忌むべき神と会話を交わしたのだぞ!これ以上の証はあるまい!
怒ってる。
あのバハムートという真龍の王がここタブナジアに現れたのも、プリッシュがタブナジアに生まれたからだとすれば納得がいく!
いやぁ、エシャンタールがバハムートたちにとって帝龍の飛泉が定めの地って言ってたから、プリッシュ全く関係ないのでは。
やはりプリッシュこそがすべての元凶なのだ。もしやタブナジア侯国が獣人どもに滅ぼされたのも……
えぇ…?
暴論が過ぎる。
おじいさま、すべてをプリッシュのせいにするような愚かな真似はおやめになってください。
あの忌むべき神の像に触れても、悪い心に支配されることがなかったのはプリッシュが良き心の持ち主だから……。それに、プリッシュはタブナジアを救おうとして、ああ無茶をしたのです。
本当に、タブナジアを救おうと思っているのか怪しいものだ。
タブナジア侯国が存続していれば、その子がなんのために生まれたのか、なにを企んでいるのか、神学者さまがたが突き止めていたものを。
じいさんやべぇな。
ああ、やはり、ナグモラーダ様にすべてを打ち明けるべきだったか。心象悪くならんかと伏せたのは、あやまちだった。あのお方ならおそらく、真実を突き止めてくださるはず……。
そんな!おじいさま、お忘れになったのですか?
今まではタブナジア存続のためにプリッシュの力が必要不可欠だったから抑えてたけど、ジュノの助けを得られたから安心して、20年間の不満や恨みつらみが溢れ出て、すべてをプリッシュにぶつけているのかな。
ミルドリオン枢機卿さまがおっしゃっていたではないですか。プリッシュは忌むべき子だったかもしれない、けれど大聖堂の力で生まれ変わった……と。
ウルミアよ、ミルドリオン枢機卿のことは、もはや信じられる存在ではなくなったのだ。
聞けば、かの枢機卿は今や、サンドリア大聖堂に追われる身だというではないか!?
そ、それを誰から!?
あっ、玉にキズなほど熱血漢な、フランマージュの孫だー!
誰だ、てめぇ!?
ルーヴランス・ミスタルと申します。失礼だとは思いましたが、今までのやりとりはすべて聞かせていただきました。
紹介しよう。サンドリア大聖堂から、ミルドリオン枢機卿を探すように命じられ、飛空艇でいらした騎士殿だ。
ルーヴランス……?その名はたしか……サンドリアで……?
ヒナリー夫人のもとを訪ねていらっしゃったのは、あなたですか。ならば、ある程度の話はご存知ですね。
20年前の大戦終了間際、サンドリア大聖堂より多大なる蔵書、書簡が消失した事件がありました。
しょうしつ…。
まさかどっちか誤字だったりする?
えらい違いだけど。
焼けたので正しいのか、誰かが持ち出したってことも?
でも「多大な」だから、焼けて無くなったってのが順当かなぁ。
その事件は、時の教皇ムシャヴァット枢機卿を死へと追い込んだ。サンドリア大聖堂は、ミルドリオン枢機卿がこの件に関係していると見ております。
なんだって?ミルドリオン様が!?まさか!?
まさかか、まことか。それを明らかにするためにも、ミルドリオン枢機卿のことを詳しく覚えている方を探しておりましたが、ようやく意味のある話をきけそうですね。
プリッシュさんの身、私がお引き取りいたしましょう。先ほどの話を聞くに、彼女の件、あなたがたには荷が重過ぎましょう。
うむ……サンドリア大聖堂の方がそうおっしゃるのならば……確かに断ることはできぬが……。
タブナジアにプリッシュの謎を解明できる人も物もなさそうだし、長老や年寄りがいる限り酷い目に合わされるのが分かり切ってるから連れ出した方がいいよね。
そんな……!?
ウルミア、ちょうどいいさ。たしかに俺のことはそろそろはっきりさせなきゃなんねぇ。
きっと自分でも気になってるよね。
それにこれ以上、みんなの心が、疑いと迷いと恨みでぐちゃぐちゃになっちゃあな。
けれど!
でも、ルーヴランスってやつ。俺はこいつらと一緒に、北の方にある遺跡ソ・ジヤに行かなきゃならねぇんだ。その約束を破るわけにはいかねぇぜ。
そうでござる!ジュノの外交官ナグモラーダ殿の要請にて、プリッシュ殿は我らとともに、北方へと向かわねばならぬのでござる!
ナグモラーダ殿の任務はヴァナ・ディールすべてを救うがために重要なもの!いくらサンドリア大聖堂の意志とはいえ、勝手は許されぬでござるぞ!
ナグモラーダ様がそのように?それはまた……、弱りましたな……。
なるほど。では、こういたしましょう。そのお話も、ミルドリオン枢機卿様のお話も、まずはざっと船内で聞かせていただきましょう。
その後で、そちらの件がより重要だと判断できましたら、プリッシュさんを北方へお送りいたします。
ならば、ルーヴランス殿、我輩も同乗を願い出てもよろしいな!?ひんがしの国の使者としてサンドリア国王様、教皇様に謁見せねばなりますまい!
もちろんです。では、船着き場でお待ちしております。
テンゼン、プリッシュを監禁させないために付いて行くんだな。
プリッシュさん、あなたが物分かりのいいお嬢さんで助かりました。では、皆さんとお別れをしておいでなさい。
プリッシュは全くわがままじゃないんだよね。
常に周りの人の事を思って行動してるし、だからおとなしく軟禁もされるし…。
しかしルーヴランス、冷静よね。
玉にキズなほど熱血漢な感じがしないんだけど…こういう場だからなのか、騎士団の人が大袈裟だったのかしら。
ルーヴランス様が、プリッシュを引き取ってくださると聞いてほっとしました。
でしょうね。
サンドリア大聖堂で面倒を見てもらう方が、プリッシュ自身のためにもなりましょう。
ここにいてもろくな目に合わないのは明白だけど、サンドリア大聖堂は…うーん。
王家の方か、天晶堂とかに行けた方が良い気がするけど逃がしてもらえないだろうなぁ。
それはそれとして、ミルドリオン枢機卿様がサンドリアにて罪を犯して逃亡なされていたとは、露ほどにも思いませんでした。
関係している見込み。ってだけで、決定じゃなかったよね。
あれほど立派な方でも、罪を犯すのです。人の心とは不思議なもの。皆いつ、突然変わるかわかりませんな……。
こうも簡単に初対面の人の話を信じて…しかも勝手に誇張して…。
あれだけタブナジアのために頑張ってきたプリッシュを酷い目にあわせて。
信じたいものを信じた結果なんだろうけど。
自分はこういう思考に陥らないように気をつけよ…。
ー 海獅子の巣窟前 ー
りぃ殿、これより我ら、ルーヴランス殿の飛空艇にてサンドリア大聖堂へ向かうでござる。そなたも同乗できぬものかと尋ねてみたのでござるが、体よく断られてしまったでござる。
えぇ、なんでぇ。でも頼んでくれてありがと。
どうして乗せてくれないんだ!
しかし安心するでござる。我輩、なにがあってもプリッシュ殿から決して目を離さんでござる。
お願いね。
それに万が一、サンドリア大聖堂がプリッシュ殿を手放すこと渋るなどしたときは、ひんがしの国の力をもってでも……。
テンゼンこんなに頼もしかったっけ。
ただ憂慮すべきは、あれからずいぶんと時を経てしまったことでござるな。あの少年、取り逃がすことにならなければよいのでござるが……
本当だよ。
とっくに用事を済ませて他の所に行ってるのでは。
さぁ、準備は完了しました。行きましょう、皆さん。
うむむ?ウルミア殿は、どうしたでござるか?船旅をともにせぬのでござるか?
ウルミアさんはタブナジアに残られますよ。彼女からは既にお話を聞かせていただきましたが、気になるようなこともありませんでしたし……
デスパシエール老が見送りもお許しにならなかったのです。よほどご心配なのでしょう。
たしかにこの先、どのような危険が待っているか知れぬでござる。うむ、それが良いでござろう。
……うーん。やっぱりウルミアは来ないのか。もう二度と会えないのかなぁ。
元気を出すでござる、プリッシュ殿。人は皆、歩むべき道が違うものでござる。しかし、進むべき方向さえ同じならばまたきっと……
でも俺はしょーじき言うと、ござるのおっちゃんより、ウルミアといっしょに行きたいんだよー!
な、なんと!?正直すぎるでござるな!?
良いコンビだな!?
じゃあなー、みんな!元気でやれよー!
どんな時も明るくふるまうプリッシュ…。
待ってください!
おお!
お? お?
私も連れていってください。ミルドリオン枢機卿さまから教わった歌、まだお聞かせしていませんでした。
おおお!
きっとその歌も、重要な手がかりになると思います。
それはおもしろい。……行きましょう、歓迎しますよ。
こんなこともあろうかと伏せていたのか!?
やるなウルミア!
ウルミア!やったぁ!来てくれて嬉しいぜ!
プリッシュ、ごめんなさい、私……。あなたにはすべてわかっているわね。でも言葉にするわ。
プリッシュ、私は、あなたのように不思議な力がない。だから、あなたのことがわからない……。わからないことだらけだわ……。
でも、だからこそあなたと一緒に行きたいの、プリッシュ。あなたの歌を歌いたいから。あなたは私に、歌のある世界をくれた人だから……。
へへへ、ありがとよ、ウルミア!じゃあ、行こうぜ!
よかったよかった。
では、りぃ殿。先に、サンドリア大聖堂でお待ちしているでござる!
うん。
本当に…置いて行かれてしまった……。
なんで乗せてくれないのよー!!