
……はぁぁぁあぁぁ。
また深刻そうだわね。

ああ、誰かと思えば、付き人君ですか。しばらくですね……。
深いため息ついてどうしたの?
ええ?浮かない顔をしてるって?そりゃそうですよ。ちょっと聞いてくれます?
うん。

わたくし、今まで五蛇将の皆さまをテーマに詠ってまいりました。ん、四蛇将だっけ?ま、どっちでもいいや。
テキトーだなぁ。
結局ミリの歌も作ったのね。
一体どういう内容になったのか…。

オッカケたちも、新作を発表するたび、大喜びしてくれたものですが……けど……けれどね……あれを見てくださいよ!
あれ?





なんか、イケメングループとファンが。

彼ら、わたくしの詩をリスペクト……オマージュ……いや、そんな可愛いもんじゃない!

有り体にいうとわたくしの詩をパクって、無断でコンサートを始めやがったんです!
ええ!?それは訴えないと!

……ああ、もうっ!ファンの子たちときたら、あの甘いマスクと切ないボイスに、ものの見事に騙されてっ!情けないやら、口惜しいやら……
確かに、タルタルには無理なジャンル…。

よしよし。

おい……。
ん?誰だ?

嗚呼ッ!天才の最期は決まって悲劇!長らくご愛顧を賜りました、不世出の大詩人ファリワリ物語も、これにて閉幕です……

そうか、やはりお前がファリワリだったか。評判どおり口から出まかせのお調子モンのようだな。

……で、ということはお前がりぃ、だな?
ん?うん。

彼女は、わたくしの付き人です……用があるなら、主であるわたくしに話しなさい。

そうか。少々相談したいことがあってお前たちをさがして……

却ッ下!!
聞く前に却下した!
わたくしは、吟・遊・詩・人!詩作を糧とする、高尚にして崇高なジョブなのです。下世話な悩み事なら、チャイでも飲みながらここの亭主にでも相談すれば、よろしい!

じつは……相談というのは他でもない。炎蛇将こと、ガダラル将軍についてなのだ。
無視して話し出した。

ガ、ガダラル将軍ですって?

周知のとおりガダラル将軍は、なんと申せばよいかこう無鉄砲というか、向こう見ずというかやや血の気が多いきらいがあられるだろう?
この人きっと、ガダラルの副官よね。
常にえげつない苦労してそう…。

たしかに!わたくしなんか、取材中にファイガでお尻を真っ黒焦げにされたんです。おのれェ!あの時の痛み、許すまじ!







前も言ったけど、一般市民になんてことを。

そ、そうか。そりゃ、災難だったな。ともかく、将軍のそのような攻撃的な言動は我が軍でも問題として浮上してはいたものの……その輝かしい戦功と小まめな天蛇将のアフターケアによって事件の都度、始末書程度で許されてきていたのだ。
天さんすごい。
だが、このたびついに、軍上層部の堪忍袋の緒が切れてな。これまでの将軍の所業、一切合財まとめて査問にかけられることになってしまったのだ……。
あらまぁ。

うしし……ま、あの素行だし、自業自得ですよね~。
あまりフォローできない。

それに、あの粗野なご気性が災いしてか、聖皇さまのお膝元である皇宮ですら、擁護してくださる、御仁は少なくてなぁ。他の五蛇将の皆様は各方面にいろいろ働きかけてくださっているのだが……
焼け石に水、ですか?

然様。なにしろ、当のガダラルさまが、ご自身の評判などどこ吹く風。自重されるどころか……近頃などは深夜、人目を忍んで街の外に出かけているという、まことしやかな噂まで……。

はて、街の外とは奇妙な……あっ!まさか、やんごとなき身分の御婦人に横恋慕しこっそり林中で逢い引き、なんてことは……!?

いや、あのガサツで無愛想なガダラルさまに限って、それはあるまい。
ヒドイ。

……それよりも、お前「東方の烏」について、聞いたことがあるか?
……烏?なんです、藪から棒に?キジとかいう美味な鳥の話なら東方の旅絵師に聞いたことありますけど……
いや、鳥は鳥でも鳥人。つまりは、東方の獣人だ。最近、よく耳にするだろう?夜警が何者かに襲撃されたという事件の話を……

これはまだ公にはしていないが…目撃報告によると、その下手人の姿が、件の東方の鳥人に、酷似しているとのことでな。
……ああ、そうか、鳥人って、ヤグードのことですか!なるほど、それでガダラル将軍は東方勤務が長かったから内通の嫌疑をかけられている、というわけですね?
ファリワリも中の国出身だから、おなじみだよね。
話が早いな。……残念ながら、そのとおりなのだ。

確かに、普段の言動からも察せられるとおり、ガダラルさまの愛国心は他の将軍に比べて、少々低いかもしれぬ。だが、副官の私にはわかる。ああ見えて、ガダラルさまは義侠心に篤い御方。仲間を売るような行為だけは、絶対になさらぬ……。

まして、味方の兵士に手をかけるなど、断じて、あり得んのだ!
部下を逃がすためにしんがり務めてしまうくらいだものね。

おお……
熱さに心打たれてる。

……そこで五蛇将さまたちの信頼厚く、かつ怪しまれることなくガダラルさまに近づける、お前たちにぜひ頼みたい。

査問会までにガダラルさまの、無実を証明する決定的な証拠を掴んできてもらいたいのだ。
……なるほど。

……よろしい。このファリワリ、そして付き人、りぃ。一肌脱いで差し上げましょう!
本当か?恩に着る!

ガダラルさまは、街を出た後、どうやらゼオルム火山に向かっているらしい。
ゼオルム火山……?やだなぁ、遠いしぃ~、トロールもいっぱいだしぃ~…………

……ここはひとつ、付き人君!
デスヨネー。

……なーんてね。ふふふ、いつもどおり、きみに丸投げだと思ったら大間違い!今回は、わたくし自ら骨を折りますよ。
えっ!?
なんせ、五蛇将のひとりガダラル将軍の弱みをにぎるチャ……じゃなくって恩を売るチャンスかもしれないですし……それに、いつぞやの火傷の恨みをはら……じゃなかった詩作に生かさない手はないでしょう?くくっ……くっくっくっく……。
邪悪な笑いが出てるよ。

……?じゃあ、頼んだぞ。私も任務の合間を縫って、ここに来よう。進展があれば、知らせてくれると助かる。
無論ですとも!

それでは、付き人君!ゼオルム火山まで競争するとしましょう。ハルブーンへつづく、細い小道、知ってるでしょう?あの辺りがゴールです。よ~い、ドンッ!