それぞれの死地へ 其の参

ヴェラニス ここだ!

ヴェラニスがいた。
ラーアルどこだろう。

りぃ ヴェラニス大丈夫?
ヴェラニス りぃか。どうやって、ここに来た?

ヴェラニス まあいい。ここの天井の排気口に、ゴブリンのものと思しきワイヤーロープが引っかけられていた。おそらく、侵入者はそこから入り込んだのだろう。いや、待てよ。あるいは、そこから出……!?

あっ、向こうにあるのが攻城兵器?
クゥダフが持ってたものと形が違うけど、同じような兵器なんだろうな。

ヴェラニス なんだ、この音は?

なんか、機械音みたいのがする。

ヴェラニス あの「山車」の中から聞こえるぞ。

開いた。

あっ、ゴブリン。

あっ!?

ヴェラニス オーク兵!我が軍の工兵の目は節穴か!?やはり、あの攻城兵器の中に敵が潜んでいたのだ!

あの中にこんなに入ってたの!?
ギチギチでは!!

さすがにここに運んできた時は空だったけど、さっき言ってたワイヤーロープで降りてきて隠れたのかな。

ヴェラニス ん、オーク語でなにか話している……。

いや、丸見えやん!!
もっと隠れよう???

ヴェラニス 作戦……毒煙……
りぃ 分かるの?

??? : ……しくじりおって。この馬鹿どもが!我が軍の兵糧不足は深刻だ!食糧のある場所には毒を撒くんじゃねぇぞと、あれほど……

ゴブリン お言葉ですが敵の兵糧もしくは水を絶つのは要塞攻略の常套手段であります。
ゾッグボッグ ケッ、傭兵風情が!このオレサマに作戦講義をたれるたぁ……

この物言いは…。

ゾッグボッグだー!

ゾッグボッグ ゲフッ!

まごうことなきゾッグボッグだー!!

ゾッグボッグ チクショウ!このポンコツが!

いや、自分で足踏み外しただけでしたよ?

ゾッグボッグ ゴフッ!!

八つ当たりで板を叩き地面で跳ね返って顎に直撃し吹っ飛ぶという流れるような一連の動作。
素晴らしい…。

ゴブリン ゾッグボッグ様。こいつは廃材で作らせた、粗雑な贋物。立て付けも悪いので、ご注意ください。

もう慣れてるな。このゴブリン。

ってか、これは実戦で使われてるものじゃないのね。
オープニングムービーで出てきたあの超でっかい戦車をもう作ってて、それの応用で作ったって感じなのかなぁ。

ゾッグボッグ ええい、うるさい!んなこたぁ、わかってる!!

ヴェラニス ゾッグボッグ?どこかで……。

ヴェラニス そうだ、捕虜が言っていた。オークの第三軍団ドッグヴデッグ配下で最近、急に頭角を現した軍師だ。

ゾッグボッグ 次はヘマは許さんぞ!
ゴブリン お任せください。すでに発煙箱を携えた手下が配置についております。

えっ、やばくない?

ゾッグボッグ 忘れるなよ。我々だけでこの要塞を陥とすことに意義がある。そうすりゃ、恩賞も思いのままだということをな!

ヴェラニス ……まずい。敵はまた煙毒を使う気だ。すぐに戻り要塞司令に報告せねば。
りぃ うん。

急がないと。

ん?
ラーアル?

ラーアル ヴェラニスさーん!どこですかー!?

げえっ!?
なんてこと!!

ヴェラニス ……ラーアル!?しまった!

ゾッグボッグ (……チャズゲック!)まずい、嗅ぎ付けられたか!

ラーアル ……オ、オーク兵!どうして、こんなところに!?
ゾッグボッグ (ゲシュデック!!)

ラーアル くっ……僕は鷲獅子騎士団長ラーアル!お、オークども、覚悟しろ!

一目散に逃げなさいよ!
そうじゃないから王立騎士団団長までなったんだろうけどもっ。

ヴェラニス ラーアル!

ラーアル ヴェラニスさん!りぃ!
りぃ 大声出しちゃダメよ。

ゾッグボッグ (ヴェグロック……!)あのガキ、仲間がいやがったか!しかも、待てよ。あの騎士以外は見覚えがあるぞ……

ゾッグボッグ 思い出したっ!またしても、貴様らかッ!!いつもオレサマの邪魔ばかりしやがって……。

ゾッグボッグ だが、それも今日までだ!野郎ども!防毒マスクの用意はいいな?

攻城兵器(ハリボテ)思ったよりもでっかいな。

ゾッグボッグ よし、行ってやつらを八つ裂きにしてやれ!

ゾッグボッグ グフフフッ!モブリンから製法を教わった毒煙の恐怖。貴様らに、たっぷりと味わわせてやるわ!

モブリンから教わったの。

ヴェラニス ゴホッ……

ああっ、毒ガス追加は致命傷になってしまうっ。

ヴェラニス ラーアル。私とりぃが時間を稼ぐ。君はディオルディンにこの状況を伝え、潜んでいるゴブリン傭兵を探すように言ってくれ。
ラーアル そ、そんな!僕は騎士です。ここで共に楯を並べて戦います!

ヴェラニス ラーアル!騎士とはなんだ!?

ラーアル え!?き、騎士とは名誉と勇気を重んじ槍と剣に……

ヴェラニス 違う!騎士とは……大切な人を護らんとする楯だ!誰かが伝えねば毒煙の新たな犠牲者を止める手立てはないんだぞ!

ラーアル ……。

ヴェラニス さあ、行け!

ラーアル ヴェラニスさん。りぃ。死なないで!

ヴェラニスの命を賭した教えは深く刻まれたに違いない。

ヴェラニス ゲホッゲホッ……。すまない、りぃ。こんな危険な戦いに付きあわせてしまった……。
りぃ いいってことよ。

ヴェラニス 正直に白状するともう私には走りまわるだけの体力すら残されていないのだ……。
りぃ えっ、そんなに…!?

ヴェラニス だが、オークどもの注意を引き付けることぐらいはできよう。

ヴェラニス 君は、その隙になんとか、あの「山車」を破壊してほしい。なんとしても、あの毒煙を止めるんだ!
りぃ わかった。

ヴェラニス ありがとう。どうやら、ラーアルたちはかけがえのない友を得たようだな……。

あああ、えぐい量の毒ガスが。

ヴェラニス よしっ、行くぞ!!