ここは番犬横丁。オークの捕虜を見物に訪れたのか?
オークの捕虜?
あれがそうだ。王立騎士団が捕らえてきた。あのように牢に入れ、見せしめにするのだ。
見せしめに…。
そういえばあのオーク、妙に人間の言葉が巧いと評判だ。希望するなら見物を許すが?
いいの?
残って敬礼した人が話してるや。
(チッ、人か……)
えっ。舌打ち?
オ、オイッ、待ちやがれ!話は終わってねぇぞ、ダルヴィーユ!
明らかに聞かれたらまずいこと話してましたね?
おッ……?そっ、そこの優しそうな方!オレサマの……いや、ワタクシの話を聞いてもらいたい。
突然、こんなこと 話したところで、信じてもらえぬのは覚悟の上だが……ワタクシの本当の姿はエルヴァーン……オルシャー家ゆかりの者だ。
えぇ…?
オルシャー家?
……ある魔女に呪いをかけられ、こんな醜い姿へと変えられてしまった。
魔女ぉ?
これを見てくれ。誇り高きわが血筋、オルシャー家の紋章の入った指輪だ。わが家系を証明する唯一の証……。
指輪に、一角獣の紋章が刻まれている。
オルシャー家の家紋が何なのか知らないから判別できないなぁ。
さきほどの神殿騎士、慈悲ぶかきダルヴィーユ様はワタクシの話を信じてくださった。そしてこともあろうか牢の鍵束を、ワタクシに預けてくださったのだ。
えぇ!?
みずからのお立場も顧みず、せめてひと目、家族の顔を見ることを許しましょうと……。
ってか、流暢に話すなぁ。
元人間って本当…?
ワタクシはダルヴィーユ様の慈悲に応えんがため、牢を出ることを決意した。そして牢の鍵を開けるべく格子の外の鍵穴に、手を伸ばしたのだが……
忌々しきオークの腕のなんたる太いこと!鍵穴に手が届かぬではないかっ!
なんたることたる。
ううっ……。決して逃げたりなどしない……。ワタクシの代わりに、貴方がこの鍵で牢を開けてくれないか?
半信半疑だけど、開けないと進めないから開けちゃうよっ。
チラッ…。
コソコソ。
……感謝する!
牢の鍵束はワタクシが返しておこう。貴方が持っていれば脱走を手伝ったと誤解されるかもしれぬ。
うん。
では、ワタクシは騒ぎが起こる前に、ここを去ることにしよう。
おお、アルタナの子よ!かなうことなら元の姿で貴方に会いたかった……!
プリズムパウダー持ってるんかい!
さっきのダルヴィーユがカギと一緒に渡したのかな。
珍しいオークだっただろう。人間さまの言葉を、いったいどこで覚えたのか……。
ば、バレテナイ!