土噛みし拳 其の壱

タイハール ん?お前は……?ビヤーダさまの紹介だと?さてはお前が、流行りの「天駆ける剣」の詩作に協力したとかいう噂の者か?
りぃ うん。

えっ、噂になってんの?

タイハール ふふん。そろそろ来る頃だと思っていた。なにしろ、我らのザザーグさまを抜きに五蛇将を語ることはできないからな。シャララトで待っているといい。休憩になったら、そこで話してやる。

めちゃくちゃ乗り気じゃないですか。
ありがたい。

ファリワリ ……む?どうしたのです、付き人君。こんなところで油をうってないでさっさと取材に……
りぃ 行ってきたよ。

タイハール ……おーい!待たせたかな?だとしたら悪い。やっと休憩時間になったところでな。
ファリワリ ??

タイハール で、こいつが件の人気吟遊詩人なのか?
りぃ うん。

タイハール ……ふーむ。作風からもっと硬派な人物かと思っていたが……まあ、いいだろう。

えっ、硬派な作風だったの!?
想像できん。

タイハール 我らがザザーグさまの話、たっぷりと聞かせてやろう。
ファリワリ なんと!!ザザーグ将軍所縁の方ですか?それは、すばらしい!

ファリワリ コホン……申し遅れました。わたくし、愛と勇気を吟ず詩人ファリワリと申す者。以後、お見知りおきを……。
タイハール ふーん。勇気ねぇ……。

ファリワリ ……あのわたくしの前口上になにか……?
タイハール だっておかしいじゃないか?確かにルガジーンさまも立派な方だが……仮にも勇気を詠う詩人なら最初に選ぶべきはザザーグさまだろ?

ファリワリ そ、それは……

ファリワリ いや、御高説、ごもっとも、ごもっとも!ですが、ほら!

ファリワリ 土蛇将さまの偉大なる武勇を引き立たせるにはその他の将軍さまを御紹介してからの方がよい。と、わたくしそう思った次第でして……。
タイハール ……本当か?まあ、いい。で、なにから聞きたい?

さすが口が上手い。

ファリワリ ……土蛇将さまはどの地方の御出身なんです?
タイハール ……どうしてそんなことを聞く?

ファリワリ いえ、ほら我が国ではガルカ族の将軍なんて珍しいじゃありませんか?
タイハール ……別に将軍が秘密にされているわけではないがザザーグさまは我が国の御出身ではない。

ファリワリ えええ!?だって、将軍なのに?では、属国か保護国の御出身でしょうか?
タイハール ……それも違う。はるか西方の国バストゥークのお生まれなのだ。

えっ、そうなの?

ファリワリ なんと!
タイハール 我が国ではあの国は干乾びた荒野ばかりの国土、ブルジョアが支配する拝金主義の国と思われているが……ザザーグさまによるとその風評はだいぶ誇張が入ってるらしいな。

誇張は入っていてもあながち間違いでもない…。

タイハール ザザーグさまはその国で、銃士隊長とかいう特殊部隊の要職についておられたようなんだ……。

銃士隊の隊長!?
何年前の話なんだろう。

ザザーグ お久しぶりですなぁ。アイアンイーターどの。マウルヴルフ作戦以来ですかな。
アイアンイーター ……挨拶はいい。なぜ、私がおまえを呼んだか分かるか?

アイアンイーターの方が年上なのかな。

ザザーグ さあて、なんのことでございましょうねぇ。
アイアンイーター ……とぼけるなよ。

ザザーグ ああ、先日オレたち黄金銃士隊がちょいとパルブロまで御挨拶に行った件ですかい?
アイアンイーター いま、我が国とクゥダフ兵団との関係は新たな局面を迎えつつある。その結果戦になるにせよ、しばし講和を結ぶにせよ今は下手に連中を刺激してもらっては困るのだ。

ザザーグは黄金銃士隊だったのね。
アイアンイーターが所属してるのはミスリル銃士隊よね。

ザザーグ ……なるほど。では、お言葉を返すようですがね。オレはちゃぁんと鉱務省のお偉いさんに許可をとりましたぜ?正式な命令書だってある。なんなら、見せたっていいですぜ。

アイアンイーター それは知っている。だから、おまえを個人的に呼び出したのだ。
ザザーグ ほう……。

アイアンイーター 我が国は大統領制を布いてはいるが知ってのとおり、決して一枚岩ではない。種族間の対立はいまだにくすぶっているし、省益をめぐる各省の水面下での権力闘争も絶えない。

前から変わってないんだねぇ。
でも、グンパとコーネリアの登場で変わりつつある…かな?

ザザーグ やれやれ。口喧嘩はお偉いさん方の仕事だろ?オレは関係ねぇし、関わりたくもねぇ。
アイアンイーター それでは困るのだ。我々軍務を担う者も、全体を、先々を見通す目をもたねば、この国の未来は危うい。黄金銃士隊の独自の軍事行動が、省益しか考えていない役人どもを利していることが分からぬおまえではあるまい?

ザザーグ ガハハハハッ!
アイアンイーター なにを笑う?

ザザーグ そのとおりだ。オレたちの挙げた戦果で、鉱務省はたんまり来年の予算を獲得できるだろうよ。
アイアンイーター おまえ、それが分かっていて……。

黄金銃士隊は、鉱務省の鉱脈調査局の管轄に常設された武装調査隊だよ。
有望な鉱脈の発見のため、他国領はもちろん獣人支配地にまで行くんだって。(設定資料集より)

その黄金銃士隊が活躍したから、鉱務省が大きい顔できる、と。

ザザーグ パルブロ鉱山が占領されてからこっち、クゥダフどもに追いまわされて命を落とした鉱山労働者は数しれねぇ。その親が帰らず泣いている子供だっていやというほど、オレは見てきた。

ザザーグ 連中の泣き顔を見ないためにクゥダフどもに先手を打てるなら、オレは悪魔とだって手を握るだろうぜ。
アイアンイーター ……ザザーグ。

民のことを第一に。
こういう人が政治を動かしてくれたら…。
日本も…。

ザザーグ アイアンイーターさんよ。これ以上、話しても埒があかねぇ。いわゆる見解の相違ってやつだ。
アイアンイーター ……ザザーグ、まだ話は終わっていないぞ。

ザザーグ ……まあ、そうカリカリせずに聞いてくれ。オレはこれから省に行って辞表を叩きつけてくるつもりよ。

アイアンイーター !?どういうことだ?

ザザーグ 作戦直後にその指揮官が辞めたとあっちゃあ、省のお偉いさんの顔は丸つぶれだ……噂が広がりゃあ火のねぇところになんとやらってんで普段は見えねぇ埃だって出てくるかもしれねぇ。

ザザーグ いずれにしろ奴さんたちゃ、てめえの首を守ることに精一杯になり、省益だの私腹だのを肥やす暇はさっぱりなくなるだろうぜ。

ザザーグ ……という訳でわりいが、それでチャラってことにしてくれや。
アイアンイーター 待て。よく考えろ。仮にも我が国は法治国家だ。他にいくらでも告発する方法はある。なにもおまえが辞めることはあるまい?

ザザーグ ああ……いやそれだけが理由じゃねぇんだ。

ザザーグ あんだけ叩いたんだ。狂暴なクゥダフどもだって2、3年は大人しくしてるだろう。この国はしばらく安泰だ。そうなりゃ、オレみてぇな古参の軍人は飼い殺しよ。

ザザーグ だがよ。オレは代々軍人の転生。どうにも血の気が多くてかなわん。これだけ広いヴァナ・ディールだ。どっかに、そんなオレでも必要としてくれる所があるかもしれねぇだろう?

軍人の転生?
語り部じゃないから過去の記憶は無いよね。
前世からの知人が教えてくれたのかな。

ザザーグ オレは出奔しそいつを探して世界を旅してみるつもりよ。
アイアンイーター ……そうか。ならば、止めまい。

アイアンイーター だが、いつか……もしも、我が国が存亡の危機に陥ったときは……ザザーグよ。必ず戻ってこい。

ザザーグ よせや。そんなことにはなんねぇよ。お前がいる限りな。
アイアンイーター ふっ……キザな台詞は似合わんぞ。

アイアンイーター さらばだ、ザザーグ。
ザザーグ ああお前も達者でな……。

Odilon ザザーグ隊長!

ザザーグ おう、どうした?みんなで血相変えてよ。
Odilon だって基地ではザザーグ隊長の噂で蜂の巣をつついたみたいな騒ぎですよ!

ザザーグ どんな噂だ?
Odilon その……ザザーグ隊長が、除隊されたって……。

Joaquin ザザーグさんすんません。ほんと、アホらしい話で。きっと、この間の掃討作戦の大勝利を妬んでいる他の銃士隊が流したに違いありませんぜ。

ザザーグ ガハハハハッ!まったくだ……。連中、喜んでるだろうなぁ。
Joaquin でしょう?今度、あいつらきっちりしめてやりやしょうぜ。

何だかこの人すごくべらんめえ口調?

ザザーグ だがよ……辞めたってなぁ、本当よ。

Joaquin ええ、分かってやす。冗談にしちゃタチが悪いと……ええっ!?
Odilon やっぱり!

ザザーグ なぁに、驚くようなことじゃねぇ。前から省の偉いさんたぁソリがあわなくてな。ついさっき、辞表を叩きつけてきたところよ。
Odilon そんな!なんでなんです!?
Joaquin あ、兄貴ィあっしらはどうすりゃいいんで!?

ザザーグ おいおい、なに情けねぇこと言ってんだ。
Joaquin 兄貴……そういやぁ、アイアンイーターの野郎と会われるって……なにか関係が?

ザザーグ バカいうな。奴ぁ関係ねぇ。オレが1人で勝手にしたことよ。
Joaquin し、しかし……。
Odilon ……ザザーグ隊長もう、決められたことなんですか?

ザザーグ ああ。お前らにはわりぃがな。
Joaquin いってぇこれからどうされる、おつもりで?

ザザーグ ……「沈黙の大国」って、聞いたことあるか?
Joaquin へい、大戦時大兵を抱えながら我が国を見捨てたって近東の国……死んだ爺の口癖でやした。あの国だきゃあ、許せねぇって……。

ザザーグ オレはとりあえずそこに行ってみるつもりよ。

Joaquin 兄貴!そいつぁなんねぇ。最近も、あの国からはどれもキナ臭ぇ話ばっかり聞こえますぜ……。
ザザーグ だから、行くのよ。そこには抵抗する力もなく苦しんでいるヤツが絶対にいる。オレの力でも1人や2人ぐれぇの命は救ってやれるかもしれねぇ。

Joaquin ……分かりやした。仕方ねぇ、兄貴。では、あっしを連れてってくだせぇ。
Odilon じ、自分も!

ザザーグ バカ野郎ぉお~!!!お前らには守んなきゃなんねぇ家族があんだろうが?この国を守るのは義務ってもんだ!

ザザーグ それにオレの帰るところがなくなっちまったら困るだろ?
Odilon は、はい隊長っ!

ザザーグ おう、それでこそバストゥークの輝ける剣、黄金銃士隊だ。オレも安心して出立できるぜ……。

ザザーグ あばよ!
Joaquin …………。