいつものように軍を指揮しておられた時のことだ。ルガジーンさまは、とても大切にしていた「あるもの」を紛失されてしまったようなのだ。

ビヤーダ ほんの一瞬、ふと気を緩めた隙にね……。

あらま。

ビヤーダ おそらく、乱戦のさなか、落とされてしまい、それを偶然見つけた敵兵が、持ち去ったんじゃないかと私は思う。やつらトロール傭兵は、戦果を過大に報告するため、証拠品として我が軍の将兵の装備品を持ち去ることがしばしばあるからね。

なるほど。

ビヤーダ その後も、ルガジーンさまは平素と変わらず、職務に励んでおられるけれど……側で御仕えしている私には気落ちされていることがよく分かる。なんとおいたわしい、ルガジーンさま……。

よほど大切なものだったのね。

ビヤーダ できれば、私が代わってお探しして差し上げたい。しかし私事で、しかも御自分のために、部下が持ち場を離れたと知ればさらに、ルガジーンさまの嘆きを増すことになる。それは正規軍人である私には適わぬ夢なのだ……。

ビヤーダ そこで、その付き人に頼みたい。トロール共の拠点、ハルブーンまで行って、その「あるもの」を探してきてくれないだろうか?

ファリワリ なあんだ。そんなことですか。お安い御用ですよ!

私が答えるんじゃないんかい!

ファリワリ この付き人が狼のごとくハルブーンまでひた走り、鷹のごとく失せ物を見つけ出すことでしょう。そうしたら、ルガジーンさまの英雄譚を、わたくしにお聞かせくださいますか?

ビヤーダ ……本当か?ああ、もちろんだとも。約束しよう。

ビヤーダ その「あるもの」というのは、ルガジーンさまの独り言から推察するに、布のようなものらしいのだが……。

独り言をつぶやいてしまうほど無くしてショックだったのか。

ファリワリ 了解しました!さあさあ、付き人君!いざ、旅立たん。ハルブーンへ!この街の守護神のため!主君を案ずる、忠義の貴婦人がため!そして……古今東西随一の名詩を、わたくしに書かせるため!!
りぃ わかったよぉ。

だいじなもの:ライラック色のリボンを手にいれた!

えっ、こんな道端に落ちてた。

天蛇将の私物を奪ったとなれば結構な戦果として認められそうだけど。
報告した後必要無くなって捨てたのか、リボンだと天蛇将のものと認められなくて捨てたのか?

ビヤーダ あっ、それは!!ルガジーンさまが大事そうに眺めておられるのを見たことが……探しておられたモノは、きっとそれに違いない!
りぃ よかった。

ビヤーダ ありがとう、探してきてくれたんだね。
ファリワリ だから申しましたでしょう?なんたって、この者はわたくしの付き人。そんなことは、御茶の子さいさいだって!

ビヤーダ ふふ。では、礼といってはなんだが約束どおり話して聞かせよう……。ルガジーンさまの運命を変えた、あの夜の出来事を……。

やった~!