土噛みし拳 其の弐

タイハール ……というわけでザザーグさまはバストゥーク共和国を後にされた……。
ファリワリ 待ってください。その頃は、当然マウラからの定期便はないですよね。どうやって?

タイハール ま、蛇の道は蛇ってね。当時、まだサラヒム社はなかったが、代わりに非合法の傭兵スカウトビジネスが繁盛してたんだ。

タイハール そんな裏社会の組織が用意した闇便に乗って、ザザーグさまは我が国へと向かったそうだ……。
ファリワリ う、心当たりが……それって、ひょっとして悪名高いあの方法では……

まさか天晶堂の…ギルの……

タイハール 当たり!冴えてるな、ファリリン。

やっぱり。

ファリワリ ファリワリです……。

ファリワリ しかしよくご無事で……。
タイハール そりゃあ頑丈な方だからな。指で剣を捻じ曲げたのを見たことあるぞ。

えええ!?

ファリワリ ……で、その後は?その闇組織とやらの力で入国は簡単にできたんですよね?
タイハール ああ。しばらくはフリーで傭兵をされながら組織のふっかけた法外な運賃の返済を続けていたらしい……。

50万ギル…。

ファリワリ ……ああ、なんという運命。彼の国のエリート、黄金銃士隊隊長から一介の傭兵に身をやつされたとは……。
タイハール まったくだよ。当時、我が軍の傭兵の扱いときたらそりゃあ、ひどいもんだった。

タイハール かくいう俺も金で集められた傭兵に対してやはり色眼鏡で見ていたけどな……。

タイハール でも、そんなある日ザザーグさまの悲惨な傭兵生活にも転機が訪れたんだ……。

ファリワリ ほほう!して、それは?
タイハール サラヒム・センチネルが設立されたんだよ。

ファリワリ なぁんだ……。強欲社長と社員使い捨てで有名な、あの……。
タイハール まあな。今でこそ、あの会社はあまり評判よくないけれど、皇宮肝いりでスジもよかったし……あそこの社長が軍司令部に怒鳴り込んだお陰で傭兵の待遇だって、あれで相当よくなったんだぞ。

へぇ~。

ファリワリ ふ~ん、ほんとですかね。……で、当然ザザーグさまも入社されたのですね?
タイハール ああ、きっと会社と水があってたんだろうな。

タイハール そこからのザザーグさまのご活躍ときたら、正規軍の俺でさえその名を聞かない日はなかったぐらいだ。

タイハール 個人的な武技はいわずもがなだが同僚や新人の面倒見もいいし……なにより敵の作戦行動の予測や、戦況への即応力などどれもが的確そのものだったからな。

黄金銃士隊の人たちからあれほど慕われてたから、アトルガンでも同じような感じだったんだろうね。

タイハール いつしか我が軍の士官までが、ザザーグさまに意見を聞きに行く有様でね。
ファリワリ それは、さぞあの社長も鼻高々だったでしょうねぇ!

タイハール ああ、新設した傭兵士官学校の初代校長にザザーグさまを任命したぐらいだから。
ファリワリ ザザーグ校長!?なんか……、すごそう……。

あの傭兵士官学校の初代校長!?

いやきっと、今の学校よりも遥かにまともだったんじゃないだろうか?

タイハール しかし一方で、軍の中にはそんなザザーグさまの活躍を好ましく思わぬ者もいたようでね。ある日、ザザーグさまの詳細な過去を調べ上げた怪文書が流されて共和国の銃士隊長だったことが皇宮の知るところとなってしまったんだ……。

ラズファード ……おもてを上げよ。サラヒム社のザザーグ少佐だな?
ザザーグ はっ。

ラズファード 貴公の活躍、私の耳にも届いている。その心がけ、殊勝である。
ザザーグ ありがたき、御言葉。

ラズファード ところでザザーグ少佐、貴公について妙な噂が巷に流れていることを存じているか?
ザザーグ はて、畏れながら自分は武骨者にて世相に疎うございますれば。

ラズファード 単刀直入に言おう。貴公がバストゥークの黄金銃士……しかも、隊長だっという噂だ……。
ザザーグ 事実であります。

ラズファード ほう、潔いな。
ザザーグ ですが、すでに除隊して久しく今は傭兵会社の禄を食むしがない一傭兵にすぎません。

ラズファード つながりはないと?
ザザーグ 身命に誓って。

ラズファード では、聞こう。不幸にも、我が国とバストゥークが戦端を開くとなった場合、貴公はどう動く?

ザザーグ ……辞職するでありましょうな。自分を拾ってくれた皇国とも無論、祖国とも戦いたくはありませんから。

ラズファード ふっ……気に入ったぞ。信念もなく立身のため己が祖国を売物にするような輩は端から信用できんが、貴公は違う……。

ラズファード 今、我が国が必要としているのはザザーグ少佐まさに貴公のような指揮官だ。

ラズファード 頼みがある。将として我が軍で働いてはもらえぬか?その力、より大きなところで生かすべきだ。
ザザーグ …………。お引き受けしましょう。ですが、ひとつ約束していただきたい。

そっか、まだ軍人じゃなくて傭兵だから命令できなくて「頼み」なのね。

ラズファード 言え。
ザザーグ 最後まで自分を信用すると……。

ラズファード 当然だ。貴公には、我が軍の精鋭を預けるのだからな。存分に働いてみせよ。

ザザーグ ははっ!

タイハール ……と、まあそういった経緯でザザーグさまは我が軍の客将となられたんだ。
ファリワリ いやぁ、たいそうな立身出世物語でございました。

ファリワリ これで世の働くお父さんたちに希望をもたらすような詩が売れますよ。

ファリワリ いえ、作れますよ。

時々漏れる本音。

タイハール 待てよ。話は終わってないぞ。
ファリワリ おっと、そうでした。まだ、五蛇将になっておられませんでした。さあ、さあ、続きを!

そうだった。

タイハール ……ん?いかん!続きを話してやりたいのはやまやまだがもう、休憩時間が終わってしまう。
ファリワリ なんですって!?

タイハール ファリリン、おまえはワジャーム樹林の奥に遺跡があるのを知っているか?
ファリワリ いや、ファリワ……え、ええ……よく存じておりますとも。付き人が。

私かよ。

タイハール ザザーグさまは非番のとき、よくそこを訪ねておられる。なんでも、あの辺りで鉄拳を無くされたとかでいつも捜しておられるそうなんだが……。

鉄拳を無くした??

タイハール だから、そこに行ってご本人に直接、取材したらいい。
ファリワリ えぇぇぇえ!?そ、そんな殺生な……。

タイハール だいじょうぶ。タイハールの友人だと言えば、いやな顔はなさるまい。じゃあ、がんばれよ!

ファリワリ あ~あ……。
りぃ まぁ、本人から聞けるならそっちの方がいいんじゃない?

ファリワリ じゃあ、というわけで……。付き人君。ただちにワジャーム樹林に急行せよ、なのです!
りぃ ですよね…。