ん?お前は……?ビヤーダさまの紹介だと?さてはお前が、流行りの「天駆ける剣」の詩作に協力したとかいう噂の者か?
うん。
えっ、噂になってんの?
ふふん。そろそろ来る頃だと思っていた。なにしろ、我らのザザーグさまを抜きに五蛇将を語ることはできないからな。シャララトで待っているといい。休憩になったら、そこで話してやる。
めちゃくちゃ乗り気じゃないですか。
ありがたい。
……む?どうしたのです、付き人君。こんなところで油をうってないでさっさと取材に……
行ってきたよ。
……おーい!待たせたかな?だとしたら悪い。やっと休憩時間になったところでな。
??
で、こいつが件の人気吟遊詩人なのか?
うん。
……ふーむ。作風からもっと硬派な人物かと思っていたが……まあ、いいだろう。
えっ、硬派な作風だったの!?
想像できん。
我らがザザーグさまの話、たっぷりと聞かせてやろう。
なんと!!ザザーグ将軍所縁の方ですか?それは、すばらしい!
コホン……申し遅れました。わたくし、愛と勇気を吟ず詩人ファリワリと申す者。以後、お見知りおきを……。
ふーん。勇気ねぇ……。
……あのわたくしの前口上になにか……?
だっておかしいじゃないか?確かにルガジーンさまも立派な方だが……仮にも勇気を詠う詩人なら最初に選ぶべきはザザーグさまだろ?
そ、それは……
いや、御高説、ごもっとも、ごもっとも!ですが、ほら!
土蛇将さまの偉大なる武勇を引き立たせるにはその他の将軍さまを御紹介してからの方がよい。と、わたくしそう思った次第でして……。
……本当か?まあ、いい。で、なにから聞きたい?
さすが口が上手い。
……土蛇将さまはどの地方の御出身なんです?
……どうしてそんなことを聞く?
いえ、ほら我が国ではガルカ族の将軍なんて珍しいじゃありませんか?
……別に将軍が秘密にされているわけではないがザザーグさまは我が国の御出身ではない。
えええ!?だって、将軍なのに?では、属国か保護国の御出身でしょうか?
……それも違う。はるか西方の国バストゥークのお生まれなのだ。
えっ、そうなの?
なんと!
我が国ではあの国は干乾びた荒野ばかりの国土、ブルジョアが支配する拝金主義の国と思われているが……ザザーグさまによるとその風評はだいぶ誇張が入ってるらしいな。
誇張は入っていてもあながち間違いでもない…。
ザザーグさまはその国で、銃士隊長とかいう特殊部隊の要職についておられたようなんだ……。
銃士隊の隊長!?
何年前の話なんだろう。
お久しぶりですなぁ。アイアンイーターどの。マウルヴルフ作戦以来ですかな。
……挨拶はいい。なぜ、私がおまえを呼んだか分かるか?
アイアンイーターの方が年上なのかな。
さあて、なんのことでございましょうねぇ。
……とぼけるなよ。
ああ、先日オレたち黄金銃士隊がちょいとパルブロまで御挨拶に行った件ですかい?
いま、我が国とクゥダフ兵団との関係は新たな局面を迎えつつある。その結果戦になるにせよ、しばし講和を結ぶにせよ今は下手に連中を刺激してもらっては困るのだ。
ザザーグは黄金銃士隊だったのね。
アイアンイーターが所属してるのはミスリル銃士隊よね。
……なるほど。では、お言葉を返すようですがね。オレはちゃぁんと鉱務省のお偉いさんに許可をとりましたぜ?正式な命令書だってある。なんなら、見せたっていいですぜ。
それは知っている。だから、おまえを個人的に呼び出したのだ。
ほう……。
我が国は大統領制を布いてはいるが知ってのとおり、決して一枚岩ではない。種族間の対立はいまだにくすぶっているし、省益をめぐる各省の水面下での権力闘争も絶えない。
前から変わってないんだねぇ。
でも、グンパとコーネリアの登場で変わりつつある…かな?
やれやれ。口喧嘩はお偉いさん方の仕事だろ?オレは関係ねぇし、関わりたくもねぇ。
それでは困るのだ。我々軍務を担う者も、全体を、先々を見通す目をもたねば、この国の未来は危うい。黄金銃士隊の独自の軍事行動が、省益しか考えていない役人どもを利していることが分からぬおまえではあるまい?
ガハハハハッ!
なにを笑う?
そのとおりだ。オレたちの挙げた戦果で、鉱務省はたんまり来年の予算を獲得できるだろうよ。
おまえ、それが分かっていて……。
黄金銃士隊は、鉱務省の鉱脈調査局の管轄に常設された武装調査隊だよ。
有望な鉱脈の発見のため、他国領はもちろん獣人支配地にまで行くんだって。(設定資料集より)
その黄金銃士隊が活躍したから、鉱務省が大きい顔できる、と。
パルブロ鉱山が占領されてからこっち、クゥダフどもに追いまわされて命を落とした鉱山労働者は数しれねぇ。その親が帰らず泣いている子供だっていやというほど、オレは見てきた。
連中の泣き顔を見ないためにクゥダフどもに先手を打てるなら、オレは悪魔とだって手を握るだろうぜ。
……ザザーグ。
民のことを第一に。
こういう人が政治を動かしてくれたら…。
日本も…。
アイアンイーターさんよ。これ以上、話しても埒があかねぇ。いわゆる見解の相違ってやつだ。
……ザザーグ、まだ話は終わっていないぞ。
……まあ、そうカリカリせずに聞いてくれ。オレはこれから省に行って辞表を叩きつけてくるつもりよ。
!?どういうことだ?
作戦直後にその指揮官が辞めたとあっちゃあ、省のお偉いさんの顔は丸つぶれだ……噂が広がりゃあ火のねぇところになんとやらってんで普段は見えねぇ埃だって出てくるかもしれねぇ。
いずれにしろ奴さんたちゃ、てめえの首を守ることに精一杯になり、省益だの私腹だのを肥やす暇はさっぱりなくなるだろうぜ。
……という訳でわりいが、それでチャラってことにしてくれや。
待て。よく考えろ。仮にも我が国は法治国家だ。他にいくらでも告発する方法はある。なにもおまえが辞めることはあるまい?
ああ……いやそれだけが理由じゃねぇんだ。
あんだけ叩いたんだ。狂暴なクゥダフどもだって2、3年は大人しくしてるだろう。この国はしばらく安泰だ。そうなりゃ、オレみてぇな古参の軍人は飼い殺しよ。
だがよ。オレは代々軍人の転生。どうにも血の気が多くてかなわん。これだけ広いヴァナ・ディールだ。どっかに、そんなオレでも必要としてくれる所があるかもしれねぇだろう?
軍人の転生?
語り部じゃないから過去の記憶は無いよね。
前世からの知人が教えてくれたのかな。
オレは出奔しそいつを探して世界を旅してみるつもりよ。
……そうか。ならば、止めまい。
だが、いつか……もしも、我が国が存亡の危機に陥ったときは……ザザーグよ。必ず戻ってこい。
よせや。そんなことにはなんねぇよ。お前がいる限りな。
ふっ……キザな台詞は似合わんぞ。
さらばだ、ザザーグ。
ああお前も達者でな……。
ザザーグ隊長!
おう、どうした?みんなで血相変えてよ。
だって基地ではザザーグ隊長の噂で蜂の巣をつついたみたいな騒ぎですよ!
どんな噂だ?
その……ザザーグ隊長が、除隊されたって……。
ザザーグさんすんません。ほんと、アホらしい話で。きっと、この間の掃討作戦の大勝利を妬んでいる他の銃士隊が流したに違いありませんぜ。
ガハハハハッ!まったくだ……。連中、喜んでるだろうなぁ。
でしょう?今度、あいつらきっちりしめてやりやしょうぜ。
何だかこの人すごくべらんめえ口調?
だがよ……辞めたってなぁ、本当よ。
ええ、分かってやす。冗談にしちゃタチが悪いと……ええっ!?
やっぱり!
なぁに、驚くようなことじゃねぇ。前から省の偉いさんたぁソリがあわなくてな。ついさっき、辞表を叩きつけてきたところよ。
そんな!なんでなんです!?
あ、兄貴ィあっしらはどうすりゃいいんで!?
おいおい、なに情けねぇこと言ってんだ。
兄貴……そういやぁ、アイアンイーターの野郎と会われるって……なにか関係が?
バカいうな。奴ぁ関係ねぇ。オレが1人で勝手にしたことよ。
し、しかし……。
……ザザーグ隊長もう、決められたことなんですか?
ああ。お前らにはわりぃがな。
いってぇこれからどうされる、おつもりで?
……「沈黙の大国」って、聞いたことあるか?
へい、大戦時大兵を抱えながら我が国を見捨てたって近東の国……死んだ爺の口癖でやした。あの国だきゃあ、許せねぇって……。
オレはとりあえずそこに行ってみるつもりよ。
兄貴!そいつぁなんねぇ。最近も、あの国からはどれもキナ臭ぇ話ばっかり聞こえますぜ……。
だから、行くのよ。そこには抵抗する力もなく苦しんでいるヤツが絶対にいる。オレの力でも1人や2人ぐれぇの命は救ってやれるかもしれねぇ。
……分かりやした。仕方ねぇ、兄貴。では、あっしを連れてってくだせぇ。
じ、自分も!
バカ野郎ぉお~!!!お前らには守んなきゃなんねぇ家族があんだろうが?この国を守るのは義務ってもんだ!
それにオレの帰るところがなくなっちまったら困るだろ?
は、はい隊長っ!
おう、それでこそバストゥークの輝ける剣、黄金銃士隊だ。オレも安心して出立できるぜ……。
あばよ!
…………。